印南敦史 - スタディ,書評,語学 06:30 AM
「Love You To」は訳せない? ビートルズの楽曲タイトルから「英語」を学ぼう
ビートルズの関連書籍は星の数ほどありますが、そんななかでも『ビートルズの英語タイトルをめぐる213の冒険』(長島水際著、あさ出版)はかなり画期的。なにしろ公式録音楽曲全213曲の曲名について解説した、初めての書籍なのです。
各楽曲に使われている英単語や英文法などについて、詳細に解説しているわけです。しかも、それら213曲はイギリスでリリースされた順に並べられ、全タイトルの意味(日本語訳)が掲載されているというこだわりよう。
もしあなたが、「特定のアーティストの曲名を20以上あげて見て」と言われたら? 大好きな歌手やバンドの曲なら、それくらいは簡単にあげられるかもしれません。しかし大ファンでなければ、曲名を20以上言えるアーティストはそうそういないのではないでしょうか。
いるとしたら、ビートルズくらいでしょう。
ビートルズは1962年に<ラブ・ミー・ドゥ>でデビューしてから、1970年のラストアルバム《レット・イット・ビー》をリリースするまでのおよそ7年半のあいだに、213曲を発表しています。この本では、その213曲のタイトルを日本語に訳しました。中には<Help!><Yesterday><Something>など、だれもが知っている英単語1つの曲名もあり、それをただ訳しただけではおもしろくもなんともない。というわけで、本書ではタイトルの意味だけでなく、曲名にちなんだ豆知識や雑学、ちょっとした英文法にも触れています。(「はじめに LET OT BEATLES」より)
そんな本書のなかから、いくつかの楽曲をピックアップしてみましょう。
Love Me Do:Love MeのうしろにあるDoの意味は?
<Love Me Do>は、いわずと知れたビートリズのファースト・シングル。このタイトルの特徴は、doがLove Meのうしろに置かれていること。これをあえて訳すと「ぜひ=お願い!」となり、つまりは「僕を好きになって!」と訴えていることになるのだそうです。
本来であれば、love meを強調するときはDo love meですが、この曲では、あとに続くYou know I love youという歌詞のyouと韻を踏ませるために語順が変えられているというわけです。
強調のdoは、一般的に次のように使います。
Do write to me.
ぜひ、手紙を書いてください。Do come and see us again.
ぜひ、また会いにきてください。
(20ページより)
このような文は、doがなくても意味は同じ。しかし、doをつけることで誠意がこもるのだそうです。ちなみに<Love Me Do>はいきなり大ヒットになったわけではなく、イギリスのヒットチャートでは最高17位だったのだとか。(20ページより)
Yesterday:Yesterdayは「きのう」? 「過去」?
yesterdayと聞くと「きのう」と思いがちですが、過去を表す言葉としても使われることがあるそうです。たとえばその例のひとつが、70年代に一世を風靡したアイドル・グループ、ベイ・シティ・ローラーズの<Yesterday's Hero>。
He is a yesterday's man.
彼はもう過去の人だ。
(99ページより)
なおyesterdayは、アインシュタインの名言にも出てくることで知られています。
Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow.
過去から学び、きょうのために生き、未来に希望をもちなさい。
(99ページより)
他には、こんな表現も。
I wasn't born yesterday.
きのう生まれたばかりじゃない=そんなに簡単にだまされないよ。It seems like yesterday.
(ずいぶんたつのに)まるできのうのことのように思える。
(99ページより)
さて、ビートルズ<Yesterday>の話に戻りましょう。この曲は「彼女は去ってしまった。きのうまではなんの悩みもなかったのに。きのうが恋しい」と歌っているのだといいます。つまりこの場合、タイトルは「きのう」と訳すのがよさそうだということになります。(99ページより)
Love You To:日本語に訳せないタイトル
これは男女の愛をテーマにした歌ですが、<Love You To>は日本語に訳せないのだといいます。主語のIが省略されていることはわかるものの、それにしてもlove you toだけでは意味をなしません。著者によれば、このtoのあとに続く言葉として考えられるのは、pieces/bitsとdeathくらいなのだとか。
I love you to pieces/bits.
あなたのすべてを愛している。I love you to death.
死ぬほど愛している。※ケヴィン・クライン主演の映画のタイトルにもなっています(放題は『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』)
(124ページより)
なおタイトルからはそれますが、to deathには「死に至るまで」と「死ぬほど」の意味があるそうです。
I'm bored to death.
死ぬほど退屈している。He could bleed to death.
彼は失血死するおそれがある。などがいい例。(124ページより)
Hey Jude:ジュードってだれのこと?
Judeは男性名のJuddやJudah、女性名のJudithの別称。この曲はジョンが息子のJulianのためにつくったもので、当初のタイトルは<Hey Jules>(ヘイ・ジュールズ)。いうまでもなくJulesはJulianの別称で、つまりは<Hey Jules>だとあからさまなのでJudeに変えたといわれています。
<Hey Jude>の歌詞は、少し恋愛を絡めてはいるものの、それだけに終わっているわけではありません。「なあ、ジュード、落ち込むなよ。きみにはやるべきことがある。それはきみにしかできない。彼女の心をつかめば前に進んでいける」と、ジュードを励ます内容になっているのです。(166ページより)
Let It Be:beはあるがまま
<Let It Be>といえば、紛うことのないビートルズの代表曲。タイトルのletは動詞、itは代名詞、beは動詞で、let it beは「あるがままにさせておけ」という意味になるわけです。なお、beを別の単語に換えることも可能。
Let it go.
放せ/あきらめろ/ほうっておけ/忘れろ。Let it pass.
大目に見ろ/(車などを)先に行かせろ。Let it snow.
雪よ、降れ。Let it cook for twenty minutes.
火にかけたまま20分調理します。
(222ページより)
itを「人」に置き換えることもできるそうです。
Let me be.
わたしにかまわないで=ひとりにしておいて。
(222ページより)
なお歌詞のなかの「マザー・メアリー」は、ポールの母メアリーを指しているようですが、聖母マリアもMother Mary(もしくはVirgin Mary)とも呼ばれます。そんな<Let It Be>は、イギリスではデビューシングル<Love Me Do>から数えて22枚目、ビートルズ最後のシングル曲です。(222ページより)
熱心なビートルマニアはもちろんのこと、「何回か聴いたことがあるから、ちょっと興味がある」という程度のビートルズ初心者でも無理なく楽しむことが可能。しかも英語の勉強にもなるというわけですから、まさに一石二鳥。ページをめくってみれば、きっと視野が広がると思います。
(印南敦史)