このみずみずしい雰囲気でおばあちゃん??

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 10月のスタートから20%前後の視聴率を記録し、好調が続くNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』。ヒロイン・芳根京子の演技にも注目が集まっているが、彼女が「おばあちゃん」を演じていることに賛否の声が出ている。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんはどう考えるのか? 以下、木村さんが解説する。

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 去る2月28日、『べっぴんさん』がクランクアップを迎えました。約10か月に渡る撮影の最終日は、奇しくも芳根京子さんの20回目の誕生日。現場取材した人に尋ねたところ、涙いっぱいのフィナーレだったそうです。

 一方、放送中のドラマは3月9日の131話で、芳根さん演じる坂東すみれの娘・さくら(井頭愛海)が第一子・藍を出産。すみれはおばあちゃんになりました。

 つまり、「19歳の女優がおばあちゃん役を演じていた」ということ。現実では絶対にありえない「19歳のおばあちゃん」に、クチコミサイトやSNSでは「さすがに無理がある」という厳しい声があがりました。

ちなみに藍の母親となった井頭さんもまだ15歳ですが、ミドルティーン女優の母親役はときどき見られるので、「これはセーフかな」というムード。やはり19歳のおばあちゃんに対する厳しいコメントが目立つ形になっています。

 芳根さんは4月1日の最終回に向けて、およそ60歳までの人生を演じることが確定。実年齢の3倍であり、父親役だった生瀬勝久さんの実年齢56歳のよりも年上なのですから、いかに難しいチャレンジであるかが分かります。

◆隠しても漏れてしまうみずみずしさ

 もともと朝ドラには、「半年間の放送期間中に若手女優が成長する姿を楽しむ」という醍醐味があります。実際『べっぴんさん』でも、演技経験の豊富な谷村美月さんはさておき、芳根さん、百田夏菜子さん、土村芳さんの演技が回を追うごとに幅が広がっていると感じた人は多いのではないでしょうか。

 スタート前から「今回のメンバーは若すぎるのでは?」「演技経験が少ないのでは?」という声があった中、芳根さんたちは役の年齢を重ねるごとに、やわらかい表情やゆったりとした所作を増やすなどの繊細な演技で不安を払拭。さらに、スタッフによる演出やヘアメイクで、違和感なく年齢を重ねてきましたが、今回はカバーできる範囲を超えてしまったのかもしれません。

 キャストとスタッフ双方に努力と工夫の跡は見られますが、ここまでフレッシュな女優だと、どうしても「老い」や「衰え」よりも、みずみずしさが漏れ出てしまうもの。毎朝流れるオープニング映像で純白のワンピースに身を包み、裁縫箱のかごを抱えて楽しげに歩くイメージが、おばあちゃんになったすみれにも重なってしまいます。

◆女性一代記の適齢期は23〜24歳

 現在、朝ドラの主演女優は、『とと姉ちゃん』の高畑充希さんや『あさが来た』の波瑠さんら20代中盤が多く、ともに撮影当時は23〜24歳でした。

 一方、『まれ』の土屋太鳳さんと『あまちゃん』の能年玲奈さんは、芳根さんと同年代の19〜20歳で撮影に挑んでいましたが、両作とも現代劇であり、加齢の役作りは不要。『とと姉ちゃん』や『あさが来た』のような「“戦争前後を含む女性の一代記”を19歳で演じるのは難しい」というNHKサイドの見解が垣間見えます。

 ただ、これは裏を返せば、「芳根京子なら“戦争前後を含む女性の一代記”にチャレンジしてもいいのでは」という期待値が高かったということ。連ドラレギュラー経験のない百田夏菜子さんと土村芳さんをメインキャストに抜てきしたことも含め、「今後が楽しみな女優を育てよう」というスタッフサイドの親心が感じられるため、視聴者は「おばあちゃんには見えないけど、不思議と嫌な感じはしない」のです。

◆過去を見てもヒロインのバトンタッチは少ない

 過去を振り返ると、2011年の『カーネーション』では、ヒロイン・小原糸子の60歳までを尾野真千子さんが演じ、72〜92歳を夏木マリさんが演じました。「残り放送期間が1か月を切った段階でヒロインが変わって物議を醸した」ことを覚えている朝ドラファンは多いでしょう。さらに過去を振り返ると、1983年の『おしん』では田中裕子さんから乙羽信子さんに、1999年の『すずらん』では遠野凪子さんから倍賞千恵子さんにヒロインをバトンタッチしました。

 長い歴史の中でもヒロインのバトンタッチが少ないのは、「視聴者が主演女優に愛着を持っている」から。『べっぴんさん』も芳根さんから他の誰かに代わっていたら否定的な声が殺到していたかもしれないだけに、今回のチャレンジは正解なのかもしれません。

 今年4月スタートの『ひよっこ』は、東京オリンピックが開催された1964年からはじまる物語。ヒロインの谷田部みね子を演じるのは24歳の有村架純さんであり、“戦争前後を含む女性の一代記”ではないため、加齢に対する不安はありません。

 一方、今年秋スタートの『わろてんか』は、“戦争前後を含む女性の一代記”であり、現在18歳の葵わかなさんがヒロインの10代から50歳前後を演じることが予定されています。『べっぴんさん』と似た形だけに、再び加齢の問題と向き合うことになるでしょう。

 今後の朝ドラを占う意味も含め、芳根さんがどんなおばあちゃん姿を見せるのか。残り2週間の演技に注目してみてはいかがでしょうか。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。