「この在庫の山、いったいどうすればいいのだろう・・・」
ネットショップを運営していてこのような状況に追い込まれると、本当に苦しいですよね。
実は弊社はベビー服ネットショップ『べびちゅ』の在庫が多くなりすぎて倒産しかけた経験が2回もあります。
その内の1回は、従業員数8名程度の時に会社の預金残高が170万円ぐらいまで落ち込んでの倒産危機でした。
当時、銀行からの借入れが数千万円あり、私は経営者として個人保証もしていましたし、子供も生まれたばかりでした。
それでも表向きは笑顔で構えている必要があり、言葉ではとても表現できない苦しさでした。
弊社が倒産を回避できたのは、在庫というものの理解を深め、在庫に振り回されず、在庫をコントロールできるようになったからです。
在庫による倒産危機の苦しみを味わう人が少しでも減るように、これから何回かに分けて在庫に関して丁寧に説明し連載形式でノウハウを公開しようと思います。
最初のこの記事は、在庫をコントロールするために必要な基本事項について説明します。
それをベースにして、次回の記事から在庫をコントロールする方法を説明していきます。
この記事が在庫の苦しみから解放される一歩になることを願っております。
それでは参ります。
在庫とは何か?
「在庫とは何ですか?」
このように聞かれると、あなたは何と答えますか?
「商品のことに決まっているだろう」
と思う方が多いかもしれませんが、それは間違いです。
これを間違えるとおそらくそのネットショップは失敗すると思います。
正しくは、
在庫とはお金のこと
です。
理由を説明します。
仕入れの本質は、お金を在庫に変えて資産運用すること
ネットショップはメーカーや問屋から商品を仕入れて在庫にします。
これは言い換えると、お金を在庫に変えたということです。
次に、ネットショップはその在庫を消費者に販売します。
これは言い換えると、在庫をもう一度お金に戻したということです。
つまり、ネットショップはお金を在庫に変えて資産運用しているということになります。
ここで具体的な例を出してみます。
もし仮に1000万円を使って仕入れをし、300万円分の在庫を売ったとしましょう。
そのネットショップは現金700万円を在庫のまま眠らせているということになりますよね。
そして翌月は300万円を使って仕入れをし、90万円分の在庫を売ったとしましょう。
そのネットショップは現金210万円を在庫のまま眠らせているということになります。
先ほどの700万円と足すと、なんと現金910万円が在庫のまま眠っているということになります。
910万円分の在庫、なんとかしてお金に戻したいですよね。
そう思うのは、まさに「在庫はお金」だからです。
つまり、
仕入れた商品をしっかり売り、在庫として残る分を出来るだけ少なくする
これがネットショップが目指すべき姿ということになります。(当たり前ですね)
会計の世界には、この「仕入れた商品をしっかり売り、在庫として残る分は出来るだけ少なくする」というのを表す指標として、在庫回転率というものがあります。
『べびちゅ』は在庫回転率を改善することで倒産の危機を脱し、現在は在庫に関する悩みをほとんど抱えることがなくなりました。
ここからはそのお話をしたいと思います。
ではまず在庫回転率について説明します。
在庫回転率
在庫回転率は高ければ高いほど良い指標です。
それを理解して頂くために、計算式と簡単な例を示します。
在庫回転率の計算式
在庫回転率 = 売上高 / 平均在庫高
※平均在庫高 = (期首在庫高 + 期末在庫高) / 2もし年間の在庫回転率を計算するなら、
期首在庫高=1か月目の月初に持っていた在庫高
期末在庫高=12か月目の月末に持っていた在庫高もし月間の在庫回転率を計算するなら、
期首在庫高=その月の月初に持っていた在庫高
期末在庫高=その月の月末に持っていた在庫高
というように考えて下さい。
次の表は、ネットショップAとネットショップBが同じ商品を同じ価格で仕入れ、同じ価格で販売している想定で在庫回転率を計算した例です。
ネットショップA | ネットショップB | |
売上高 | 5000万円 | 5000万円 |
平均在庫高 | 1000万円 (期首在庫高 1000万円) (期末在庫高 1000万円) |
500万円 (期首在庫高 500万円) (期末在庫高 500万円) |
在庫回転率 | 5回転 | 10回転 |
ネットショップAとBの年商(売上高)が共に5000万円の場合、平均在庫高が小さいBの方がAよりも在庫回転率が高くなっていますよね。
これはつまり、「同じものを売っているネットショップでも、在庫回転率が高ければ高いほど、少ない在庫で多くの売上を上げることができる」ということです。
ということは、資金力の弱い中小のネットショップにとっては在庫回転率を高めることが経営を安定させる必須事項になるということですね。
また、ネットショップAは5000万円売り上げるために1000万円も在庫を持たなければならないのに対し、ネットショップBは500万円で済むのですから、ネットショップBはAよりも現金に500万円の余裕があると言うこともできます。
そうすると、BはAよりも新しい仕入れができるようになりますので、BとAの差はどんどん開いていきそうですよね。
いかがですか?
仕入れた商品をしっかり売り、在庫として残る分を出来るだけ少なくすると、在庫回転率が改善し、その結果、資金繰りに余裕が生まれたり新たな仕入れができるようになったりするということがわかりましたよね。
では在庫回転率はどれぐらいの数値を目指せばよいのでしょうか。
在庫回転率の最低ラインは月1回転
在庫回転率は月1回転が最低ラインだと考えて、出来るだけ1回転以上を目指すようにして下さい。
ちなみに在庫回転率が月1回転というのは、そのネットショップの全在庫が1カ月に1回入れ替わっているという意味です。
月1回転というのがどういう状態かを肌感覚で理解して頂くために、『べびちゅ』が倒産の危機に陥った月の売上高と在庫高と在庫回転率を紹介します。
月次売上高 | 770万円 |
月次平均在庫高 | 1107万円 (月初在庫高 1062万円) (月末在庫高 1152万円) |
在庫回転率 | 0.7回転 |
もしこの月の在庫回転率が1回転だったとすると、
1(在庫回転率) = 770万円(売上高) / 770万円(平均在庫高)
にならなければいけませんので、月末在庫高は
770万円(平均在庫高) = (1062万円(月初在庫高) + X(月末在庫高)) / 2
という計算式から、
月末在庫高 = 478万円
になります。
実際の月末在庫高は1152万円でしたので、もし在庫回転率を月1回転にまで改善できていたとしたら、差し引きして674万円も現金を取り戻すことが出来ていたはずだということです。
たった0.3回転の違いがこれだけ大きな差を生むのですから、在庫回転率は中小のネットショップが無視できる指標ではありませんよね。
試しにあなたのネットショップの在庫回転率を計算してみて下さい。
計算のために必要な、月次売上高・期首在庫高・期末在庫高は月次試算表というものに掲載されています。
税理士と契約している方は月次試算表を税理士からもらって下さい。
自分で会計をしている方は会計ソフトから月次試算表を出して下さい。
そして、月に何回転しているかを計算してみて下さい。
1回転以上の月はどれぐらいありますか?
資金繰りが苦しかったり、在庫が増えていたりするネットショップは在庫回転率が1未満になっているはずですよ。
在庫回転率が1未満の月が続くと、どんなネットショップでも資金繰りが悪化します。
仕入れた在庫が現金に変わる効率が悪いのだから当然です。
自分のネットショップの健全性を知る指標として在庫回転率は絶対にチェックするようにして下さいね。
では他社の在庫回転率はどれぐらいなのでしょうか。
他社と『べびちゅ』の在庫回転率
比較対象として、経産省が発表している在庫回転率を紹介します。
中小の小売企業 | 8~9回転/年 (0.67~0.75回転/月) |
中小のアパレル系企業 | 5回転/年 (0.42回転/月) |
これが大手企業になると下記のような数値になります。
※決算書の数値から計算しました。
クロスカンパニー | 13回転/年 (1.08回転/月) |
ユニクロ | 11回転/年 (0.92回転/月) |
しまむら | 10回転/年 (0.83回転/月) |
※クロスカンパニーは、アースミュージックアンドエコロジー等のブランドを展開する会社
ちなみに『べびちゅ』の在庫回転率は下記の数値になります。
べびちゅ | 17回転/年 (1.42回転/月) |
『べびちゅ』はスタートからまだ3年程度の中小規模のネットショップですが、なんと大手企業より高い在庫回転率を実現しています。
『べびちゅ』の1.42回転/月という在庫回転率は、月の真ん中過ぎぐらいで全在庫が1回転するという数字です。
こういう在庫回転率になってくると、仕入れリスクが発生していないということになりますので、在庫や資金繰りで悩むことがほとんどなくなります。
では一体どのようにしてこの高い在庫回転率を実現しているのか?
実現は難しいのではないか?
そう思われる方が多いかもしれませんね。
でも、ネットショップの経験など全くなかった弊社が実現できたことなのです。
難しいということはありません。
次回の記事では在庫回転率を向上させるコツを2つ紹介し、少しずつ具体的な改善方法へと話を進めていこうと思います。
まとめ
いかがでしたか?
この記事では、在庫をコントロールするために必要な基本事項を説明しました。
意外に単純なことや、当たり前なことが多かったのではないでしょうか。
在庫回転率という指標は、ある程度ネットショップを運営してきた経験があればどこかで耳にする指標だと思いますが、地味な指標なので重要性があまり認識されていないように思います。
次回の記事では在庫回転率を改善するコツを2つ紹介しますので、楽しみにしていて下さいね。