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クロマグロで国際会議 日本のまき網漁規制が争点に

2017/4/25 22:26
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 幼魚の取り過ぎが指摘されるクロマグロの資源回復を加速させるため、25日から東京で太平洋クロマグロに関するステークホルダー(利害関係者)が集まる国際会議が開かれている。3~4年育てれば親魚になる未成熟な小型クロマグロの保護強化が焦点。水産庁は小型魚を大量に漁獲する日本などの大型まき網漁船の規制を強めることも視野に国際交渉と国内調整を進める見通しだ。

 ■高い目標、実現可能

科学者、漁業者、政府関係者、環境団体がシミュレーション結果をもとに、クロマグロ漁獲規制の進め方を議論している(25日、東京・三田)
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科学者、漁業者、政府関係者、環境団体がシミュレーション結果をもとに、クロマグロ漁獲規制の進め方を議論している(25日、東京・三田)

 日本も加盟している中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は2015年から体重30キログラム未満の小型魚の漁獲量を基準値(02年から04年の実績平均値)の半分以下に減らし、大型魚は基準値以下に抑制するという漁獲規制を実施している。この措置で、過去最低に近い水準に落ち込んでいる親魚の資源量(推定1万7千トン)を24年までに統計上の歴史的な中間値である4万1千トンに戻すことが当面の目標だ。

 一方、30年以降をにらむ長期的な資源回復目標の設定は難航している。27日まで3日間のステークホルダー会合は、WCPFC事務局や加盟国政府、漁業者や環境団体メディアにも公開した場で率直に意見を交換し、合意点を探る狙いがある。

 「推定初期資源の20%への資源回復が必要だ」――24日午後、WWFジャパンの山内愛子氏と米ピュー慈善財団のアマンダ・ニクソン氏は記者会見し、漁業への悪影響などを理由に高い目標の採択に難色を示す日本に受け入れを迫った。

 水産庁の協力を受けて今回の会合を主催した北太平洋まぐろ類国際科学小委員会(ISC)は、事前に公表したシミュレーションで6つの目標案を掲げている。そのうち最大量の14万1千トンを含め3つは漁業がなかったと仮定して推計した初期資源量に対する20%の量を目安にしている。

 ■休漁なら確実に回復

 ISC試算では、産卵・ふ化が活発で0歳魚の加入が過去の平均程度なら高い目標も90%台の確率で達成可能だ。しかし、15年まで資源加入は低調で、それを前提に予測すると、暫定目標でも達成可能率は61.5%。高い目標を掲げるには規制強化が欠かせない。

太平洋クロマグロ資源管理をめぐる論点
長期目標の設定科学者のシミュレーションは現行暫定目標の親魚資源4万1000トン(2024年)への回復を含め最大14万1454トン(2030年)まで計6つの数量を提示。
モラトリアム
(一時的な禁漁)
資源回復のため漁獲をゼロにする 合意が先送りされる場合の策として、米国の環境団体などが支持。漁業への影響は甚大だが、資源回復は確実に進む
未成熟マグロの
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30キログラム(3歳程度)での成熟は2割程度。ほぼ全部が成熟する85キログラム(5歳程度)も漁獲量削減の対象に組み入れる
小型魚枠を
大型魚枠に移管
小型魚の漁獲量をさらに削減し、逆に大型魚の漁獲に振り替える。同じ重量でも尾数が少なく、資源に好影響を与えるとして日本が導入を検討
西太平洋(日本近海)を重点削減米国は漁獲削減のあり方として、過去20年程度の間、インパクト(資源量への影響)増大いちじるしい西太平洋(日本近海)での漁獲を大きく削減することを主張
違反操業の
監視・摘発
漁獲証明制度の導入、重量・尾数の計測方法の再点検、沿岸漁業者への配慮など。WWFは予防原則の観点から「より高い目標、より高い確率での回復」を要求

 ISCはすべての漁業者が一斉に休漁すれば、想定する目標はいずれも100%の確率で達成できるとの試算結果も示した。休漁が困難でも漁獲上限を基準値の35%、つまり現行規制より3割減らすシナリオでは、高い目標の達成可能性は25―51%程度にとどまるが、基準値の25%(現行規制の半分)にすれば、確率は48―79%に上昇することもわかった。

 WWFジャパンは「一時休漁が必要だといってきたが、今回の試算で初期資源の20%を超すような水準での合意を目指したい」(山内氏)と、利害関係者の歩み寄りに期待を表明した。

 今回の会合では、こうした長期目標を軸に小型魚漁獲の削減率の拡大、30キログラム未満から85キログラム未満への最大体重の引き上げによる保護対象拡大など様々な論点(別表)が浮上。ISCも条件に組み込んで試算した。

 米国や環境団体が求める長期目標が目指す親魚資源の量は現行の暫定目標の3倍かそれ以上に相当する。「予防的な措置を短期的にとれば、より早い資源回復(再建)が期待できる」(ジェラルド・ディナルドISC議長)。日本がそれに同意できるかどうかは、これまで先送りしてきた国内調整を行なえるかにかかっている。

 WCPFCの現行規制では日本の漁獲上限は小型魚4007トン、大型魚4882トン。漁業種類別、地域別に細かく上限が割り振られている小型魚の漁獲枠のうち2000トンは大型まき網漁船に割り当てられている。基準値をはじいた時期の実績をもとに「もっと多くてもいいところを抑えて設定した」水産庁幹部)という。

 ■まき網を重点削減

 しかし、漁業者の収入に直結する枠の算定根拠を一切開示していない。まき網による小型魚狙いの操業が資源悪化の原因だと見る沿岸漁業界は、規制開始以来、一貫して枠配分の見直しを要求し続けている。

 ISCの分析でもクロマグロ資源に対するインパクトの大きさは西太平洋のまき網漁船が全体の47%で最大。1980年代までほとんどなかったインパクトが90年代に急拡大。沿岸漁業者の訴えを裏付ける。米国なども日本近海のまき網操業の拡大が資源悪化の大きな要因だとして、WCPFCでの漁獲削減を西太平洋側で重点的に進めるよう求めている。

鳥取県の境港で水揚げされるクロマグロ
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鳥取県の境港で水揚げされるクロマグロ

 昨年末から今春にかけて12県で130トン以上のクロマグロ漁獲の未報告が発覚した。密漁ともいえる意図的な漁獲も一部にあったが、ブリやサバなどを狙ったのに近年にないほど大量発生したクロマグロ0歳魚を混獲したケースも少なくない。

 「まき網の枠を減らし、国による調整枠を設け欲しい。資源管理に協力する漁業者への十分な補償措置も必要だ」(山口県漁業協同組合の仁保宣誠専務理事)。意図しない混獲を抑えられず、枠の管理に四苦八苦している沿岸漁業者からは悲鳴に近い声も挙がっている。

 政府は18日の閣議で来年から法律によるクロマグロを漁獲可能量(TAC)対象に加えることを決定。違反操業には厳罰を科すことになるため、待ち受け型で漁獲対象を選別しにくい定置網漁業は、漁獲量を超過する場合は大型まき網漁業の枠を有償で譲り受ける制度を創設する方針だ。

 しかし「まき網漁業者に対してお金を払うのは論外。水産庁がまき網漁業の枠を減らすべきだ」(東北地方の定置網漁業者)と反発する意見も根強い。水産庁は並行して枠の凸凹を臨機応変にならす調整枠を新たに設定する案も検討を進めている。

 ■大型魚シフト警戒

 水産庁はさらにまき網業界に対し、小型魚から大型魚への漁獲対象のシフトを要請。小型魚漁獲の多い九州の日本遠洋旋網漁業組合(福岡市)との間でも年間400―600トン規模の養殖業界向け種苗(活魚)供給以外の小型魚の漁獲を減らすよう調整を進めている。

 会議に出席している大型まき網漁業関係者は「漁業が変わっていくきっかけになるだろう」と話す。重量が同じなら小型魚を残す方が将来の親魚がより多く増えるとの試算をISCもはじいている。ただ、産卵期に日本海西部に集まるクロマグロを狙いどりする大型まき網漁船には、沿岸の釣り漁師らが強く反発している。まき網漁船による大型魚シフトへの歯止めを求める声もある。(日経グローカル主任研究員 樫原弘志)

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