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(旧)死神皇帝のバイト妃 作者:カホ

第1部 死神皇帝のバイト妃

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免疫がない!

デルドアの裏町でチンピラにボコボコにされた青年に助けられ、さらにその青年を助けたアクアマリン。その青年は、現在自分が負ったはずの傷がきれいに治っているのを見て目を白黒させている。

「大丈夫ですか?」
「……ああ。俺はさっきまで怪我してたはずなんだが…?」
「それは…私が治しました」
「…つまり君は、光属性の魔力を持っているのか?」
「はい」

まあ、きずをなおすわかりますね。アクアマリンが青年を治した時点で、光属性魔力のことはバレているだろうから、アクアマリンは変に隠さず正直に話した。

「あの……このことは秘密にしておいてもらえますか?知られちゃうといろいろマズいので…」
「当然だ。他言しないと約束しよう。だいたい、光属性の魔力なんて、バレたら大変なことになるだろ」

アクアマリンが言い切る前に、青年は力強く頷き、立ち上がる。この人ならむやみに秘密を漏らさなさそうだ、とアクアマリンはひっそりと安堵の息をついた。

「あの……さっきは助けてくださって、ありがとうございました。私ではどうにもなりませんでした」
「いや、俺の方こそありがとう。君の手当てがなければ死んでてもおかしくなかった。本当に助かったよ」
「いえいえ。当然のことをしたまでです」

首を横に振り、アクアマリンは尻餅をついたときにひねった右足に負担をかけないように立ち上がる。しかしやっぱり歩こうとすると痛いので、ひょこひょこ歩きになってしまう。

「……足、怪我してるの?」

青年に目ざとく言い当てられてしまう。

「え?あ、いいえ。さっき転んだ時にちょっとひねっただけです。問題ありませんよ」
「……」

大丈夫だと伝えたのだが、青年は未だ難しい顔をしながらアクアマリンの足を見ている。

「…あ、あの?」
「…ちょっと失礼」

アクアマリンに一声かけて、青年は近づいて来たかと思うと、いきなりアクアマリンを抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこである。

「え……え!?」

突然のことにアクアマリンは一瞬キョトンとし、続いて今自分が男性に抱えられている状態に気づき、顔を赤くして慌てた。アクアマリンは異性にこんなことされたことないので、さっぱり免疫がない。

「え、ちょ……だ、大丈夫です!一人で歩けます!」
「いいや、俺のせいで怪我させたようなもんだ。責任は取らせて欲しい」

恥ずかしくて慌てて抗議するが、青年にきっぱり却下されてしまった。アクアマリンの怪我は別に青年のせいじゃないんだけど……。

「俺はアビス。家はどこ?送って行く」
「……えっと、私はよそ者ですから、まだ宿を取っていなくて……」
「そうなのか…」

見慣れない顔だと思ったが、なるほど旅人の類か。自分が抱えているピンクプラチナの髪の少女を見て、アビスは納得する。だいたい、これほどの美少女が街にいるなら、とっくの昔に有名人だ。

「なら、俺の家に連れて行っても構わないか?お袋が家にいるから、足を手当してもらった方がいい」
「え?!い、いいえ!そこまでお世話になるわけには……」
「その足では長く歩いてられないだろ。宿を取るにはまだ歩かないといけないだろ?」
「うぐ……」

反論ができずに、少女が黙り込む。恥ずかしがっているのか、顔が真っ赤だ。

「……じ、じゃあ…そう、してください……」

やがてボソボソと少女がつぶやく。無意識の言動だろうが……可愛いな。

アビスが今まで会った美人たちは、全員が全員『自分は美しい』アピールを全面に出してきていたから、アビスは逆にウザいと感じていた。だからそういうわざとらしさを感じないこの少女には好感が持てた。

「わかった。じゃあちょっと辛抱して。俺の家は結構この近くだから」
「は、はい……」

男にこういうことをされているのに慣れていないのか、目を泳がせて少々挙動不審になっている少女は、落ちないようにするためか、アビスの服をぎゅっと掴む。

「……」

……言葉にならない。なんなんだ、この天然すぎる人垂らしは。破壊力が凶悪すぎるだろう。

なんとも言えない気分になりながら、アビスは少女を抱えたまま家へと向かう。

道中、少女の美貌がいらぬ注目まで集めたのは言うまでもない。


****

アビスという青年に助けられ、アクアマリンは彼の家で足を手当してもらうことになった。フローラは二人の上空を飛んでいる。

さっきからずっとお姫様抱っこのままなので、アクアマリンは恥ずかしくてアビスにしがみついて顔を隠している。顔が熱くて爆発しそうです。

「おーい、着いたよ」

中通りをしばらく歩くと、アビスに声をかけられた。

顔をあげると、アクアマリンは今二階建ての一軒家の前にいた。玄関前には小さな花壇があり、クリーム色が主体の可愛い感じのお家である。

「えっと……ここがアビスさんの家?」
「じゃなかったら連れてこないだろ。それから……」
「…?」
「あの上を飛んでる鳥って、君の従魔?」

目線だけ上空にやって、アビスは旋回するフローラを見上げる。

「あ…はい。フローラは私の従魔です。ちゃんと従魔の首飾りもつけていますから大丈夫です」
「ふぅん。クリスタルバードなんてよく捕まえたね」
「…アハハ。ちょっと成り行きで……」

勝手について来たとは言えず言葉を濁し、アクアマリンは腕を上げてフローラを呼ぶ。

「ピョ!」

一直線に綺麗に滑空し、アクアマリンの腕にピタッと着地するフローラの頭を、アクアマリンはわしゃわしゃと撫でる。

「あの……この子も一緒に入っていいですか?」
「いいよ。そいつ無害そうだし、可愛いから母さんも文句言わないだろ」

あっさりと許可は降り、アビスは玄関前まで進み、ドアを足で蹴り開ける。え、足で?!びっくりおののくアクアマリンをよそに、アビスは涼しい顔で家に入っていく。

「お袋、帰ったぞー」
「あら、アビ?またドアを蹴り開けたの?もっと丁寧に扱いなさいと言ってるのに」

アビスの声が家の中に響き、リビングから美しい女性が顔をのぞかせる。

「しょうがないだろ?両手ふさがってるんだから」
「何、買い物でもしてきた……ってあっらぁ~!ちょっとアビってばそんな綺麗な子どうしたの!」
「お、お邪魔しています……」

アビスはイケメンだから、そのお母さんも例外ではなく美人でした。勝手にあがってよかっただろうか?と不安になるアクアマリンをよそに、アビス親子の会話は続く。

「アビ、ダメじゃないの、女の子をさらって来たりしたら!」
「してねえよ!逆に俺の方が助けてもらったんだよ」
「あら。そうなの?」
「ああ。ただ、俺を助けてくれた時に足をひねっちまったんだ。お袋に手当してもらおうと思ってな」
「そう……君も大変なのね…。アビ、ダメじゃないの!」
「何がだよ!?」

なかなかにコミカルな感じの明るい親子で、それが国にいた頃のローゼンクロイツ家と少し似ていて、アクアマリンは無意識に笑みを漏らした。

お父様とお兄様、今頃何をしていらっしゃるのでしょうか?

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