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村上春樹『騎士団長殺し』刺身も生牡蠣もウイスキーで食べるってそれおいしいの?(特別寄稿・鴻巣友季子)

2017年4月24日 10時00分
米光一成と鴻巣友季子の対談本『村上春樹「騎士団長殺し」34の謎』のもととなったイベントの質疑応答のコーナーで「作中で主人公がつくる料理が1970年代の喫茶店みたい」という指摘を受けた。
たしかに! と鴻巣友季子が材料を揃えて、実際に料理をつくってみたのが前編。さて、後編で検証されるのは───。
『村上春樹「騎士団長殺し」34の謎』米光一成×鴻巣友季子(アオシマ書店)

お酒のチョイス問題


つぎに、村上春樹『騎士団長殺し』に関して、現在ちょっとした物議を醸しだしているのが、お酒のチョイスだ。


料理はほとんど友人の雨田政彦が作る。
雨田が伊東の魚屋で買った新鮮な生牡蠣四つずつ
同じく雨田が買ってきた鯛のおろしたての刺身
ぱりぱりに炙った鯛の皮
わさび漬け
豆腐
鯛のあらで出汁をとった吸い物
雨田持参のシーヴァス・リーガルをオン・ザ・ロックで。

『騎士団長殺し』第2部P171より)

小田原名物わさび漬けは買い忘れたが、おおむね忠実に作った。伊東の魚屋の生牡蠣は、相模湾産の殻付き牡蠣だろう。
「ぱりぱりに炙った魚の皮」は作り方が不明だが、手近にあった鰤の皮を引いて、塩をふり、網焼きグリルで裏表を返しながら焼いた。昭和的スナックか小料理屋で、「ちょっと炙ったのでどうぞ~」的に出てきそうな気もする。
豆腐は食べ方がこれまた不明だが、腹がくちくなってきたところで、雨田が持参した木綿豆腐かなにかを手早くくずして、薬味を添えたりしたのではないか。ちょっと粋な居酒屋で「くしゃくしゃ豆腐」などと称されるメニューのイメージ。木杓で食べたりする。

うーん、全体になかなか美味しそうな酒のつまみではないか。日本酒、おかわり!

……と言いたいところだが、酒はなぜだかシーバス・リーガル。ブレンデッド・ウィスキーの代表的な銘柄だ。

ここでなにがしかの違和感を覚えるかどうかで、どうも世代的に分かれるようなのだ。
聞けば、今の30代以下の多くは「えっ、シーバス・リーガルのどこがいけないの?」と言うらしい。しかし、たぶん40代以上のお酒好きなら、「どうしてここで、よりによってシーバスなんだよう!」と、のけぞる人もいようかと思う。
30代以下の人たちには、シーバスは数あるウィスキーのなかのひとつで、おそらく意識して飲むような銘柄ではないだろう。現在このウィスキーの普及版は2千円台だし、スーパーで買える。

なぜにシーバス


素人の推測だが、洋酒の酒税法改正で元値自体が下がったこと、本格的なシングル・モルトが続々と輸入されるようになって価格競争のために売値を下げる必要があったこと、これらの理由で安くなったと思われる。
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