経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

セービング・キャピタリズム

2017年04月24日 | 経済
 今、我々が目にしているのは、しょせん、人手不足にならなければ、働く者に分け前は回って来ないという単純な現実だ。労働生産性が向上して豊かになると言うよりは、人手不足にやむを得ず、労働生産性を向上させていく。人手不足になれば、24時間営業や多頻度配達といった労働力の薄利多売はできなくなり、無人レジや宅配ボックスなどの省力化投資をするようになる。資本主義は、人手不足でしか分配を解決できないようだ。

………
 ロバート・ライシュの『最後の資本主義』は、米国の政治経済の側面を鋭くえぐるものだ。「自由市場」か「政府」かという見せかけの選択に隠され、市場のルールは、大企業、ウォール街、富裕層を利する不公平なものになっており、その是正には、中間層と貧困層による「拮抗力」が必要だとする。それは、栄光の1960年代には、米国が持っていたものであり、衰退してしまった力の復活ということになる。

 ライシュは、これに楽観的なように見える。「反体制派か、体制支持派か」へ政治の境界線がシフトすることを指摘した上で、二大政党の歴史的な適応能力への期待を表明している。これが書かれたのは、2016年の大統領選挙前だが、果たして、米国民が選んだのは、異端児のトランブだった。グローバリズムより、自国民を大事にせよという主張は、拮抗力に変わり得るのであろうか。

 反移民や反輸入は、「人手不足にならなければ、待遇が良くならない」という直観的な反発のように思える。むろん、これが妥当するかは、マクロ経済の運営次第である。物価高に悩むほどなら、それらは問題にならない。すなわち、インフレを極度に警戒する政策と表裏一体になっている。小さい政府や強いドルを使いつつ、ディスインフレの中で金融緩和を実現することと、平等な分配とは対立するのである。

 逆に、自由な経済活動だけで平等化が進んだ例は稀有であり、日本の高度成長期くらいだ。高度成長をしても、物価の過熱を恐れるようでは、平等化まで、なかなか至らない。「インフレは、生産性の格差によるもので、人間の価値を高めるものだ」と、平然と受け入れるくらいでないと、格差は是正されず、それには、物価高批判に耐えられるだけの、国づくりへの支持が必要となる。

………
 ほどほどの成長とディススンフレの組み合わせは、理想的な経済運営に見える反面、総動員型の経済になりやすい。アベノミクスは、金融緩和と緊縮財政の組み合わせだが、下図のように、雇用の数は増えても、単価である賃金は、まっ平らである。これでは、デフレではなくなっても、物価目標の2%が遠いのは当然だ。分配が気になり、一億総活躍だの、働き方改革だのを掲げるのは、政治的には自然な発想である。

 転機が来るとすれば、消費増税前の2018年中に、一般政府の収支の「赤字」がゼロになったときだろう。財政当局は「黒字」を増やそうと主張するだろうが、説得力がない。財政再建は成ったのだから、「増税分は、すべて還元せよ」という意見が有力になるはずだ。経済運営は切り替わり、緊縮財政を改めて成長の推進力とする一方、バブルを防ぐべく、金融は引き締めていくことになる。

 トランプ大統領の下で、新たなニューデール「連合」ができるのかは分からないが、日本では、デフレ時代における、法人減税と消費増税の取引を基盤にした財政当局と経済界の「連合」が崩れ、かつての、経済界は景気対策を求めるという構図へ戻るかもしれない。その中身は、公共事業ではなく、少子化を反映した人的投資の充実である。ライシュは、ベーシック・インカムを求めているが、結局は、それに似た形になるのである。

(図)



(今日までの日経)
 中途採用5年ぶり高い伸び。夏ボーナス総額16年ぶり高水準。疾風の勇人から60年。ロボットと競えますか。天皇陛下 来年退位へ。

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経済
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