CULTURE
NYタイムズ東京支局の現役記者が明かす「日本人が1日30分でできる最後の英語学習法」
Hisako Ueno 上乃久子
ニューヨーク・タイムズ記者。1971年岡山県倉敷市生まれ。1994年に四国学院大学文学部英文学科卒業後、同大学の事務職に就職。その後、東京都内のバイリンガル雑誌社、翻訳会社、ロサンゼルス・タイムズ東京支局、国際協力機構(JICA)を経て、現在、ニューヨーク・タイムズ東京支局に記者として勤務。サイマル・アカデミー同時通訳科修了。
2012年から「ニューヨーク・タイムズ」の東京支局記者として働く上乃久子は、海外経験ゼロ、留学経験もゼロだ。四国の大学を卒業し、上京。必死の勉強で「ロサンゼルス・タイムズ」の東京支局を経て、現在のポジションに就いた。ちょうど、英語学習法の新刊を上梓した上乃に、クーリエ・ジャポンがインタビューした。
ニューヨーク・タイムズの日本発記事の現場
──「クーリエ・ジャポン」では多数の海外メディアの記事を翻訳掲載していますが、「ニューヨーク・タイムズ」に関しては掲載頻度も大変多く、日本関連の記事では “Hisako Ueno contributed reporting.” という表記がしょっちゅう登場するため、編集部でも上乃さんの名前はなじみ深いものです。
今日は、上乃さんが提唱する勉強法と、上乃さんの「ニューヨーク・タイムズ」での日常を教えて下さい。
私の仕事は日々のニュース次第ですから、決まった予定はありません。取材のアポが入っていないときは、ひたすら資料とニュース、メールをチェックし、東京支局の特派員2人と情報を共有する日々です。
支局長モトコ・リッチ、経済担当ジョナサン・ソーブルという東京支局の2人の特派員が出稿する記事の取材を行うのと、支局長の取材の通訳・翻訳作業が、私のメインの仕事になります。特派員の出張取材ともなれば、車の運転からホテルの予約、新幹線のチケット手配も行い、取材スケジュールを組み、取材主旨を説明してアポも取ります。そこから取材となるわけですが、支局長のインタビューに同行する際は、逐次通訳を行います。
──「クーリエ・ジャポン」でも、リッチさんとソーブルさんの2人の記事は多数翻訳掲載していますが、扱うジャンルも広いですね。何が出てくるかわからないから、取材現場での逐次通訳は大変でしょう。
ものすごく緊張して、いつも胃が痛いです。なるべく事前に資料を読み込んでいくのは必須です。出てくることが想定される単語はリストアップをして、必ず準備しています。
──特派員の扱う記事は、エディターの指示で決まるのか、独自で決めているのですか。
両方ですね。2人とも得意な分野がありますから、日頃から暖めている独自の企画もあれば、その日になって「これをやってくれ」というエディターからの指令が来るときもあります。
特集企画については、私もネタを出します。「こんなことがあった、あんなことがあったよ」と立ち話で話したり、日本の面白い記事を見つけたら、サマリーを書いて、メールで2人にピッチします。
私は、まず朝起きてすぐに大きなニュースがないかテレビ、新聞、ネット、メールをチェックします。緊急の場合はそのまま自宅でリサーチを開始することもあります。10時ぐらいに支局に入りますが、ニューヨーク・タイムズのとりあえずの第1弾の締め切りは、香港のエディターに送稿する日本時間の夜7時から8時ですから、そのあたりの時間は特派員にとって佳境になります。私はその前までに情報、データを上げる必要があります。
毎日30分の英語学習法
──今回、上乃さんは『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法』(小学館)を出版されました。「純ジャパ」のための正しい学習法が、スピーキング、発音、リスニングからボキャブラリーにいたるまで、全ジャンルにわたってわかりやすく解説されています。
上乃さんのキャリアをうかがう前に、まずは上乃さんが本書で提唱されている「30分サーキットトレーニング」という1日30分の英語学習法を教えてください。
1週間に1回、3時間だけやるよりも、毎日30分を継続して続けることのほうが、よほど大事です。1日30分を確保できたとして、私が考える効果の高い英語勉強法のトップ3を考えてみました。
1 「50英文」の音読(5分)
2 シャドーイング(10分)
3 ディクテーション(15分)
この3本柱、これらをインターバルなしで、30分間でやり通すのです。
──音読の「50英文」とは?
自分の1日を50の英文で表現して作っておくのです。本の中では、例えば、独身の女性であれば、“The alarm goes off at six o’clock.”にはじまって、“I sleep soundly until the alarm rings again.” にいたる、1日の生活で使いそうな表現を50個挙げました。これを毎日5分音読していくんです。
音読はとにかく声に出して読むことで、英語を体になじませるものです。口から英語が自然について出ることに慣れるためのウォーミングアップで、いわば「素振り」のようなもの。スピーキング力とリーディング力の向上にも繋がります。
──その次が、シャドーイングですね。
集中して聞いて、それを同じようにオウム返しで口に出す。イントネーションや声の大きさを、なるべくネイティブに近づけていきます。集中力を傾け、注意をして聞かないと、聞いた音は口から出てきません。口に出すことが目的ではなく、注意してリスニングする力を鍛えるトレーニングです。英語が聞き取れないのは、集中して聞いていないからです。抑揚やリズムをまねすることで、滑らかな英語を話す訓練にもなります。
──シャドーイングの教材としてお勧めなのは?
ただ音を上滑りで繰り返しているだけでは効果がありません。ひとつの教材を繰り返しこなして、潰していくのが大事です。
ディクテーションでもそうですが、教材としてはスピーチよりも、インタビューの音源を使うのが一番いいと思います。映画スターでも、スポーツ選手でも、ミュージシャンでも、自分が興味あるテーマであれば、すっと内容が入ってきます。話し言葉特有の「間」や「よどみ」「言い直し」も含めて、相手が自然に語りかけてるものがいいんですね。実際に自分が話す場合も、相手に語りかける場面がほとんどですから。
『ENGLISH JOURNAL』や『CNN ENGLISH EXPRESS』といった月刊誌にも、たくさんのインタビューが掲載されています。オバマさんのスピーチも素晴らしいのですが、シャドーイングの教材にするには、あまりにも壮大すぎるという感じがします。同じオバマさんでも、カジュアルなインタビューといったものを教材にしたほうがいいでしょう。
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