(C)羽海野チカ/白泉社
汚い部分、ダダ漏れる部分も描いてしまう
—— マンガ家さんをインタビューしてると、思った以上にマンガって本人のパーソナルな部分が出るんだなってことに気付くんですよ。
羽海野チカ(以下、羽海野) パーソナルな部分を出すか出さないかで作品が変わるんですよね。出したほうが、欠点も個性なので。長所は似てても欠点ってみんなそれぞれいろんな種類があるから、それが個性なんだからそのまま出しちゃったほうがオリジナリティのあるマンガになるような気がするのだけど、やっぱり出すのって勇気がかなり必要で……。何と言っていいか複雑なんですが、ご本人と話してたほうが引き込まれるケースってあるんですよ。でも、マンガではその方のホントの気持ちを言ってない。作品なんだから作品として描かなきゃって切り離していらっしゃったりして。あなたがいつも悩んで話してくれてることってみんながグッとくるからそれ描いてしまったらどうだろう? と思うのですが。「え、マンガになんか描けないよ」って言われると、「惜しい! あなたが悩んでる姿はすごく美しいのに」「みんな、あなたの気持ちを聞けたら心強く思うと思うのだけれど……」とか思ったりします。
—— 「私はほとんど描いてるのに」って(笑)。
羽海野 私は全部描いてしまうから(笑)。汚い部分、ダダ漏れる部分も……。
—— 作品にはプラスになるはずなんですけどね。
羽海野 プラスなはずなんですけど、でもやはり恥ずかしいです。でも読者さんに「同じ悩み」や「心の暗さ」を持っている人がいたらわかり合えるかもと思うと、恥ずかしくても無理やり描き出してしまうので。
—— 男性のマンガ家さんにインタビューすると、女性観とかいろいろ聞くんですよ。初体験の話から何から。そうすると、すべてがマンガに出てたりするんですよね。
羽海野 あ、確かに!! そうかも。なるほど。女の人は描かないですね。
—— 男の人はそのへんダダ漏れですよ。ヒロインが全部歴代の彼女だったり、すごいわかりやすいんですよね。
羽海野 ホントだ! 男の友達のマンガ家さんって、そうかもしれませんね!? 女のマンガ家さんは、ずっとあこがれの人を描いてる気がする。なぜかしら? 私は……『ハチクロ』は自分の好きな感じの男の人をどんどん出そうと思って描いていったんです。『ライオン』もそうなんですけど。
ツイッターのプラスとマイナス
羽海野 そこを嫌っていう読者さんもいて。「どうして悪人として出したのに、最後にいい人にしちゃうんだ」みたいな。でも、悪人として終わったことを許さないっていう人もいるし。そうやって180度違う読者さんたちからの2コの意見で途方にくれていると「全員の望みは叶えられないんですよ」ってフォロワーさんが声をかけてくださるんですよ。「羽海野先生、全員を満足させようとしてるけども、それは違うんですよ」って。
—— たまにツイッターで音を上げてますもんね。
羽海野 しょっちゅうです。
—— 「いろんな質問を私に飛ばされても困るのです」みたいな。
羽海野 ああ、そうなんです。それを書くと質問はいっときだいぶ減るんですけど、また新規の人が入ってくるので、そうするとまたイチから伝えていかなきゃいけないんで。だからときどき闇ポイントっていうのがあって、このニュースを告知したらまた新しい人が来るなってわかるから、ドキドキします。原画展とかやると、「なんでウチの県に来てくれないんですか?」とか言われて。あと「原画展って、こちらからはお願いできない」っていうのが読者さんにわかりづらいのだなあ……と。あれは「来てください」って言われないと行けないので。「なんでやってくれないのか」って言われても、デパートさんが呼んでくれないと……催事のひとつなので。これなんて説明したらいいのでしょうね……ずっと怒られ続けてるんですけど。
—— ボクはそういうこと言われたら、「ボクは呼ばれたら全国どこでも行くんで、あなたがイベンターになって呼べばいいんですよ」って言ってますね。
羽海野 なるほど! そう言ってみます!!
—— ツイッターはプラスもマイナスもあるんですね。
みんなに励まされて生きている
羽海野 こないだ見たのは「ホストに入れあげてる」っていう説で。
—— ダハハハハ! それは初耳すぎますね(笑)。
羽海野 「ブスだからホストに行くしかなかった」って言われてて、「お、おう」みたいな。行ったことないなと思って。
—— 羽海野先生みたいな人がホストクラブなんて行けるわけないじゃないですか!
羽海野 ね、どんどんむしり取られておしまいですよね。残高がスーッと減っておしまいだから嫌だなって思って。
—— そもそも、あのテンションに対応できるわけないです!
羽海野 恐ろしいですね。あとは、とあるバンドのドラマーの人に騙され貢がされてるとか、不思議な説が。
—— 実像が見えてないんですかね。
羽海野 そうなんですよね……。
—— なんとなくのイメージだけで。
羽海野 そう、語られてるなって。あとメディアミックスがあると、もともとあんまり好きじゃないから読まないでいた人がものすごい攻撃をしてくるんで、苦しいです……。「最初から大嫌いだったし、これからも読む気はない!」みたいな決意表明をみんな始めるので、「つらい……」って思って。
—— ツイッターでわざわざ宣言してるんですか?
羽海野 そうなんです。「みんなが言うほど良いか?」とか。
—— 売れるって怖いですねえ……。
羽海野 使う言葉がみんなエッジが利いててつらいです。「生理的に受けつけない」とか。私、言われると傷つくワードがいっぱいあるんだけど、発表すると武器にされるから言えない。
—— 言っちゃダメですよ!
羽海野 恐ろしいですね。
—— でも、励ましてくれる人もいる。
羽海野 「いま、あなたのタイムラインにこういう人が現れてますが、ヘコんでるんじゃないかと思って声かけました」みたいな。ときどき豪さんも「大丈夫ですか?」って言ってくださるので、みんなに生かされてます。でも、ホストに貢いでるらしいです。
—— 実像から離れすぎてますよ!
羽海野 実際はお友達の2丁目のお店で監禁されてるだけなのに(笑)。
—— 同じ夜の店でも全然違いますからね。
羽海野 惜しい!
—— 「2丁目で殺されかけた」が正解です!
※次回は明日10時公開
映画『3月のライオン』前編公開中! 後編は4月22日公開予定!!
監督:大友啓史
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬亮 前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明 / 豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース
http://www.3lion-movie.com