(C)羽海野チカ/白泉社
「私も同じこと悩んでました、中学校のころ☆」
― 羽海野先生のツイッターがホント好きなんですよ。
羽海野 ありがとうございます。ネームやってると頭がすごい動いてるから、開けちゃいけない箱をどんどん……マンガの箱も開けなきゃいけないんですけど、自分の箱も開いてっちゃって収拾つかなくなるんですよ。パーテーション分けされてないので全部開いちゃって、それで暗いことワーッと書き出して。「あ、ごめんなさいファンの人がこれ見たら嫌かな」と思っていたのですが。みんな出勤するときに「羽海野さん夕べどうだったかな」ってツイッターを見て、暗いこといっぱい書いてあると「おっ、あるある!」って。「出勤のとき楽しく読んでるから気にしないで☆」ってみんなに言われて。「ほほう、またやってるなって思ってホッコリしながら出勤してます」って結構な人数の人に言われて恥ずかしくて
—— つまり、そういう部分もちゃんと受け入れられたわけですよね。
羽海野 そうなんです。だから、あのときと同じだわと思って。私はやっちゃったと思ってたんだけど、ファンの人は「おもろいとか言ってごめんなさい」とか言って。
—— 「羽海野先生、相変わらずだな」っていう。
羽海野 あと、「先生わかります、私も同じこと悩んでました、中学校のころ☆」とか。
—— ダハハハハ! いくつだと思ってんだっていう。
羽海野 だから「みんなふつう中学校で考えるのやめるところを、いまもそんなに丹念に考えちゃってるんですね、もういいんですよ」って言われて。カウンセラーが増えている(笑)。あれはありがたいですね。突き放すでもなく、「先生、もういいんですよ、大丈夫」って言っていただけると……。
人に好かれたいと思っている一生
—— 映画の『3月のライオン』を観ていたら、自分には将棋以外に何もないみたいなセリフがあったんですけど、これは羽海野先生にとってのマンガでもあるんだろうなって思ったんですよ。
羽海野 『ハチミツとクローバー』の後、『ライオン』って思ったときに、どっちにしてもネームを考えると全部動いちゃうから、自分がこの先、悩みそうなことを題材にしておけば、悩みについても考察できるしネームも出来上がると思ったんですよ。
—— なるほど、一石二鳥で。
羽海野 そう、一石二鳥だし、深い箱も開くから、悩みと同じものをテーマにするのが一番と思って。「居場所を探して、そこに一緒にいる人を探して、人生と仕事の両輪をうまく作れるかどうかの男の子の話」にしたら、失敗してもうまくいってもそれが作品の結末になると思って、いま一生懸命考えながらやってます。だから、そうするとツイッターが暗くなるという感じです。
—— 部屋でネームについて考えるといろんな箱が開いちゃうわけですね。
羽海野 全部開いていくと、棚に上げておきたかった問題も全部勝手に開いちゃうんです。ネーム=ただ悩みの時間なんですけど。1日中ずっと考えてることだから、お話はわりとよく煮詰まった感じのものが出せるかもと思って。「将棋しかねえんだよ!」って言ってたところから始まって、私が友達を作ったり家族を作ったり、どこまでいけるか。私の生きざまの成果によって零ちゃんの着地点も変わっちゃうので。それで零ちゃんが最後ひとりぼっちだったら、みなさん察してください!
—— ダハハハハ! 「これはしくじったな」って(笑)。
羽海野 そういう最終回だったら優しいダイレクトメールとかいただけると助かります。
—— 努力の過程がそのまま作品になってるわけですね。
羽海野 そうなんです。リハビリを経て、今度は外に出て何ができるかなっていうところです。
—— 羽海野先生も「もし自分にマンガがなかったら」とか考えちゃうわけですよね?
羽海野 マンガがなかったら……でも何かをやって一生懸命自分のいる場所を……パン屋さんになったり、いろいろやってたと思います。どこに行ったとしても人に好かれたいと思ってる一生なので、そこでいろいろ工夫してお客さんを集めてってやってただろうし、マンガは合ってたんだと思います。パンは「悩みのパン」とか作ってもダメだけど。
—— それは地獄すぎますよ!
羽海野 マンガだと、みんなが会社に入って悩んだり、学校で悩んだり、仕事を長くやって悩んだり、そういうのと同じ流れになっていくはずだから、どんな悩みも無駄にならず、クジラ漁みたいに「全部使える」みたいな。
—— 無駄なく残さず。
羽海野 残さず使うぞ、みたいな感じでいいかなって。パン屋さんにならなくて良かったです(笑)。
—— もしなってたらどうなってたと思います?
羽海野 あやしいもの詰め始めてたと思います。
—— なんだそれ(笑)。
羽海野 パンの名前からしてもう「苦悩」「悲しみ」「怒り」「絶望」とか。そんな実験的なパン、嫌じゃないですか。
—— 絶対に嫌ですよ!
羽海野 良かったです、マンガで。
—— パンを食べて共感したりとか求めてないですからね。
羽海野 「ベーカリー『心』」みたいな(笑)。「10月のフェアは失恋」とかいって、「失恋」って垂れ幕がかかって、失恋のさまざまなパンが売られてても食べたくないですもんね。
—— 結果、いい仕事を選んだんだと思いますよ。
羽海野 合ってたかなって思います。
—— ただ、これだけ成功しようが友達が増えようがどうしようが、根っこは変わらないわけじゃないですか。
羽海野 そうですね。人の根っこは変わらないっていうことがよくわかり、それでいいんじゃないかなって。根っこを変える必要はなくて、何かあったときにいまの年齢としての対応ができればいいわけで。『ハチクロ』のときも大人と子どもの違いとか描いていたんですけど、根っこは変わらないままで、大人としての対応が取れるのが大人であって、それがわかって良かったなって。それは私がいっぱい考えてわかったこと。本を読んで見つけたことじゃなくて、自分で気がついたことをマンガに描いておいて、私と似たような悩みを抱えている人が読んだときに「なるほど」って思ってくれたらいいなあ、と思います。
—— 実体験で学んだことを伝えて。
羽海野 そうなんです。何かで読んで知ったことと違うので、責任を持ってお勧めできるので。それをやるためにマンガを描いてるんだな……って思います。
※次回は明日10時公開
映画『3月のライオン』前編公開中! 後編は4月22日公開予定!!
監督:大友啓史
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬亮 前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明 / 豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース
http://www.3lion-movie.com