全国一のアサリの漁獲量を誇る愛知県。潮干狩りシーズンが到来したにもかかわらず、ことしは各地で潮干狩り場がオープンできない事態が起きています。原因は、アサリがとれないからです。なぜ、アサリは姿を消したのでしょうか?
(名古屋放送局・清都辰治記者)
アサリがとれない…
愛知県西尾市の潮干狩り場。例年、この時期は、たくさんの客でにぎわいますが、今シーズンは中止。理由はアサリがとれないからです。ことしは愛知県内に35ある潮干狩り場のうち14か所で中止となりました。
漁業にも影響が出ています。愛知県のアサリの漁獲量は年間8282トン(平成27年)と12年連続で日本一ですが、ことしは水揚げが全くない漁場があるというのです。水揚げしたアサリの置き場を案内してくれた衣崎漁業協同組合の黒田勝春組合長は「いつものとれる時期だったらここに並びますが、ことしはまだアサリはゼロです。漁師の人たちは困っています」と話していました。
伝統行事にも影響
愛知県半田市では地元の名産にも影響が出ました。海岸に山車が繰り出す、伝統の「亀崎潮干祭」。去年、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
300年以上前から続き、潮干狩りを思わせる名前のこの祭りに欠かせないのが、アサリの身を串に刺した「串あさり」です。串あさりを販売している地元の会社は、商品に見合う大きさのアサリが手に入らず、ことしは販売の中止を決めました。無形文化遺産の登録後、初めてとなる祭りが5月3日と4日に開かれる前に苦渋の決断です。
販売会社の会長の高井昭弘さんは「小さいと商品にならないです。お祭りには必ずこれが料理に出てきて、天ぷらにして味わうこともあります。販売中止はとても残念です」と話していました。
なぜとれない?意外な原因
なぜ、ことしはアサリがとれないのでしょうか。通常、考えられる原因はアサリを食べる天敵のツメタガイや、海中にひそむ寄生虫のカイヤドリウミグモの増殖です。
しかし、今回は別の原因が大きいと見られています。
それは「風」です。愛知県水産試験場の松村貴晴主任研究員は「平成25年、26年にあった台風などの影響でアサリが減少したのではないかと考えています」と話しています。台風に伴う強風で、海が荒れたことが原因だと分析しているのです。
アサリは砂の中で成長しますが、強風で海に強いうねりがおきると、海底の砂がかき混ぜられ、中にいるアサリの稚貝が巻き上げられてしまいます。その結果、アサリの稚貝は岩場など生息が難しい場所に流されたり、外敵に食べられたりして減少してしまったのではないかというのです。
データからも裏付けられています。平成25年の台風26号での愛知県沿岸部の海流のスピードをグラフにしたものを見ると、普通、海流は毎秒20センチ前後の速さです。ところが、台風が襲来したときはその3倍にあたる毎秒60センチまでに速くなっています。
特に、平成25年10月の台風26号では4倍近くの海流が発生していることがわかりました。これがアサリの生育に影響を及ぼした可能性があるというのです。
“砂利”でアサリを増やせ!
なんとかアサリを増やしたい。
水産試験場では、ある対策に取り組んでいます。ポイントは砂利です。アサリがいる遠浅の海に2ミリから5ミリの砂利をまくのです。砂利は砂より重く、少々海がうねっても巻き上げられません。アサリは潜ったまま安心して成長できるというのです。
効果を確認したところ、砂利をまいた海では、およそ4割のアサリが残っていました。一定の効果がでているといいます。松村主任研究員は「愛知県はずっとアサリがとれてきたところなので、前のような形に復活させたいです。全国にアサリを供給する大きな役割も担っていると思うので頑張っていきたいです」と話していました。
全国で激減するアサリ
実は、アサリが減っているのは、愛知県だけではありません。愛知県に次いで2番目にアサリの漁獲量が多い静岡県でも、ことしアサリの資源量が十分ではないとして、浜名湖の潮干狩りが2年連続で中止となりました。
農林水産省によると、アサリの全国の漁獲量は平成23年に2万8793トンありましたが、平成27年には1万3810トンに半減しています。水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所の浜口昌巳干潟生産グループ長は「アサリが減っている原因には諸説ありますが、大きく分けると2つの原因が挙げられます。1つは地球温暖化による海水温の上昇です。アサリは北方系の生物なので、水温が高いと生育によくありません。また、亜熱帯に生育するナルトビエイが、日本周辺に北上してきてアサリを食べてしまうこともあります。もう1つの原因は、日本沿岸で窒素やリンが減って、アサリの餌となる植物プランクトンも減ってしまった影響も考えられます」と話していました。
アサリに忍び寄るさまざまな危機。大型連休に潮干狩りを計画されている人も多いかもしれません。小さい貝は逃がすなどぜひルールを守って楽しんでほしいと思います。
- 名古屋局
- 清都 辰治 記者
- 平成23年入局 富山局をへて
名古屋局 中部空港支局で
農林水産など担当