日本郵政は、2015年5月に買収したオーストラリアの物流企業トール社について、業績が悪化していることから資産価値を見直し、数千億円規模の損失を計上すると報じられた。
今回はこの件について話をしよう。
まず、本件の報道では、オーストラリア経済の悪化が損失計上の背景にあるかのような印象を与えていたが、実は、オーストラリア経済、特に最近の運輸業はそれほど落ち込んでいない。つまり、トール社は単純に経営の失敗例だ、といってもいい。
この買収は、日本郵政グループが、金融業の他に、世界50ヵ国以上で物流事業を展開する同社を傘下に収めることで、グローバルなロジスティクス(物流)企業へ脱皮する、あるいはそのイメージを定着させることを狙っている、とマスコミで報道されていた。
同年11月には、日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険が上場している。筆者は、郵政民営化の制度設計をしたので、日本郵政の動向には大いに興味を持ってみていた。そこで、上場前に『“まやかしの株式上場"で国民を欺く 日本郵政という大罪』(https://www.amazon.co.jp/dp/4828418474)という本も書いた。
表題からわかると思うが、民営化を制度設計した筆者が、「上場」に否定的だったのだ。もちろん、本書にはトール社についても書いている。まず、その箇所を再掲しておこう。
【以下、同書からの引用】
<郵便事業が日本で成り立たなくなりつつあるからか、日本郵政は先日、オーストラリアの物流大手、トール・ホールディングスを買収した。
世界50ヵ国以上で物流事業を展開する同社を傘下に収めることで、グローバルなロジスティクス(物流)企業へ脱皮、あるいは、そのイメージを定着させることを狙っているのかもしれないが、はっきり言って、筆者には、国内事業の劣勢を海外業務で挽回できるほど甘くないと考える。
この買収を、日本郵政と同じようにかつて民営化されたドイツポストによるDHL買収と比較する向きが多い。メディアの中には、ドイツポストのDHL買収を高く評価しているところもあるようだが、筆者からすれば、「たまたまタイミングが良いときに買えた」くらいにしか考えていない。単に、それだけの話だ。
では、日本郵政によるトール社買収はどうだろうか。
買収金額は、なんと6200億円(!)で、これは市場価格の1.5倍の金額だ。日本郵政グループが2014年2月に発表した「中期経営計画」を読むと、2015年から2017年までの3年間で、新規投資に8000億円を投入する旨が記されているが、この買収により、その大部分をすでに使ってしまったことになる。
はっきり言って高すぎる買い物である。
この事例を見るかぎり、日本郵政には企業としてのガバナンスが著しく欠如していると言わざるを得ない。日本郵政が純粋な民間企業だったとしたら、ステークホルダーからの猛反発に遭い、おそらくこの買収は実現しなかったのではないだろうか。