久しぶりのブログ更新です。
この1か月で学術関係で2つのニュースがテレビや新聞で報道されましたね。一つは、英科学誌ネイチャー・インデックスによる「日本の研究力失速」の記事ですね。(英文記事のリンクも貼っておきます。)
この記事については報道機関のコメントや社説、あるいはウェブ上でも意見がいろいろと交わされました。ただ、ネーチャー・インデックスが国立大学の運営費交付金の削減を要因の一つに挙げている点については批判的なコメントが多く、一例を挙げれば日経バイオテクonlineの「日本の科学研究の失速を運営費交付金のせいだけにしてよいのか」という記事など、多数あります。
運営費交付金削減の影響については、今まで僕が相当なデータで分析し根拠をお示ししてきたつもりなのですが、一般の方々になかなか正しくご理解いただけないものだなあ、と改めて感じました。(運営費交付金削減による国立大学への 影響・評価に関する研究)
なお、今回のネイチャー・インデックスには、この3月の記事の約1年前に、僕の記事が載っています。ネイチャー・インデックスの豊田の記事
従来からの僕のデータ分析に基づく主張は、日本の論文数からみた研究力低下の主因は、FTE研究者数(研究時間を考慮に入れフルタイム換算した研究者数)の停滞~減少であり、それがもたらされた最大の要因は教員の人件費をカバーする基盤的な交付金の削減である。そして、大学予算が削減される中での「選択と集中」政策は、全体としての研究力にマイナスに働いたというものです。
そして、日本の大学への研究資金は、人口当りやGDP当りで計算すると、先進国で最も低い部類に入り、日本の研究競争力を回復するためには、まず、大学への研究資金を人口や富(GDP)に見合った額に増やすことが不可欠であり、韓国や台湾に追いつくためには、現在の2倍に増やす必要があるというものでした。でも、ほとんどの皆さんが、この日本の財政が苦しい時に大学への研究資金総額を増やすなんて、とんでもないことだと、端から否定される状況で、四面楚歌の感がありました。
以下に、3年ほど前の2014年の8月に東京で開催された「第10回大学政策フォーラム」で僕が発表させていただいたスライド原稿をお示ししておきます。僕の”とんでも提言”が書かれています。
ここでの僕の”とんでも提言”の部分を、下に再掲しておきます。
政府は、平成32年ごろまでにGDP=国内総生産を600兆円まで増やすことを目標として掲げ、そのための方策の1つとして技術革新を掲げていますが、この20年近く、当初予算における研究開発への投資額は、横ばいの状態が続いています。
このため政府は、研究開発への投資額を来年度から3000億円ずつ上積みし、3年後の平成32年度には、今年度より9000億円多い4兆4000億円に引き上げることを目指す方針を固めました。
政府は、21日、総理大臣官邸で開く総合科学技術・イノベーション会議で、こうした方針を決定し、6月をめどに策定する、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」に反映させることにしています。」
9000億円は、僕が主張していた5000億円+2500億円=7500億円よりも多い金額なので、こんなことが意外とあっさり(のように見えるだけかもしれませんが)決まるなんて、ちょっとびっくりしました。
これから、この研究開発費をどのように使うのかが決められると思いますが、研究費の配賦方式、研究体制、研究分野など、さまざまなバリエーションが考えられると思います。その中で、優秀なFTE研究者数を2倍確保すること、つまり「人」に投資をすることが成功のための基本的な要件であると僕は思っています。(誤解のないようにコメントしておきますと、新たに研究者を増やすこと以外にも、優秀な研究者であるが、現在、研究以外の仕事に50%費やしている教員を研究に専念できるようにすれば、FTE研究者数は2倍になります。)