動画配信サービス大手、米ネットフリックスの全世界の加入者数がこのほど1億人を突破した。オリジナル作品の豊富さと積極的な海外市場進出を通じて加入者数を堅調に拡大してきた。市場の成熟化による加入者の伸び鈍化も懸念されるが、「成長の妨げになる壁は無い」とリード・ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)は今後の成長力に強気の見方を示す。米国外で視聴者を広げられるかがカギを握る。
「(1億人突破は)大きな成果だが、始まりにすぎない。ユーチューブやフェイスブックの利用者数は10億人以上。ネットがもたらす機会はまだまだ大きい」。アナリスト向けビデオ会見で、ヘイスティングスCEOはこう強調した。「これまでどおり優れたコンテンツを作り、視聴者に喜んでもらう。そうすれば成長は続く」と自社の戦略に自信を見せる。
加入者拡大についてネットフリックスが最大の要因として挙げるのが同社が5年前から積極的に製作してきたオリジナル作品だ。ドラマ、コメディー、ドキュメンタリーから、子供向け番組や映画まで幅広いジャンルの作品を手掛ける。同社は視聴できる作品全体のうちオリジナル作品が占める割合を約半分にまで引き上げることを目指す。
同社のオリジナル作品は質の高さにも評価が集まる。日本円で約100億円以上をかけて企画・製作した政治ドラマ「ハウス・オブ・カード」は13年、優れたテレビ番組に贈られるエミー賞をネット配信ドラマとして初めて受賞。ほかにも女性刑務所を舞台にした「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」などヒットドラマを次々に生み出した。
また、今年のアカデミー賞ではシリアで救助活動するボランティアの姿を追った作品が短編ドキュメンタリー賞を受賞するなど、存在感が増している。
オリジナル作品製作への積極的な投資は今後も続ける。16年に600時間分提供していたオリジナル作品を17年には1.5倍に拡大し、製作費は前年より10億ドル多い60億ドルを投じるという。
オリジナル作品に加えて注力してきたのが米国外への進出だ。同社は10年のカナダ進出を皮切りに国外展開を開始。高品質なオリジナル作品が充実してきた16年初めには、世界約130カ国・地域で一斉にサービス提供を始め、現在では190以上の国・地域で展開する。6月末には国外市場の加入者数が米国とほぼ同規模に迫ると予測する。
テレビ番組をネット経由で有料配信する「OTT」サービスで、米国市場で圧倒的なシェアを握るなど優位に立つネットフリックスだが、取り巻く環境も競争が激しくなっている。ネット通販大手の米アマゾン・ドット・コムもオリジナル作品への投資を強化。ユーチューブやHulu(フールー)も勢いを増している。競争激化につれて製作費は高騰し、株式市場での業績の不安材料の1つとなっている。
オリジナル作品への投資拡大の結果、17年通期のフリーキャッシュフロー(純現金収支、FCF)は20億ドル(約2200億円)のマイナス。米ニーダム・アンド・カンパニーのアナリスト、ローラ・マーチン氏は「20億ドルのFCFのマイナスや、マイナスが何年も続く状態はリスクであり、業績の鈍化につながる」と指摘。FCFに関する懸念を払拭できるほど加入者の成長が続けられるかがに注目が集まる。
肝心の加入者数の伸び率は減速している。米国市場の加入者数は現在約5000万人と半分を占める。「6000万~9000万人まで加入者数を伸ばせる」と同社はみるが、鈍化傾向にあるのは明らかだ。継続的な成長の鍵となるのは注力する海外市場となるが、好調な欧州や中南米に対しアジアや中東、アフリカでは普及に時間がかかっていることが指摘される。
海外市場ではこれまで米国で製作したオリジナル作品のブランド力で新規加入者を獲得してきた。ただ、国ごとに視聴環境や番組の嗜好も異なる。日本を含めすでに13カ国でオリジナル作品を製作しているが、進出先の言語のオリジナル作品も増やすことで市場を開拓していく予定という。
(シリコンバレー=藤田満美子)