武田良夫(経営コンサルタント)

 昨年9月19日に放送された「NHKスペシャル」は「健康格差―あなたに忍び寄る危機」を取り上げました。「健康格差」が問題とされるようになったのは寿命が延び、がんなどの慢性疾患で亡くなる人が増えてきたことと関係があります。慢性疾患は食事など生活習慣の影響が大きいとされますが、近年、その背後にある所得水準や教育レベル、雇用・家族形態などの社会・経済的な格差が健康格差をもたらす大きな要因であることが指摘されています。

社会格差が招く健康格差


 番組では、低所得者は高所得者に比べて精神疾患3・4倍、肥満1・53倍、脳卒中1・5倍、骨粗鬆症が1・43倍も罹りやすく、また、非正規雇用者は正社員に比べて糖尿病の罹患率が1・5倍も高いというような数字が示されました。

 所得格差は、なぜ健康格差を招くのでしょうか。

 厚労省の〈「国民健康・栄養調査」の「所得と生活習慣等に関する状況」〉(別表)によれば、低所得世帯は穀類の摂取量が多く、野菜や肉類は少ない。喫煙率が高い。メタボの人が多い。歯の悪い人が多い。健診を受けている人が極めて少ないなどが示されており、こうした生活習慣などの差が健康格差を招くとされています。
 しかし、近年、社会・経済的要因と健康の関係を研究する「社会疫学」が、心理・社会的な要因の健康に与える影響は、いわゆる生活習慣に劣らず大きいことを明らかにしています。

社会疫学が示唆するもの


 まず、我が国で発表された社会疫学研究をいくつか見てみましょう。

・静岡県は1999年、65歳以上のお年寄り1万人余を対象に生活習慣や社会活動に関わる30~40項目を調べ、2010年までに亡くなった1117人について調べたところ、何もしない人に比べ、運動、栄養、社会活動の三要素に取り組む人の死亡率は51%も低かったが、運動と栄養だけでは32%にとどまった(2012年6月10日付/朝日新聞夕刊)。

・千葉大などの研究チームは2003年、愛知県に住む65歳以上のお年寄り1万3千人に町内会、趣味、運動、宗教、業界、ボランティア、政治、市民活動の八種類のうち、どの活動をしているかを尋ね、4年後に要介護認定を受けた1528人について、年齢や性別、病気、婚姻・就労状況などの影響を取り除き、社会活動と要介護との関連を調べた。その結果、要介護リスクは、何も活動していない人に比べ、1種類取り組む人は17%、2種類28%、3種類以上取り組む人は43%も低かった(2014年8月13日付/朝日新聞夕刊)。

・日本福祉大、千葉大などのチームが前記と同じパネルを使い、同居人以外との交流の頻度と要介護、認知症、死亡のリスクを調べたところ、毎日、頻繁に交流している人に比べ、週1回未満の人のリスクは下表のように高くなっていた。
 昨年8月、国立がん研究センターは「受動喫煙による非喫煙女性の肺がんの相対リスクは1・28倍」と発表し、これが受動喫煙対策の根拠になっていますが、社会参加の有無が〈健康〉に与える影響は、それ以上に大きいのが興味深いところです。

 さらに社会疫学は、前記の〈社会参加〉と関連しますが、〈社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)〉という概念を提示します。