旅行が好きで、荷物を引きずって歩くのにうんざりしていたら、電動スクーターとしても使えるスーツケースを購入したらいい。卸売価格250ドルで自分のものになる。最低発注量は輸送用コンテナ1台分――。
15~19日に広州で開かれた中国最大の貿易見本市「中国輸出入商品交易会(広州交易会)」で売られていた、このどこかばかばかしい発明品は、現代のT型フォードにはなりそうもない。
だが、この商品に興味を持ち、あれこれ質問していた欧米や中南米のバイヤーの人だかりは、中国製造業者の進取の精神の証しだった。
■世界の需要次第で生死が決まる
中国の習近平国家主席は今年1月、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、自身を経済グローバル化の擁護者として打ち出し、トランプ米大統領が(まだ導入はされていないかもしれないが)推進している保護主義とのコントラストを意図的に描いてみせた。
習氏の講演は欧米の評論家から称賛を浴びたが、同氏は説得力のある自由貿易のシンボルではない。というのも、中国経済に対する国家管理を強化し、外国人投資家の生活を困難にしようとしているからだ。
年に2度開催される広州交易会で約20万の海外バイヤーに対して自社製品を売り込んでいた2万社の中国メーカーの方が、グローバル化の模範的存在としてずっと優れている。
中国は世界最大の工業製品輸出国であり、この見本市は浴室器具からスマートフォンまであらゆるモノを販売する巨大で騒々しいショールームだ。
出展業者の一部は国有企業で、多くが何らかの形で政府の支援を受けているとはいえ、基本的に、自社製品の世界的な需要次第で生死が決まる。
このため、これらのメーカーの営業担当者は英語を学び、技術者はコストと製造時間を削減するために組み立てラインを調整し、商品開発チームは顧客ニーズを満たす方法を見つけ出すまで細部をいじり続ける。
過去10年間、中国で賃金――それゆえ製造原価――が急激に上昇すると、製造業者は一段と機敏になることを強いられた。企業は産業ロボットの利用を増やし、米アマゾン・ドット・コムなどの動きの速い小売業者の要求に応えるために商品の生産・出荷を速め、研究開発の業務を増やし始めている。
広州交易会では、商品価格が急落した後、スーツケースメーカーに転じたアルミ製造業者や、ホバーボード(電動で動くスケートボード型の乗り物)の大流行に飛びついた経営不振の園芸用具メーカーを見つけることができる。