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異国の街でこんにちわ
リリーニャの話の前に、まずは2話ほど主人公の現状報告を。
自分の知らないところでそんな断罪が繰り広げられているのをよそに、ドラグーン帝国を旅していたアクアマリンとフローラは、一週間後にデルドアの街に到着した。
「わぁ……!」
身分証がなかったからお金を払い、デルドアの大通りでアクアマリンは目を輝かせる。ドラグーンに来てから、アクアマリンは目を輝かせてばかりいる。
セラルーシの街は全体的に質素な感じで、木造建築が多く連なる素朴な街並みが特徴である。建物も一階が多く、せいぜい二階建てまでくらいしかなかったので、街を歩いていて変な圧は感じられなかった。
しかしデルドアの街の家々は木造ではなく、頑丈で可愛いパステルカラーのレンガで作られていて、全体的にとても柔らかく華やかな印象を感じる。三階の建物も珍しくなく、建物が高いからちょっと厳かな雰囲気も感じてしまう。
「すごい圧巻……。でも微妙に居心地悪いかも…?」
「ピョッピョッ」
相変わらずアクアマリンの肩に乗った状態で、フローラもうんうんと頷いている。
ちなみにフローラはなんの魔物(精霊?)かわからないので、とりあえずランクB魔物のクリスタルバードだということにしておいた。本当はランクAのエンジェルバードの方がしっくりくるが、噂が一人歩きすると国にバレるので。
「さて……街に到着したはいいけど、どこから行ったらいいかしら?」
「ピョ……」
「フローラが落ち込む必要ないわよ!ほら、元気出して」
アドバイスができなくて落ち込んでるのか、フローラがショボーンとなる。アクアマリンは慌てて励ます。
仕事と定住を目的にデルドアの街にやって来たんだが、さすがに定住は無理だろうからまずは仕事をなんとかしなきゃいけないだろう。
しかし、ドラグーン帝国で仕事を探したい場合はどうすればいいのだろうか?セラルーシだと、求人広告を貼り出しているところに直接赴けばいいが、デルドアの店先にはそんなのは一切貼られていない。
では街の人はどうやって仕事を探しているのだろう?
その前に、さっきから街の人たちからの視線がすごいんですけど。ほぼ全員から注目を受けてないかしら?しかもみんな微妙に顔が赤くない?うーん…今日は結構蒸し暑いような気もするから、そのせいかな?
あるいはセラルーシの庶民服はドラグーンでは珍しいのかしら?顔に何かついているのかしら?それともフローラが目立つから?
「……とりあえず、ご飯を食べよう」
大通りの人々から注視される中、アクアマリンは近くにあった定食屋にスタコラと入って行った。
****
「やぁー!食べた食べた!」
「ピョッピョ~」
定食屋でたらふく昼ご飯を食べ、アクアマリンとフローラは再び大通りに出る。この世界の通貨は全世界共通なので、セラルーシでもらったアクアマリンのお小遣いも問題なく使えたのだ。
ちなみに定食屋でも客や従業員に注目されたが、それはきっとフローラが目立つのだ、とアクアマリンは思っている。本当はアクアマリンが美少女だからだが、本人は全くわかっていない。
「うーん……仕事を探すのも大事だけど、まずは宿を探さないと寝るところがないわね」
このまま直行で仕事探しに行こうか、とも思ったが、寝る場所を確保しておかなければ安心して就職活動もできないだろう。
そう思い直し、アクアマリンはお手頃値段の宿屋を求めて大通りを進み始めた。
大通りはさすが街の中心だけあって賑やかで、ありとあらゆるお店がズラッとたくさん並んでいる。もちろん宿屋もたくさんあったんだが、大通りに店を構えるほどだから、いかんせん高い。
「むむむ……一泊二食付きで2000マネか…。ここも高いわ」
一泊二食付きの値段は平均で1300マネと言われている。2000は高すぎる。
こういう時は現地に人に聞くのが一番!アクアマリンは通りすがったおじいさんに声をかけ、どこかに安く泊まれる宿がないかを聞いた。
「あの、すみません。一泊二食付きで1000マネほどで泊まれる宿屋ってありますか?」
「ほひっ!は、はいぃ!えー……中通り…は無理か。小通り、あるいは路地通りに行けば簡単に見つかりますぞ。し、しかしじゃな!路地通りの宿屋は……男女のためのものとかも混ざっておるから、気をつけてくださひ!」
「……ど、どうもありがとうございます…小通りで探して来ます」
最後の最後で噛んだおじいさんに丁寧にお礼を告げ、アクアマリンはフローラを連れてさっさと離れる。
大変、大事なことを教えてもらいました(敬語)。まともな店とやばい店が入り混じっている路地通りは避け、健全な小通りで探した方が身のためだろう。
正直、ヤバい宿屋要注意の話よりも、アクアマリンは、最初から顔を赤く染めながらモジモジ質問に答えてきた、あのおじいさんの方に引いていたが。
「小通りね……。大中小で並んでるのなら大通りの裏に行けばたどり着くかしら?」
「ピョ」
「その様子だとあってるのね」
フローラが頷いてくれたことで自信を持ち、アクアマリンは大通りから一本、また一本と細い路地を通り抜けて奥へと入っていく。だんだんと大通りにあった華やかさな雰囲気が落ち着いた感じに変わってきている。
デルドアの街では、通りの名前が書かれた看板が等間隔で配置されており、今自分がどこの通りにいるのかすぐにわかるようになっている。大変ありがたい。
「……?」
ちょうど、中通りから小通りに向かっている道中、裏路地を歩いていたアクアマリンの耳に、なんだか変な音が飛び込んで来た。
「……ねえ、フローラ。今、変な音聞こえなかった?こう……何か蹴っ飛ばしてるような」
「ピョッ」
ドカッ!バキィ!
「あ、また聞こえた」
今度はさっきよりもはっきり聞こえた。明らかに何かを蹴りつけてるような音だ。
嫌な予感がしたので、アクアマリンは足音を殺し、音の聞こえてくる路地に向かって歩いていく。その場所に近づくに連れ、音もどんどん大きくなり、頻度も高くなっている。
この辺になれば、アクアマリンにも理解できた。これは、人を殴っている音だと。
音が聞こえている路地の手前に身を潜め、ひょいと路地を覗き込んでみると、そこには羽交い締めにされた紺色の髪の青年と、その青年に暴力をふるっている人相の悪い男が何人かいた。
これは……あれだ。俗に言う、チンピラってやつですね。
紺色の髪の青年を助けたくても非力な自分ではどうしようもないとわかっていてアクアマリンがオロオロしていると、なんの前触れもなく音が止んだ。
「ああー、スッとした」
「これに懲りたら俺たちに楯突くのはもうやめるんだな」
「てめえがドエムなんだっていうならいつでもぶん殴ってやるがよ!」
ゲラゲラと下品に笑っている男たちは、死にかけている青年を捨て置いて移動する。あれ……?もしかしなくてもこっち来てる…?
「んあ?うおっ!なんだこの女!すんげえ美人じゃねえか!」
見つかってしまった。
「おい、嬢ちゃん。こんなところで一人何してるんだ?」
「お兄さんたちといいことしないか?」
「いえ、結構です。本当に結構ですから!」
「んなこと言うなって。いいから来いよっ!」
アクアマリンは必死に抵抗しようとするが、大の男4人が相手では焼け石に水。ズルズルと連行されて行ってしまう。フローラは助けようとしてくれていたが、街の中で事件を起こすと追い出されてしまうので、傍観するしかない状況に陥っている。
「嫌です!離してください!」
「かぁわいいぃ!嫌がってる美女とヤるのが一番燃えるよな!」
「やめて!誰か助けて!」
無駄だとわかっていても、アクアマリンは必死に助けを求めた。アクアマリンは攻撃魔法を一切持っていないから反撃もできない。どうしたら……!
ドガッ!
「…え……?」
ふいに、アクアマリンの左にいた男が綺麗に吹っ飛んで行った。続いてアクアマリンの両手を拘束していた男も横っ面を殴られて壁に激突する。
その衝撃で男の手が離れ、アクアマリンはバランスを崩して尻餅をついた。その時に足をひねってしまう。
拳が飛んで来た方向を見ると、さっき男たちにタコ殴られていた紺色の髪の青年が立っていた。男たちにフルボッコにされていたから、顔は腫れていたり、血がにじんでいたり、みるにも痛々しい顔になっている。
それなのに青年は足を踏ん張って気丈に立っていた。その体でどこからそんな力が湧いてくるのだろうか?
「てんめぇ、やりやがったな!」
「さっきのところでおとなしくくたばってりゃよかったものを…!」
「今度こそ叩きのめしてやる!」
殴られた側も黙ってはいないようで、4人まとめて青年に殴りかかろうとする。
「ピョーー!」
そのタイミングで、青年と男たちの間にフローラが割り込み、羽ばたきで作り出したかまいたちを地面にはなって威嚇する。
「うわあああ!!魔物だ!!」
「に、逃げろーー!殺される!!」
するとフローラを魔物だと思い込んだ男たちが、さっきまでの威勢はどこへやら、脱兎の如く逃げて行った。失礼な。フローラはちゃんと従魔の首飾りをつけてるのに。
男たちが路地から消えるのを見届け、青年は焦点の定まっていない瞳をアクアマリンに向ける。そして次の瞬間には地面に崩れ落ちた。
「え…!あの、大丈夫ですか?!」
アクアマリンは急いで男性に近づいて声をかける。返事はない。こんなボコボコにされた状態が大丈夫なわけないか。空気読め!と自分にツッコみ、アクアマリンはフローラに周囲に探索をお願いし、他に人がいないことを確認する。
光属性持ちであることは、できれば知られたくないので。
「光よ集え」
光属性の魔法の合言葉を唱え、他者を癒すイメージを想像する。するとふわふわとした暖かい光が青年を包み込み、それが溶けるように消えると、そこには傷が全て完治した青年が倒れている。
治して気づいたんだが、この青年は結構なイケメンのようです……って何を言ってるんだ、こんな時に。
「……うっ」
しばらくすると、青年がうめきながら目をゆっくり開く。
「……君は、さっきの…。これは、一体……?」
「私が治しました。よかったです、気がついて」
なんか、青年の顔にはてなマークが飛び交ったような気がするが、とりあえず青年の傷が綺麗に治ったことに、アクアマリンは安堵するのだった。
この人、ヒーローではありません。いい加減ヒーローを出したい……。
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