ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、前国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

ネイチャーの「日本の研究力失速」記事と研究開発費9千億円上積みニュース

2017年04月26日 | 科学

久しぶりのブログ更新です。


この1か月で学術関係で2つのニュースがテレビや新聞で報道されましたね。一つは、英科学誌ネイチャー・インデックスによる「日本の研究力失速」の記事ですね。(英文記事のリンクも貼っておきます。)

この記事については報道機関のコメントや社説、あるいはウェブ上でも意見がいろいろと交わされました。ただ、ネーチャー・インデックスが国立大学の運営費交付金の削減を要因の一つに挙げている点については批判的なコメントが多く、一例を挙げれば日経バイオテクonlineの「日本の科学研究の失速を運営費交付金のせいだけにしてよいのか」という記事など、多数あります。

運営費交付金削減の影響については、今まで僕が相当なデータで分析し根拠をお示ししてきたつもりなのですが、一般の方々になかなか正しくご理解いただけないものだなあ、と改めて感じました。(運営費交付金削減による国立大学への 影響・評価に関する研究

なお、今回のネイチャー・インデックスには、この3月の記事の約1年前に、僕の記事が載っています。ネイチャー・インデックスの豊田の記事

従来からの僕のデータ分析に基づく主張は、日本の論文数からみた研究力低下の主因は、FTE研究者数(研究時間を考慮に入れフルタイム換算した研究者数)の停滞~減少であり、それがもたらされた最大の要因は教員の人件費をカバーする基盤的な交付金の削減である。そして、大学予算が削減される中での「選択と集中」政策は、全体としての研究力にマイナスに働いたというものです。

そして、日本の大学への研究資金は、人口当りやGDP当りで計算すると、先進国で最も低い部類に入り、日本の研究競争力を回復するためには、まず、大学への研究資金を人口や富(GDP)に見合った額に増やすことが不可欠であり、韓国や台湾に追いつくためには、現在の2倍に増やす必要があるというものでした。でも、ほとんどの皆さんが、この日本の財政が苦しい時に大学への研究資金総額を増やすなんて、とんでもないことだと、端から否定される状況で、四面楚歌の感がありました。

以下に、3年ほど前の2014年の8月に東京で開催された「第10回大学政策フォーラム」で僕が発表させていただいたスライド原稿をお示ししておきます。僕の”とんでも提言”が書かれています。

ここでの僕の”とんでも提言”の部分を、下に再掲しておきます。

•大学への研究開発資金を“出費” ではなく“投資”と考えるパラダイムシフトが不可欠
•日本のイノベーション基盤力の規模を、人口やGDPに見合った量に。
•欧米諸国や台湾・韓国に追いつくためには、大学への研究開発費およびFTE研究従事者数を現状の約2倍にする必要
•FTE研究従事者数約10万人を20万人に・・・+5000億円か
•狭義の研究費・・・+2500億円か
•研究やイノベーションの能力のある人財に、他のことをさせずにイノベーション活動に専念させる。十分な研究時間(90%)と研究補助者の付与。
•女性イノベータの発掘、海外からの人財確保
•まずは、GDP増や日本人の生存に直接つながりうる研究テーマを優先
 
•「イノベーション大学院」を中心とした、企業が渇望するイノベータ(博士)の育成と、大学と企業の協働によるイノベーションの創出。
•原則として独立大学院または大学院大学とし、教員は原則として学部教育は行わない。
•現在でも、一部の大学ですでに行われているが、それを全国立大学に徹底
•研究大学20大学では量的に不足。全国立大学を研究大学に。
•イノベータの育成以外の教育(多くの学部教育)は私学に任せる。
•研究テーマは原則として企業(特に地域の中小企業)の共同研究
•同時に、起業に必要なマネジメント教育を徹底。国際的通用性も。
•学生から、そして企業からも敬遠されている現在の日本の博士課程を180度転換
•大学内に企業のオフィスや研究所を誘致。研究は企業の研究所でも可
 
•「イノベーション大学院」は、各大学から独立した全国的組織が望ましい。
•中央での優秀な教員・イノベータ人材の選抜・確保および流動性を高める人事システム。優秀な学生の選抜。
•ブランド力を高めるために、例えば「東京大学イノベーション大学院」という呼称でもよい。全国津々浦々の地方大学に「東京大学イノベーション大学院」が張り巡らされる。
•人件費5000億円+狭義の研究費2500億円の投資額を税収増で回収
 
この講演が終わった後、本省の役人の方が話しかけてこられ(すみません、その方のお名前や部署は忘れてしまいました)、論文数とGDPが相関するというデータに関心を示されました。彼に「5000億円なんとかなりませんか?」と、申し上げたのですが「それはとても無理です。」と言われたことを覚えています。
 
そうしたら、この4月21日に、研究開発費9000億円上積みのニュースが流れました。
以下、NHKニュースから引用します。
「政府は、GDP=国内総生産600兆円の達成に向けて、技術革新を推進しようと、来年度から研究開発への投資を上積みし、3年後の平成32年度には投資額を今年度より9000億円多い4兆4000億円に引き上げることを目指す方針を固めました。

政府は、平成32年ごろまでにGDP=国内総生産を600兆円まで増やすことを目標として掲げ、そのための方策の1つとして技術革新を掲げていますが、この20年近く、当初予算における研究開発への投資額は、横ばいの状態が続いています。

このため政府は、研究開発への投資額を来年度から3000億円ずつ上積みし、3年後の平成32年度には、今年度より9000億円多い4兆4000億円に引き上げることを目指す方針を固めました。

政府は、21日、総理大臣官邸で開く総合科学技術・イノベーション会議で、こうした方針を決定し、6月をめどに策定する、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」に反映させることにしています。」

9000億円は、僕が主張していた5000億円+2500億円=7500億円よりも多い金額なので、こんなことが意外とあっさり(のように見えるだけかもしれませんが)決まるなんて、ちょっとびっくりしました。

これから、この研究開発費をどのように使うのかが決められると思いますが、研究費の配賦方式、研究体制、研究分野など、さまざまなバリエーションが考えられると思います。その中で、優秀なFTE研究者数を2倍確保すること、つまり「人」に投資をすることが成功のための基本的な要件であると僕は思っています。(誤解のないようにコメントしておきますと、新たに研究者を増やすこと以外にも、優秀な研究者であるが、現在、研究以外の仕事に50%費やしている教員を研究に専念できるようにすれば、FTE研究者数は2倍になります。)

 

 

 
 
 
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Unknown (住井英二郎)
2017-04-27 07:38:58
日経は(名前に反して)まっとうなマクロ経済学と真逆の緊縮財政・消費増税を主張、デフレを招き経済成長や財政再建を妨げているので、「今後も大きな成長は期待できません」などというトンデモ言説は強く批判されるべきだと思います。それよりも http://www.asahi.com/articles/ASK4P3RFSK4PULBJ004.html をよく読むと、既存の農業や建築の予算の中身はほぼそのままで「科学技術予算」と解釈だけ変えて「9千億円増額」と言っているような…>『既存の補助金が交付されている農業や建築など他分野でも、新しい情報技術と組み合わせれば「実証実験になる」として、科学技術関連の予算に算入することにした』(本コメントは個人の意見です。)

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