4月。新学期が始まりましたね。
しかしこの春先、決意も新たに勉学に励む皆さんが戸惑うようなニュースがありました。
── 文部科学省の新学習指導要領で、小学校では「聖徳太子(厩戸王・うまやどのおう)」、中学校では「厩戸王(聖徳太子)」と表記の変更を検討 ──
しかし結局後日、小中学校ともこれまで通り「聖徳太子」に戻したそうですね。
朝食の席でそんな新聞の記事を読んでいたら、横から子どもたちが
「これってどういうこと?」
と質問してきました。
しかし何を隠そう、私は歴史が大の苦手です。武士の名前も年号も覚えられず、日本史の分厚い教科書を思い出すだけで気分が悪くなるくらい。
内心の焦りをひた隠し、その場しのぎの説明で乗り切りました。危ない危ない。
ここはひとつ、親の権威を保つためにも、こっそり歴史を学びなおしてみるか。
と決意も新たに、会社帰り駅近の書店に寄ってみたところ……
あったあった、歴史コーナーでは社会人が歴史を学習する本が人気なようです。
(知らなかったのは私だけか)
撮影協力 くまざわ書店津田沼店
その中でも特に目立っていた『いっきに学びなおす日本史』を手に取ってみます。
巻末のスペシャル対談ページをめくってみると……
これがめちゃくちゃ面白い。もしかしたら、この出会いが私の日本史デビューの指南役になってくれるかも!
というわけで、歴史の手っ取り早い学び方を聞いてみようと、この本の監修を担当された、歴史家の山岸良二先生にインタビューを申し込みました。
山岸 良二(やまぎし りょうじ)
歴史家。昭和女子大学講師、東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師、習志野市文化財審議会会長。1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。NHKテレビ「週刊ブックレビュー」、日本テレビ「世界一受けたい授業」出演や全国での講演等で考古学の啓蒙に努め、近年は地元習志野市に縁の「日本騎兵の父・秋山好古大将」関係の講演も多い。『新版 入門者のための考古学教室』、『日本考古学の現在』(以上、同成社)、『日曜日の考古学』(東京堂出版)、『古代史の謎はどこまで解けたのか』(PHP新書)など著書多数。昨年発売、監修を務めた『いっきに学びなおす日本史』シリーズは、17万部を超えるベストセラーに。
歴史は暗記しなくてもいい?
山岸良二さんは考古学専門の歴史家。その語り口には定評があり、テレビ出演や講演会でも引っぱりだこ。教鞭歴40年以上の学校でも「山岸先生の授業はおもしろい!」と評判で、授業参観時には山岸先生の授業をひとめ見ようと人だかりができるといいます。
── こんにちは。早速ですが山岸先生、ズバリ、歴史はどうしたら覚えられますか。例えばこの足利氏の系図とか。
『いっきに学びなおす日本史 古代・中世・近世 教養編』(東洋経済新報社)より
いきなり、ストレートな質問ですねえ(苦笑)
でもね、歴史は暗記しなくていいんです。
── え!
歴史は暗記科目という印象があるのでしょうが、要は「流れ」でとらえればいいんですよ。
── 流れ…とはどういう意味でしょうか?
例えば、ご質問のこの系図。この中で重要なのは、尊氏と義満と義教の3人です。でも、3人の名前を暗記するだけでは、何の意味もありませんよね?
── た、確かに(汗)
名前だけを覚えなければと思うと苦になります。
でも、その時代に起きたことや人物のエピソードなどは、非常に興味深いですよね。ですので、その時代のエッセンスを少しずつ加えながら、史実を流れとして説明するわけです。
── なるほど。歴史をストーリーとしてとらえるのですね。
そうです。授業では場面ごとに深く掘り下げることはもちろんありますが、小・中学生には、まず物ごとが流れで動いていくさまを感じ取ってほしいと思います。
また足利氏から例を挙げてみましょう。
足利尊氏が開いた室町幕府。足利政権は一時代の隆盛を誇りました。
↓
しかし家督騒動から応仁の乱に。その混乱が次第に京都から全国に広まって、戦国時代に突入。
↓
上杉謙信や武田信玄など優秀な武将が次々出てきて、日本中が大混乱に。それを収めたのが、織田信長であり、豊臣秀吉でした。
↓
そして徳川家康が、秀吉の死を待って全国の支配権を掌中にし、鎌倉時代の幕府を真似て作ったのが江戸幕府でした。
── すごい!こうしてみると、とてもわかりやすいですね。
歴史を学べば、どんなことが起こるか予測できる
特定の用語や名前を暗記するのではなく、ひとつの大きな流れとして捉えられるようになってほしいですね。そうすれば、知識として身につくだけでなく、未来をも予測できるようになるかもしれません。
── 予測ですか?
「歴史はくり返す」。
よく聞く言葉ですが、歴史をさかのぼると、現在起こっている事象も歴史の繰り返しに過ぎないということが分かります。ビジネスマンに歴史書が人気なのは、仕事で対峙している様々な場面が「これは安土桃山時代に似てる、江戸の初期にそっくりだ」と、歴史を顧みれば対応策を考えられることが多いという点もありますからね。
── 対応策は歴史に学べということですね。すると、次にどんなことが起きるかも予測できると。
そういうことです。実は先日「都市部の震災」というテーマで講演を行いました。
── 歴史の先生が震災の講演を?
「歴史上に起きた地震から学ぶ」というアプローチです。
例えば、1596年の慶長伏見地震。近畿地方を襲った大地震で、京都や堺で1000人以上の被害者を出したと言われています。秀吉が地震対策に力を入れていた伏見城も崩れたのですが、真っ先に城に駆けつけ、中にいた秀頼らを救出したのは加藤清正でした。ではなぜ、加藤清正が最初に駆けつけられたのか、そして実際にその地震で、伏見城はどんな被害に遭ったのか。そういったことが、伏見城の発掘調査などでわかっています。ですから、過去の事例にならい対策を立てることは、古い歴史からも学べるわけです。
「3.11あれから6年 次の大地震・大津波に備えよう!!」講演会 の1コマ( 習志野市市民プラザ大久保)
── 歴史ってすごい!
ようやくわかっていただけましたか(苦笑)
日本の伝統行事は縄文時代から続いてる?
── ところで、歴史は小学生から学び始めるわけですが、彼らが身近なところで歴史に触れるには、どんな機会があるでしょうか。
縄文時代まで古くさかのぼるには、親子で貝塚見学はいかがでしょうか。貝塚は古代のゴミ捨て場とはいえ、当時の人々が残した貴重なものが貝殻と一緒に残されています。比較的全国に多数発見されていますので、皆さんがお住まいの地域にもあるかもしれません。
── そういえば、この近くにも貝塚の発掘調査現場がありますね。
習志野市藤崎堀込貝塚(写真提供:山岸良二氏)
貝塚からは土器や石器なども出土されますから、当時の人々の生活が推測できますね。今から7〜8千年前の人は、一体どんなものを食べていたのか? すると実は、貝や魚、肉など、現在私たちが食べているものとあまり変わらないことが分かります。調理方法も、肉は熱した石の上でステーキにして焼いていたし、貝はゆでていました。そしてもっと驚くのは、縄文人は貝が採れる季節をちゃんと見抜いていたということです。
── 潮干狩りのシーズンということですか。
そうです。潮干狩りは、縄文時代から続いている日本人の伝統行事というわけです。
── 急に縄文人に親近感を覚えてきました。
もっと身近なところでも、歴史を感じられることがありますよ。
というのは、歴史というのは
「歴」は「歴年」の「歴」
読んで字のごとく、人間が残してきた様々な足跡が、歴年で積みあがってくるという意味ですからね。お子さんにとっては一番身近なご家族が、歴史を学ぶうえで最も身近な例になります。
実は自分たちも歴史に関わってきた
── えっ。家族から歴史が学べるのですか?
例えば、今10歳のお子さんは、生まれてから10年しか経っていませんね。でもお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、さらにその先にひいおじいちゃん、ひいおばあちゃん…とご先祖がいるわけで、彼らが積み重ねてきたものは、いわば家族の歴史ですよね。そういう意識を持って、ご家族のことを知ってみましょう。人類は、ずーっと昔の十億年前からつながってきた。そして今のこの瞬間からその先は、あなたの将来、未来につながっていく。それも歴史になるんだよと。
── なるほど、それもひとつの歴史なんですね。
そうです。それが分かったら、次は最も身近な存在である、お父さんやお母さんご自身の人生について、お子さんに話してあげてください。そしてそこに、歴史的なエピソードをちょっぴり入れてあげればいいんです。
── ええと、例えば結婚したのはいつ頃なのか、という感じでしょうか。
そうですね。歴史のエピソードは、「お母さんとお父さんが結婚した年は阪神淡路大震災があって、大変だったのよ」という感じで入れるんです。すると、ご両親の結婚と歴史上に起こった出来事の年代が、何となくお子さんの中で位置づけられるでしょう。
家族のことではあるけれど、実は歴史の大きな流れの中に自分たちも関わってきたんだ、ということが、少しずつ感じられるようになるといいですね。
── 確かにそうですね。でも、家族にとっての記念の年に、歴史の出来事が何も思い当たらない場合はどうしたらいいですか?
決して歴史上有名な事件じゃなくてもいいんですよ。枝葉末節な小さなことでも、実は歴史上重要になったりもしますから。でも、30年以上生きてくれば、誰しも必ず何か、歴史的に意義あることとの出会いがあると思いますよ。これを機に、これまでの人生を振り返ってみてもいいですね。自分にとって重要な局面ごとに、世の中で起きていたことをお子さんと一緒に調べてみたら、結構面白いかもしれませんよ。
因果関係がわかれば、先を見通す思考力が身につく
── 夏休みの自由研究にもなりそうですね。山岸先生が歴史に興味をもたれるきっかけも子どもの頃だったのですか。
僕の母親は非常に教育熱心で、子どもの頃おもちゃは一切買ってくれなかったけど、本なら内容を問わず買ってくれました。乳母車に乗っていた幼少時から、兄と一緒に本屋へばかり連れて行かれましたね。
── 本に触れる環境が整っていたんですね。
そうです。さらに、当時通った貸本屋にたくさん置かれていた、偉人伝をよく読みました。偉人伝は歴史上の人物のことを描いたものですから、次第にその背景を知りたくなって歴史ものを読むようになり、どんどん歴史にはまっていったわけです。興味の赴くままに、とにかくたくさん読みましたね。本を読むと知識が蓄積され、気付かないうちに知識同士がつながっていきます。様々なジャンルの本を乱読することで、いつの間にか歴史につながることもありますから、子どもたちにも色々なことに興味をもってほしいですね。
── 子どもの頃から読書に親しむことが大事…って、なんだか岩崎書店の宣伝のようになってきましたが。
それだけではありません。ドイツ帝国の初代宰相ビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という名言を残していますね。つまり、本を読み、歴史を通して学ぶことで、過去を知るだけでなく、物ごとの因果関係もわかってくるのです。因果関係がわかるということは、先を見通す力や様々な思考力がつくことになりますから、国語力や算数力もあがるんですよ。
── 歴史を知らないと損してる気になってきました。
そうですね。もちろん、すべての歴史を網羅するのは難しいと思いますが、まずは興味を持った人物やエピソードを知ることから、歴史を学んでほしいですね。子どもたちに興味を持ってもらえるよう、僕はいくらだって脱線して面白いエピソードを話しますよ。あ、今日も脱線が多くて申し訳なかったな。
── 先生の授業と一緒でしたね(笑)。あらゆる興味深いお話をありがとうございました!
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投稿者 michelle