*星空文庫

憂鬱探偵

文月一星 作

この作品は高校生の時に思いついたのですが、なかなか書く機会ができず、現在に至ります。ミステリーですが彼らが醸し出すコメディーの雰囲気も楽しんで頂きたいです。

憂鬱探偵

憂鬱探偵
プロローグ

誰しも苦手なものは存在するだろう。一人でいるのができない人。人の気持ちが理解しきれない人。そして頭より先に体が動いてしまう人。それぞれがその人の弱点である。しかし違う考えもできる。それは弱点ではなく美点であると。一人でいられないということは常にだれかと行動し、身の危険を守れるということ。人の気持ちが理解できなければ場の雰囲気に従わずに自分の意見を言えること。そして先に体が動けば考えすぎるよりも物事を早く運べる場合がある。何事も考え方次第で変化させていくことが可能であり、考え方次第で弱点にも美点にもなる。どこかの本で読んだ記憶がある。だったら僕の場合はどういう美点になるのだろうか。


1、猫は知ってる

朝七時、出勤。電車で二十分。そこから徒歩で向かい途中にある公園による。野良猫たちに餌をやり、ゴミを払う。それからまた歩き仕事場所へと到着する。ここが長谷川守人の職場である仲上探偵事務所だ。到着したのは八時十分。到着したのは二階建てのあぱーのようなところ。一階は食事処。階段を上がり二階へと上がる。合鍵で扉を開き中に入る。ワンルームの部屋。窓際には向かい合った二つのソファー。反対側には中型のテレビ。奥には大き目のデスク。ソファーの上に人の気配を感じて確認に行く。そこにはまるで野宿をするかのようにソファーの上で毛布にくるまった茶色い塊がある。見方によってはミノムシにも見えるだろう。いつものことだ。ミノムシの殻を開き、なかのものに話しかける。
「仲上さん、起きてください。」
体を揺らしてみる。
「あと五分、いや五時間で。」
「起きなければそのソファーに油を被せて火をつけて燃えカスをゴミに出します。」
「いや待て。起きる。すぐ起きる。ていうかそんなことしたら事務所が燃えるだろうが。」
「わかっています。なのでしません。しかしいつでも準備は整えています。」
「ただでさえ火の車の事務所に火をつけようというのかマモル。」
「それが嫌なら仲上さんも準備を整えてください。」
「わかった。わかったって。」
ゆらゆらしながら仲上は着替えに向かった。その間に長谷川はソファーを片付け、仲上のテーブルを片付ける。いつもの光景だ。

「さて、仲上さんどうしましょうか。」
探偵事務所とは依頼人がいなくては利益が生まれない。
「またティッシュ配りでどうだ。」
今は広告を中心としている。
「もう合計百束は配りました。」
「それで効果なしか。」
「まあそろそろ出てもいい頃ですけど。」
「いままで依頼内容がしょぼすぎるんだよ。犬探したりとか。」
「平和なのはいいことです。」
「しかし俺らには不景気だ。」
探偵とはいえ現代では本に書けるような出来事はまあ起きない。
「しかたありません。またティッシュでも配って、、、」
「すみません。」
六十代くらいの女性が三回ほどドアをノックし中に入ってきた。
「いらっしゃい。なんでもかんでも早くスマートになおかつ情熱的に解決仲上探偵事務所です。どういったご用件でしょうか?」
率先して仲上は声をかける。
「あの、ティッシュに書いてる広告を見たんですけど。」
「ありがとうございます。」
「こちらには従業員の方は何人ほど?」
「私、仲上と、あの柱の奥にいる男性だけです。」
見ると部屋の端に建つ柱の裏に行き体の露出が十パーセントもないんじゃないかというくらい縮こまって僕を呼ぶなと言わんばかりに仲上を睨んでいる。そう長谷川守人の弱点。
それは対人恐怖症にしてはとても重症だ。
「気になさらずに、働くときはちゃんとしていますから。」
透かさず仲上がフォローする。
「そうですか。」
少し女性は引き気味だ。
この空気は良くない。非常によくない。今まで客足が伸びなかったのもこれが原因だ。ここで依頼を何度か逃してきた。はやく話を切り出そう。
「それでどういったご用件で?」
急ぎ目の早口で言った。
「あの、ここはどんな依頼も引き受けてくださるんですよね?」
「はいもちろん。」
「私が依頼したことも漏れませんか?」
「もちろん依頼人の個人情報は必ず守り、捜査状況は依頼主様にのみ公開いたします。」
長谷川はじっと見つめている。今回は少し濃い依頼になりそうだ。そう感じる。

依頼人は帰られた
「聞いてたかマモル。」
「はいもちろん。」
「依頼人は藤田香さん63歳、そして今回の依頼は猫探しだ。」

全く喜びの空気は流れなかった。
「なんでだ。犬の次は猫か。まったく。」
「大丈夫ですよ仲上さん。依頼が来ないよりましです。」
「そうは言えどさ。」
「とりあえずその藤田さんのお宅に訪問してください。それから探しましょう。はやく連絡を。」
「なにを言う。お前も行くんだよ。」
「絶対に嫌です。」
「駄目だ。依頼人との信頼関係を気づくためにも行くんだ。」
「ううぇー。」
「文句を言うな。」
少し気分を沈ませあと顔をあげて眼鏡を整え彼は言った。
「あと、仲上さん。まだ猫探さないでください。」
「はぁ?なんで。」
「今は疑惑ですから。仲上さんに言っても混乱させるだけです。」
「まったく。わかったよ。」
ここで噛みついてもなにもないと思い受け入れた。

二日後、藤田香の自宅の前に訪れた。アパートの一階ではあるが一般的なものよりも少し広いくらいだ。家のほうにはなにか問題があるとは思えない。問題があるとすれば長谷川のほうだ。
「マモル、なんだその恰好。」
長谷川は顔にガスマスクと言わんばかりのもそを装着し、三百六十度どこから見ても表情を確認できない。
「マモル、それ取れ。」
「嫌です。」
「お前いつも事務所来るときそんなの付けてないだろ。人見知りもそこまで行くと病気だぞ。」
「僕は人見知りではありません。得体も知れない人に特定の誰かと認識されることが嫌なんです。」
理解できるようで理解できない。不気味な理由だ。
「だとしたらその姿はものうごーく目立ってるぞ。」
あえて協調をつけ話す。
「わかりました。じゃあこうします。」
長谷川はガスマスクを外した。妥協してくれたのかと感じたが、勘違いであった。
彼は持ってきたバックからプロレスラーが使う覆面が出てきてそれを被ろうとする。
「お前は変装が趣味なのか?」
「いいえ。」
仲上は頭を抱えた。もういっそのことこのままでもいいんじゃないかとさえ考えたが、探偵とは信頼関係が第一。どうにかしなくてはこの状態でなにえを言っても信憑性に欠けてしまう。そもそもお前が面会した一定言ったんだろ。
「藤田さんは目悪いらしいよ。」
どうでもいい情報をツッコんだ。
「え、なんでそれを先に言わないんですか。」
長谷川は興奮し、いつもの状態へと戻った。いったい何が起こったのかこいつの価値観は未だに理解できない。しかしなにはともあれこれでやっと家のインターホンが押せる。
ピンポーン

部屋に上がりリビングの方まで誘導される。途中でキッチンをちらと見たがキャットフードの袋が一つきれいに置いてあった。三人ははリビングで正座し本題に入る。
「どうなんですか?見つかりそうですか?」
詰め寄るように藤田が仲上に話しかける。長谷川はやはり会話をしたくないのか端の方に縮こまっている。
「精一杯行っています。今のところ範囲は狭めてきています。」
緩く嘘をつく。猫の特徴は黒と白のまだら模様。目の周りは黒模様のハートマーク装飾品なし。写真ももらっている。聞くところによると藤田香は猫が消えた翌日に依頼を出したそうで、本当は自分で探したいがもう足腰があまり持たないらしく探偵を頼ったそうだ。これならだましだましやっていけるかもしれないという悪知恵から仕事を受けてというのもある。
「そうですかぁ。あの子どっか散歩に行ってふらっとまたうちに来てご飯するみたいな放し飼いだったんでどこ行ってるとかわからなくて。でもやっぱりいなくなるとこの年ですからすごく寂しく感じてしまって。」
「お気持ちはお察しします。」
「ベランダにまたキャットフードとかもおいているのですけれど全く気配が無くて。」
フォローしたつもりが逆効果であった。
「私どもも全力を挙げて探しますのでご心配なく。」
こういう時は相手に不安感を与えてはいけない。なにか安心できる材料はないのか。話を変えよう。
「藤田さんは猫がいなくなったとき何をなさっていましたか?あと、最近の変化であったり。」
「昼の終わりごろに日課である散歩を。足腰が弱いとはいえ放っておいたらもっと悪くなるかと思い、始めました。あと、年齢のせいか、少し物忘れが出てきたようで探していたものが見つからなく。」
その時ゆっくりと長谷川は近づいてきて言った。
「もう十分聞きたいことは聞けましたし大丈夫です。後は寄り道して帰りましょう。」
「は?」
意味不明であった。十分も何もお前は会話すらしていないじゃないか。さっぱり言っていることがわからない。
「安心してください。猫の居場所なんですがおおよそ見当がつきました。」
「え?」
「え、二回言いましたね。」
「うるさい。」
確かに驚きの二連発。今の会話で何がわかったというのか。
「だからさっさと帰りましょう。」
「だから適当に切り上げて帰りましょう。」
「バカ、急にそんな適当にできるか。」
「じゃあ僕は先に帰ります。」
「おい。」
長谷川は何も聞いていないかの如く。立ち上がり外に出る。元々出口に近いことがあり。止めることはできなかった。
「すいません。失礼します。」
こうなっては自分も出ていくしかない。、仲上は長谷川を追いかけるように出て行った。

長谷川は歩き続けた。途中でなんどか急に止まり、周りをキョロキョロ見ていたが、また急に歩き出し止めるタイミングを掴めなかった。そしてまた急に止まった。
「待てこの野郎。」
長谷川の肩を鷲掴み、歩きを止める。
「痛いですよ。仲上さん。」
なんの悪びれる素振りを見せない。
「マモル。勘弁してくれよぉ。探偵にとって依頼人との信頼関係が大事なんだ。そうじゃないと次の仕事に繋がらん。」
「仲上さん、猫、見つけました。」
「へ?」
「この公園にいます。」
見渡すとそこは小さめの公園であった。尚且つ木々が生い茂り、野良猫がいるのにピッタリな環境であった。長谷川はその茂みに向かいバックからミルクを取り出し特定の場所に設置した。すると中から猫たちが数匹出てくる。その中から一匹を取り上げ仲上に見せる。白黒で目の周りが黒くてハートの形。しかし目元に少し傷があった。
「発見しました。」
言葉が見つからなかった。見つかったことを素直に喜ぶべきか。見当をつけていることを報告していないのを怒るべきか。先に口を開いたのは長谷川だった。
「あとはこの猫の傷の秘密が解れば解決ですね。」
「待て、秘密も何も猫見つかったんだから藤田さんのとこに持って行きゃそれで解決じゃないか。」
「仲上さん。」
何か言いたそうな様子だ。
「なんだよ。」
「探偵なんですからもっと観察眼鍛えてください。そんなのだから探偵じゃなくて何でも屋になっちゃうんですよ。」
寒―い風が吹く。因みにだが仲上は長谷川より年上である。それを加味した上でもう一度考えてみよう。単なる説教だ。
「マモル。さよなら。」
そう言って仲上はとぼとぼ歩き出す。
「あ。」
やってしまった。意外とこの人はハートが弱いのであった。
「あの、仲上さん言いすぎました。すいません。」
追いかけながら話しかけるが一向に返事が来ない。そして早い。あっという間に事務所に戻り着き、締め出された。
「仲上さん。開けてください。」
ドアを叩くが全く反応が返ってこない。しかたない。
「仲上さん。仕方がないのでこの状態でネタばらしというか僕の推理発表します。」
続く

『憂鬱探偵』

『憂鬱探偵』 文月一星 作

二人の憂鬱な探偵。彼らはいつも憂鬱に謎を解く。

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-04-09
Copyrighted

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