どうなる? “ビッグサイト問題”

どうなる? “ビッグサイト問題”
3年後の東京オリンピック・パラリンピックの会場が思わぬところで波紋を呼んでいます。東京モーターショーや、コミックマーケットなどの会場として知られる日本最大の展示会場「東京ビッグサイト」が、オリンピックの施設として使われるため、準備期間も含めた1年半の間、使えなくなるというのです。これに対して、展示会を開く企業などが反発。経済的損失が大きいという声もあります。一連の動きを取材しました。(ネット報道部 副島晋記者)
26日、東京ビッグサイトで、見本市を企画したり出展したりする企業などを対象にした説明会が開かれました。およそ600人が参加。冒頭の数分間だけ報道機関の撮影が許可されましたが、その後は非公開で行われました。

説明会終了後、会場から出てきた人たちが口にしたのは、「ビッグサイトが使えないという前提ありきの話だった」、「会場の見直しをしてほしい」などといった憤りの声。

東京ビッグサイトをめぐり、何が起きているのでしょうか。

参加者から憤りの声

26日、東京ビッグサイトで、見本市を企画したり出展したりする企業などを対象にした説明会が開かれました。およそ600人が参加。冒頭の数分間だけ報道機関の撮影が許可されましたが、その後は非公開で行われました。

説明会終了後、会場から出てきた人たちが口にしたのは、「ビッグサイトが使えないという前提ありきの話だった」、「会場の見直しをしてほしい」などといった憤りの声。

東京ビッグサイトをめぐり、何が起きているのでしょうか。

何が起きてるの?

東京ビッグサイトは、東京オリンピック・パラリンピックで世界各国の報道機関が拠点にする「メディアセンター」として使われることが決まっています。

このうち、施設の大半を占める「東展示棟」と、隣接する「東新展示棟」はオリンピックの前年の2019年4月から2020年11月までの1年8か月間、一般の利用ができなくなります。メディアセンターとしての改修工事などが行われるためです。

東展示棟の西側には「西展示棟」がありますが、広さは半分もないうえ、2020年4月からは、「プレスセンター」になるため、こちらも利用できなくなります。

東京ビッグサイトを運営する東京都は、拡張棟や仮設展示場を新たに設けることにしていますが、いずれも大会期間前後の数か月は利用できません。

経済損失が大きい

これに対して、国内の企業が反発しています。東京ビッグサイトでは年間でおよそ300件の展示会や見本市が開かれています。こうしたイベントの来場者数は1600万人余り。1年半以上イベントが開けないとなると、経済的損失が大きいのです。

イベントを主催する企業の業界団体、日本展示会協会の石積忠夫会長は、ことし1月の記者会見で、特に中小企業にとって見本市は顧客との商談の場として欠かせず、そうした機会が失われることは死活問題だと訴えました。

協会の試算では、2020年4月から11月まですべての施設が使えない場合、およそ3万8000社の企業が展示会に出展できず、約1兆2000億円の売上が失われるとしています。また、展示会の装飾や警備など行う企業にも大きな影響があり、1300億円の損失が見込まれるとしています。

中小企業の受け止めは

成勢幸一郎さん
中小企業にとって、どれほど深刻なのか。神奈川県藤沢市の電子機器メーカーの成勢幸一郎社長に話を聞きました。

成勢さんの会社は従業員18人。太陽光パネル関連の機器やサービスの販売をしています。ことし3月、東京ビッグサイトで開かれた展示会で、ドローンを使って上空から太陽光パネルの状態を確認する新システムを展示しました。成勢社長にとっては、年に一度の大切な商談の場。およそ2000万円の売り上げを展示会の商談でまとめるそうです。

「自分の会社の規模からすると、営業マンが全国に飛び回るのは難しい。展示会は新しいビジネスを見つけたり、情報を集めてビジネスを発展させる場所です。北海道から九州まで全国から来場者があって縁が作れるというのは、ビッグサイトでの展示会があってこそなので、展示会が開かれなくなると本当に困ります」


ネット上で波紋

漫画やアニメの愛好家が同人誌などを持ち寄るコミックマーケットのようなイベントも、期間中は開けなくなる見通しです。大阪や名古屋など地方都市にも展示場はありますが、日本最大の展示場が長期間使えなくなる影響は計り知れません。ネット上ではこんな声が出ています。

「東京オリンピック時のコミケ中止はやめちくり~」

「コミケとか同人関係はもちろんのこと、ビッグサイトって平日も色んな業種の製品や資材の展示会やってるし 土日も医療関係の学会やら資格試験や会社説明会やってるし そんなたくさんの人の仕事の幅広げるチャンスを潰してまでオリンピックのために1年以上も使えなくしなきゃいけないの…?」

「本当に日本の将来とか考えたら展示会や就職説明会、イベントは中止しちゃいけない。国際″展示場″なら本来あるべき姿で活用しないと。オリンピックが日本で開催されるのは夢だから、双方が納得できる解決策を」

説明会には、同人誌に関わる企業の関係者も出席していました。広島県で印刷会社を経営する岡田一社長は、同人誌の印刷を手がけるほか、みずからもイベントに出展することがあります。

「イベント自体がかなり縮小されるとなると、われわれの会社としても、年間3億から5億の売り上げ減を覚悟しなければならないということですね。このままの案で押し切られますと、やはり、大変なことになるということが実感としてあります」
岡田一さん

幕張メッセも使えない?

東京ビッグサイトに次ぐ広さを誇る展示会場、千葉県の「幕張メッセ」も使えなくなりそうです。レスリングなど7つの競技が行われる予定で、オリンピックの組織委員会は先月、千葉県に対し、2020年の4月初旬から9月末までのおよそ6か月間使用したいと打診したということです。

東京ビッグサイトや幕張メッセなど、全国にある展示会場の総面積は、業界団体の調べでおよそ35万平方メートル。このうち東京ビッグサイトと幕張メッセが占める割合は、なんと4割近くにのぼります。2020年、この2つの施設が使えなくなれば、大きな影響は避けられません。

担当者に聞いてみた

東京ビッグサイトは、26日の説明会で、▽仮設で設置される施設については、大会期間中以外は使用できるように配慮すること、▽施設の一部の利用できない期間をこれまでより2か月ほど短縮することなどを説明しました。しかし企業側からは、冒頭で紹介したように、抜本的に会場を見直してほしいといった強い意見が相次ぎました。

一連の問題について、東京ビッグサイトを所管する東京都産業労働局商工部の伏見充明課長に話を聞いてみました。

Q 会場は変更できないのですか?

A オリンピックの開催が決まった時に、メディアセンターをビッグサイトにするということは決めていて、変更はできないと思います。

Q 本当に1年8か月使えないのでしょうか?

A 放送局の設備が入って、施設の準備なども含めて長期間かかると聞いており、今の段階では1年8か月使えないという状況は変わりません。

Q 中小企業や、漫画などのイベントのファンが困ると思いますが?

A 展示会が非常に重要だという視点のもとに、仮設の展示場の整備など対応策もしてきたし、今回、利用制約を受ける期間が短縮されました。年間を通じてみると、展示面積は相当確保できる状況になったので、展示会を通常の時期から少しずらすなど調整し、なるべく多くの展示会ができるようにしていきたいと思っています。

打開策は見えない

見本市を開く企業などで作る日本展示会協会は、会場の見直しを求める署名運動を行っていて、すでに14万件を超える署名が寄せられたということです。協会では、東京都の小池知事にも働きかけて、問題の解決を図りたいとしています。

ただ、3年後のオリンピックまでに別の会場を確保することは、物理的に難しいという現実もあります。夢の祭典・オリンピックの思わぬ影響。打開策はまだ見えていません。