成功企業から学ぶ「精神障害者雇用」導入マニュアル


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精神障害者雇用義務化、どうすればいい?

2018年4月から、精神障害者雇用が義務化されます。
(関連記事:2年後にはじまる「精神障害者雇用義務化」 メンヘラも働ける社会がはじまる?

これは精神障害者側から見れば就業と経済的自立、社会参加の良いチャンスなのですが、採用する企業側から見ると難しいことのように感じるかもしれません。

例えば、「精神障害者ってどうやって接したらいいの?」「精神障害者を雇用する時の注意点は?」「どんな環境を整えればいいの?」などなど、疑問は尽きませんよね。

そんな中、実はすでに精神障害者雇用を先駆けて実施し、成果を上げている企業たちがあります。それも一つや二つではありません。

厚生労働省のホームページに、「精神障害者雇用の事例集」というものが掲載されています。精神障害者雇用の経験やノウハウが不足していた事業所が、受け入れの仕組みを構築し、精神障害者雇用ための社内環境作りに成功した事例を集めています。ここには採用前・採用時・採用後の様々な取り組みや、成功談・失敗談、改善案やアドバイスが凝縮されており、多くの事例に目を通すとある種の共通点も見えてきます。その共通点は「誰もが共通して抱える課題」として、精神障害者雇用を考える企業の担当者のみなさんにも参考になるのではないかと思います。

今回はこの「事例集」の中から、精神障害者雇用の導入時(採用前〜採用時)の事例をかいつまんでまとめ、各社がどのような取り組みを行ったのか一覧で紹介していきます。

最後に、各事業所の取り組みに共通する点についても考察していきます。。

 

精神障害者雇用、導入企業の事例まとめ

各事業所の事例から「事前の取り組み」「採用に際して注意したこと」を読み取り、以下にまとめました。

 

【SMBCグリーンサービス株式会社】

■事前の取り組み
・精神障害者雇用促進チームを結成。専門家や行政担当者を加えて会議を開く。
・精神障害者が働きやすい勤務時間を設定
・就労支援機関から紹介された精神障害者を雇う(外部の専門家の目線)
・社員へ理解を求める
・相談室と休憩室を設置

■採用に際して
・優秀な人ばかりだったので、体力重視、フルタイムで働けそうな人を採用

 

【株式会社NTTデータだいち】

■事前の取り組み
・親会社の業務の切り出し
・社内ジョブコーチと就労支援機関
・海外の企業の取り組みを見学
・パーテーション設置、休息用ベッド設置

■採用に際して
・技術面を重視したテスト
・コミュニケーションが苦手な人が不利にならないように、面接だけでなくアンケートも実

 

【株式会社 かんでんエルハート】 

■事前の取り組み
・カウンセラー(臨床心理士、精神保健福祉士)を雇用
・業務指導にあたる役職者全員に第2号ジョブコーチを取得させる
・勤務時間は段階的にフルタイムを目指した
・カウンセリングルームの設置
・精神障害に関する社員向けの研修

■採用に際して
・知識や就労意欲を見るための筆記テスト
・症状が安定していて自己管理ができる人が欲しい→面接には必ず精神科医や社内カウンセラーを同席させる

 

【清水建設 株式会社】

■事前の取り組み
・アセスメントのため臨床心理士を採用
・職場に実習の場を用意する。精神障害者本人にとって実習になるだけでなく、一般従業員にとっても学習の機会になる。精神障害者の存在を日常にする。

■採用に際して
・就労意欲があるか
・労働力として許容できるか
・自己管理ができているか、自律性があるか

 

【第一生命チャレンジド 株式会社】

■事前の取り組み
・雇用促進のためのプロジェクトチームを結成
・就業時間は弾力的に設定
・精神障害者の就労支援経験のある人を増員

■採用に際して
・就労支援機関と連携して採用活動を行う

 

【株式会社 ダイキンサンライズ摂津】

■事前の取り組み
・ジョブコーチ経験者を採用
・専門家による勉強会
・リーダーがSOSのサインに気づけるようになった
・相談しやすい場で相談を受ける。カウンセリングルームも設置
・直接指示をする職場のリーダーを中心としたサポート隊を結成

■採用に際して
・仕事の能力、協調性の有無、自己中心的な考えをしないことを重視
・就労支援施設と連携しているかどうか(生活リズムの安定を重視)

 

【株式会社 髙島屋】

■事前の取り組み
・ハローワークの協力を仰いで精神障害者雇用の現状、プロセス、症状などを学ぶ
・他社事例を見学
・社内報で社内に理解を求める

■採用に際して
・ハローワークの協力を仰ぐ
・自分の症状や希望を正確に説明できるかどうか
・就労支援機関の人が面接に同席

 

【中央労働金庫】

■事前の取り組み
・ハローワークと就労支援機関
・各種研修やセミナーに参加、職員養成
・関わりのある部署に精神障害者の特性を説明
・精神障害者チーム用の執務室を作った

■採用に際して
・デイケアや就労移行支援の現場へ行って視察、スカウト。
・臨時職員として採用、トライアル雇用やステップアップ雇用の後、常時雇用へ

 

【株式会社 日立製作所】

■事前の取り組み
・精神保健福祉士の配置
・有識者を集めた雇用促進チームを作る
・社内サポーターの募集
・実習の後、ステップアップ雇用
・実習の成果をプレゼンさせる

■採用に際して
・事務処理能力、自己管理能力、コミュニケーション能力を重視
・就労支援機関が付いている人が望ましい(ダメな時にダメって言えることが大事)
・「働きたい」という強い気持ちがあるか
・自律性を求める

 

【三菱商事太陽 株式会社】

■事前の取り組み
・精神保健福祉士を採用、プロジェクトチームを結成。
・ワークサポート室を設置。精神障害者の相談を受け、医療機関や就労支援機関と連携して対応。健康と仕事面をサポート。
・社内外で説明会。理解を求める
・働きやすいスペースを作る
・面談室を作って相談しやすくする

■採用に際して
・社外の就労支援機関に相談できる人がいること
・自己コントロールができる
・就労意欲がある
・基本的なパソコン操作ができること

 

各事業所に共通してみられる工夫とは?

「社内環境作り」に見られる共通点

まず、各事業所の社内環境作りについて、共通して見られる点をまとめてみましょう。

上の一覧を見ると、「受け入れ態勢の整え」「社内への働きかけ」のふたつの軸で多くの事業所が社内環境作りに取り込んでいたことがわかります。

「受け入れ態勢の整え」について取り組みには、以下のような共通点が見られました。

・就労支援機関やハローワークなどと連携。精神障害者雇用のプロセスやノウハウを学ぶ
・臨床心理士、精神保健福祉士などの、精神障害者に関する専門家を採用し、配置
・ジョブコーチを養成、採用
・有識者を集めた雇用促進チームの結成

全てに共通するのは「精神障害者雇用に必要な知識を持った専門家と連携する」ことです。各機関と連携しながら、社内の環境を整えていった事業所が多かったです。

「社内への働きかけ」については、以下のような共通点が見られました。

・勉強会や説明会、社内報などを利用し、社内の精神障害者雇用についての理解を深める
・業務の切り出しを行い、精神障害者に任せる仕事を分別

社内の障害者雇用への理解を求めることや、どのような業務を精神障害者に割り振るかを分別すること、こういったことを中心に社内に働きかけている例が多々見られました。

外部の支援機関や専門家と密接に協力しつつノウハウを学ぶ、という姿勢は社内環境作りにおける大きな共通項のひとつです。また、そういったノウハウを社内の一般従業員にどうシェアしていくか、理解を深めていくかというのも重要な点でしょう。

 

「働きやすい環境づくり」に見られる共通点

雇用した精神障害者が働きやすい環境をいかに作るかという点では、以下のような工夫が見られました。

・パーテーションを導入する、専用の執務室を設けるなどして落ち着いて仕事ができる環境を作る
・相談しやすい場所を作る(カウンセリングルーム、面談室など)
・勤務時間を柔軟に設定

このように、働く上での精神的肉体的負荷を軽減させるための取り組みが随所に見られます

 

「採用」についての共通点

採用にあたっては下のような工夫が共通してみられます。

・外部の専門家の視点を導入。面接に臨床心理士や就労支援機関の人を同席させる。
・面接、筆記テスト、技術テストなどを実施し、多角的に評価する

といった、就職志望者のメンタルヘルス状況に合った多角的な評価基準が導入されています。
また面接時に臨床心理士を同席させるなど、志願者の精神的負荷にも配慮が見られます。専門家の視線を導入することで、志願者の現在の精神状態について客観的に評価することも重視されているようです。

ちなみに「採用人材」については

・労働力として使える人
・就労意欲がある人
・生活リズムが整っている人
・自己管理ができている人
・「わからない」「ダメ」「できない」がはっきりと言える人
・就労支援機関と繋がりを持っている人

などの点が評価されるポイントとして共通していました。
意欲・技能などが求められるのは一般就労と変わりありませんが、生活リズムなどの面も考慮されているのは精神障害者雇用独特の評価軸と言えるでしょう。

 

■おわりに

精神障害者雇用の導入について、成功事例とその共通点をご紹介しました。精神障害者雇用の実践に向けて役立てていただければ幸いです。厚生労働省のホームページから事例集に目を通してみることも改めておすすめします。準備期間や勤務時間など、詳細な数字が掲載されているものもあり、色々な面で参考になるかと思います。

事例集を全て読んだところ、就労支援機関との連携、臨床心理士や精神保健福祉士などの専門家の協力が重要、という印象を受けました。また、当然ですが、精神障害者自身にもある程度の労働力、就労意欲、自己管理能力などの社会人としての能力が求められているようです。自身の症状について説明できることも大切なことですね。

精神障害者雇用の義務化をきっかけに、どんな人でも働きやすい社会になることを祈っています。


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会社員時代の自殺が未遂に終わり、いろんな意味で「サービスで生きてる」無職。生きてる以上、楽にやっていきたい。少しでも死にたい人のお役に立てればと思います。

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