2017年04月27日 | 宮永 明子

子どもの頃から憧れていた宇宙開発を赤平で実現「植松電機」社長植松努さん

赤平市にある植松電機 社長、植松努さん
 
誰もが子どもの頃に、一度は宇宙やロケットに憧れますよね。その夢を叶え、下町ロケットどころかロケットをまるごと造り、宇宙開発に携わる会社がここ北海道にあります。なぜ、“北海道で宇宙開発”なのでしょうか?赤平(あかびら)市にある植松電機の社長、植松努さんに会いに行ってきました!
 
北海道の空知地方中部にあり、かつて石炭産業で栄えた赤平市。人口およそ一万人の町の工業団地で宇宙開発・研究をしている会社が株式会社 植松電機です。


赤平市にある植松電機の社屋▲株式会社 植松電機の社屋

 
もともと、建設機械用アタッチメントの電磁石製造・販売の会社ですが、大学で流体力学を学び、名古屋の航空機設計企業で経験を積んだ社長の植松努さんが、憧れていた宇宙開発・研究も行っています。

 

憧れていた宇宙開発を地元、北海道赤平で実現

  赤平市にある植松電機。植松努さん。株式会社植松電機 代表取締役、株式会社カムイスペースワークス代表取締役、NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)理事▲植松努さん。株式会社植松電機 代表取締役、株式会社カムイスペースワークス代表取締役、NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)理事

 
宇宙開発への転機は2004年。ロケットは危険だから作ってはいけないと思っていた植松さんの心を動かしたのは、危険物を使わない「カムイ型ハイブリットロケット(以下、カムイ型ロケット)」の研究を進める北海道大学大学院の永田晴紀教授との出会いでした。
 

赤平市にある植松電機のカムイ型ハイブリッドロケット▲カムイ型ハイブリッドロケット(イメージ画像)(写真提供/株式会社 植松電機)
 
 
「カムイ型ロケット」は、固体燃料にレジ袋などにも使われているポリエチレンを、酸化剤に液体酸素を使い、発生した燃焼ガスを噴出する事で推力を得ている安全・低コストのロケット。万が一、不具合が起きても燃焼を中断する事が出来、飛び散った燃料が二次爆発を引き起こさず安全です。
 
植松さんは、「カムイ型ロケット」研究の全面支援を約束し、その翌年には共同研究を開始。第三工場を建設し研究開発拠点を強化しました。
 
 
赤平市にある植松電機のカムイ型ハイブリッドロケット▲汗と努力の賜物「カムイ型ハイブリッドロケット」(写真提供/株式会社 植松電機)
 
 

世界に3つしかない「微小重力実験塔(コスモトーレ)」

2006年には宇宙空間のような環境で起こる現象について実験するための施設「微小重力実験塔(コスモトーレ)」を敷地内に造り、低コストで繰り返し実験出来るようにしました。
 

 赤平市の植松電機にある微小重力実験塔(コスモトーレ)▲コスモトーレ。建屋の中にある赤いカプセルを高さ50mから自由落下させることで、カプセルの中がおよそ3秒間の微小重力環境になります(写真提供/株式会社 植松電機)
 

宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)はもちろん、国内外からもこの施設を使うために企業などが訪れ、今、世界で最も稼働している施設となっています。

 

加速する宇宙開発

同じ年、北海道初となる道産人工衛星「HIT-SAT」の開発に携わり、打ち上げに成功。株式会社カムイスペースワークスを設立し、代表取締役に就任しました。その後、カムイ型ロケットの打ち上げ実験を重ね、2011年、ついにカムイ型ロケットの打ち上げを実施し、パラシュートの二段開傘に成功しました。


赤平市にある植松電機が開発に携わった超小型人工衛星「HIT-SAT」▲北海道の産学が連携して作った超小型人工衛星「HIT-SAT」(写真提供/株式会社 植松電機)

 

ロケットで月探査が目標!

──カムイ型ロケット運用の目標は?
現在の目標は惑星探査です。衛星軌道投入は出来そうなので、今度は惑星探査を目指しています。衛星軌道投入は秒速7.8キロで出来て、さらに、地球の引力圏を振り切れるだけのスピード秒速11.1キロまで加速出来れば惑星探査が出来ます。秒速11.1キロが今の目標です。惑星探査はまずは月ですね。
 

赤平市にある植松電機。ペーパークラフトロケット「C75B3F4」の説明をする植松さん▲ロケットに搭載する機材の動作確認を行うため、実際に使っているというペーパークラフトロケット「C75B3F4」の説明をしてくださいました
 
 

なぜ、北海道で宇宙開発なのか?

──北海道で宇宙開発をする意義を教えてください
会社で宇宙開発が出来るようになって、世界中から色々な人たちが実験に来るようになり、さらに今では年に1万人もの子どもたちが修学旅行や見学旅行に来るようになりました。


​赤平市にある植松電機。コスモトーレ見学の様子▲初めて見るコスモトーレに子どもたちは興味津々です(写真提供/株式会社 植松電機)

 
宇宙開発の一番の目的は、“世間には夢を諦めさせようとする人がいっぱいいるけどそんな人たちに負けないでね”ということ。
 
例えば、子どもは病院で助けられた経験をすると、大切な人を助けるため「医者になりたい」と一回は思うもの。そんな時、親や教師などの大人が「医者はとても頭が良くないとなれないし、お金もとてもかかるし…」と言って、子どもは「そうなんだ、出来ないんだ」と諦めてしまうケースがとても多い。


赤平市・植松電機の体験学習で話す植松努さん▲体験学習の講話のテーマは「思うは招く。夢があればなんでもできる」です(写真提供/株式会社 植松電機)
 

自分自身の中学時代の経験から、大人の何気ない一言で子どもの将来の芽を摘むことを減らしていきたいと思った。“夢を思い続ければ実現する”ことを子どもたちに身をもって伝えたかったから、到底、出来っこないと思えるような宇宙開発をここ北海道赤平で行っているのです。

 

チャレンジすることの大切さを感じてほしい

赤平市にある植松電機。体験学習のロケット打ち上げ▲モデルロケットが打ちあがると子どもたちは目を輝かせる(写真提供/株式会社 植松電機)
 

──体験学習を通して伝えたいこととは?
植松電機では、4月と6~10月まで月に一度、子どもたちが参加出来る「モデルロケット教室」を行い、実際のロケット工学・航空力学に基づき設計製作された模型ロケット(モデルロケット)を飛ばしています。
 
モデルロケットの製作から打上げまで、会社の模擬体験を通して、失敗を恐れずにチャレンジすることの大切さを感じてほしい。


赤平市・植松電機にある体験学習に参加した小学生からのメッセージ▲事務所の階段の踊り場には、体験学習に参加した小学生からのメッセージが飾られています
 
 

小さな単位で合理的な社会を作る「ARCプロジェクト」

──2010年から実験を行っている「ARCプロジェクト」とは?
「住宅に関するコスト1/10、食に関するコストを1/2、教育に関するコスト0」の実験を行うプロジェクトのこと。この先、合理的な社会を作るには、建物やインフラ、教育システムをどのようにすれば良いのかモデルケースを作っていきたい。


赤平市にある植松電機の敷地遠景▲会社の敷地内に一つの街をつくるイメージで構想を進めています(写真提供/株式会社 植松電機)
 

目標は人件費を下げる事。家のコストや教育費を下げることが出来れば、家のローンや教育費から解放され、人生が変わるのではないか?と考えています。
 
基本的に一番重要な技術は解体をしない家です。“国家の力”は、その国で暮らした人たちの血と汗と涙をいかに形に残すかということ。日本はローンが払い終わった家が、次世代が住むことなく解体され、また新しい家を建て、一からローンを払わなくてはいけなくなっています。これでは、社会資本が蓄積されていきません。解体しなくても良ければ、次世代は家に使うお金を他のことに費やすことが出来るので産業や知識がもっと発達するかもしれない。


赤平市・植松電機のARC棟▲会社の敷地内に作ったARC棟(写真提供/株式会社 植松電機)
 

まず小さな単位で合理的な社会を作るため、低コストの家をつくり、技術系の会社を定年退職したけど老後も研究開発したいという人に移住を呼びかけようと思っています。

 

いよいよ今年度、実現する“まったく新しい仕組みの専門学校”

そこに移住した人には研究開発の装置は全て貸し出し、研究し放題にする。そして、その人たちを先生とした専門学校を作れば、人件費をかけなくて済むのではないか?と思っているのです。


赤平市にある植松電機の社長、植松努さん▲次の目標を語る植松さん
 

様々な企業に協力してもらい企業の建物を利用し、校舎を建てず、生徒を動かす。企業が先生になり、オン・ザ・ジョブ・トレーニングをしながら働くために必要な技術や作法を経験出来る専門学校を作りたい。生徒にとってのメリットは一年間、様々な企業で経験出来るので、選択肢が格段に増える。企業にとってのメリットは新人教育をした後に辞められてしまうことがなくなることです。双方にメリットがあります。


赤平市・植松電機の社長室に飾られている体験学習に参加した子どもが作ったクラフト▲社長室には、体験学習に参加した子どもが作ったクラフトが飾られています
 

専門学校へ通うには一般的に授業料などで約250万円かかるが、この仕組みなら約50万円で出来そう。
もっと経験したくて、もう一年、通ったとしても100万円で済みます。しかもこの仕組みは中小企業がある町ならどこでも成立します。今まで、実験的に小さい規模で行ってきたので、今年から実際に生徒を募りたい。
 
“地域を支える人材を地域の企業が育てる”この仕組みは、ごく当たり前のこと。本来あるべき姿に戻そうと思っています。


赤平市にある植松電機の植松さん▲書籍に囲まれた空間で仕事をする植松さん

 

「モデルロケット教室」を全国で!

もう一つトライしようと思っているのは「モデルロケット教室」を全国で行えるようにすること。そのための教材を作るところから仕事にしていけないかな?と。


赤平市・植松電機の「ペーパークラフトカムイ(左)」とペーパークラフトロケット「C75B3F4(右)」▲カムイ型ロケットの厚紙製クラフト「ペーパークラフトカムイ(左)」とペーパークラフトロケット「C75B3F4(右)」
 

教材を作るためにはコンピューターとイラストが描けるソフト、プリンターがあればOKです。何らかの理由で退職した人たちの能力を活かす、セカンドチャンスとなる作業所を作りたいのです。

今年から札幌で実験的に行い、初めは僕らが学校で使っているロケットのキットを作ってもらったり、袋詰めしてもらったり、単純な作業から。次にロケットをデザインし、ゆくゆくは学校へ行ってワークショップを開いてもらうところまでを仕事としてもらえたらな、と。


赤平市にある植松電機のモデルロケット「α-5」▲植松電機オリジナルのモデルロケット「α-5」(写真提供/株式会社 植松電機)

 

教育は強烈な投資

──植松さんの人材育成の構想は素晴らしいですね
投資するところを考えると、今の状況でおそらく利率が良いのは人間でしょう。人材育成は倍、もしくは倍以上伸びますからね!いまどき、倍の価値が上がるような投資先はないですよ。だから教育は強烈な投資だと思っています。


赤平市・植松電機にある体験学習に参加した子どもが作った切り紙の折鶴▲体験学習に参加した子どもが作った切り紙の鶴
 
 

「僕には今の北海道はおっさんに見えるんです」

──植松さんといえば、TED×SAPPOROにも出演し、講演家としての顔も持っていますが、北海道を周ってどんなことを感じていますか?
色々なところへ講演に行くけれども企業の経営者向けの講演が一番つらい。変わろうとしていないような気がする。人口増加期から減少期へ大きなパラダイムシフトが起こっているのに、以前と同じことをしようとしている方々が多く、変化を認めたがらないのかもしれません。僕には今の北海道はおっさんに見えるんです、変わりたがらないおっさんに。
 

赤平市にある植松電機のモデルロケット▲社長室にはモデルロケットがずらりと並べられています
 

 「これから自動化が進んでどんどん仕事がなくなるよ」と言っても、「まさか」と言っている人がたくさんいる。未来を予測する力を持って他の人よりも先に考えることが足りないような気がします。そして、地方の会社がどれだけ国に貢献しているかもう少し光が当たれば良いと思うし、自分が日本国を形成しているという気概を持って、北海道経済を盛り上げていってほしいと思います。
 

 赤平市・植松電機社長植松努さん▲カムイ型ロケットの厚紙製クラフト「ペーパークラフトカムイCAMUI90P」と共に(写真提供/株式会社 植松電機)
 

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子どもの頃、お母さんが教えてくれた「思うは招く」という言葉を胸に、北海道で宇宙開発する夢を実現した植松努さん。これからも宇宙開発を通して子どもたちはもちろん、夢を実現しようとする人の背中を押してくれることでしょう。
 


関連リンク

植松電機が取り組んでいる教育活動のページ
NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)
植松社長のBLOG

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Writer

宮永 明子

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