何らかの全く予期せぬ事態が起こらない限り、5月7日のフランス大統領選の決選投票はエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相が勝利を飾る見通しだ。わずか1年足らず前まで公職選挙に立ったことがなかった若き政治家だ。23日の第1回投票前の各種世論調査では、決選投票で39歳のマクロン氏が極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首を大差で破ることが示されていた。得票率の差は少なくとも20ポイントに達すると予想される。
第1回投票でマクロン氏が首位に立ったことで(出口調査による推定得票率は23.7%)、欧州全域、そして民主主義国家の政府は大きな安堵を感じるだろう。よく考えられた国内経済改革、欧州連合(EU)の繁栄、リベラルな国際秩序を訴える中道系独立候補としてマクロン氏は、昨年の英国民投票によるEU離脱決定と米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利の後、その秩序が崩れようとしていると危惧した人々の希望を体現している。
3月のオランダ総選挙で極右の躍進が食い止められたことと、9月のドイツ総選挙で穏健な中道右派または中道左派が勝利する見通しにあることと併せて、フランス大統領選の第1回投票の結果は、欧州の自由民主主義とEUそのものの死亡記事を書くのは早すぎることを示している。
それと同時に第1回投票の結果は、1958年にシャルル・ド・ゴールが確立したフランスの政治システムが受けている打撃を象徴している。ほぼ60年を経て初めて、左派と右派の二大政党の候補者がいずれも大統領選の決選投票に進めない結果となった。第5共和制の政党政治の既成勢力が私たちの眼前で瓦解した。
しかしながら、マクロン氏を完全なアウトサイダーとして描くのは誤解を生む。事実、数年前に旧来の政党政治の崩壊を見て取り、フランスの有権者に新鮮な顔として示せる候補者を探していた政官界のエリート層の幅広い方面から、マクロン氏は望ましい候補と見なされている。マクロン氏は、エリートを養成する国立行政学院などフランス最高の教育機関で学び、現大統領のオランド氏の下で政策顧問と経済閣僚を務めた。
■圧倒的多数の確保は不透明
マクロン氏が5月7日に予想通り勝利を収めても、政権運営はやすやすとはいかないかもしれない。6月の国民議会選挙では、純然たる政治的勢いがマクロン氏の政治運動「前進」の多くの候補者の当選を助けるとしても、圧倒的過半数が得られるとは限らない。最も可能性が高いのは中道の大きな「大統領派」がマクロン氏を支える構図だが、同氏は極右、保守的右派、左派から攻撃されることになる。
伝統的な左右の対立軸でおおむね政治が認識され、争われてきたフランスにとって、これは未知の領域だ。マクロン氏はフランスに経済的活力を取り戻し、フランス社会の大部分を覆う停滞感を一掃するうえで必須と考える改革を断行するために、連立の構築と厳しい交渉が必要になるかもしれない。
一般市民の間でも、かなりの反対があるかもしれない。この点は、第1回投票で有権者の10人に4人以上がルペン氏か急進左派のメランション氏を支持したという事実が示唆している。2012年大統領選の第1回投票では、この2人の合計得票率は29%にすぎなかった。
多くのことがマクロン氏がどれほど積極的に改革を追い求めるかに左右されるだろう。選挙戦では、どこまでやるつもりなのかをはっきり示していないと非難されている。フランス企業の競争力を高めるとする一方で、福祉国家を守るとも言う。口癖の一つが「と同時に」であるのも偶然ではない。誰にも何かを与えられるように思わせる定式なのだ。
マクロン大統領がオランド氏やサルコジ前大統領と同じようにつまずけば、次回の22年大統領選でルペン氏、あるいは別の猛烈な反体制候補を権力の座に近づけることになりかねない。
By Tony Barber
(2017年4月24日電子版 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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