挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
死神皇帝のバイト妃 作者:カホ

第0部

7/9

☆ 陰謀への入り口

ざまぁ第一段階終了です。2話後からはしばらくアクアマリンの話が続きます。
「…な、なぜお前が……!お前は私に味方していたのではないのか!?」

謹慎前までは取り巻きの中に混ざっていたターコイズの登場と爆弾発言に、エルイヴァラはついていけてないようだ。ターコイズを指さし、わなわなと唇を震わせている。

「味方?笑わせないでほしいな。お前の取り巻きはロナルド・ボッタとリーベルズ・フォルビア、リリーニャとフォルビヤーノだけだ」
「き、貴様!裏切ったのか!!」
「裏切るも何も、俺はもともと陛下とトパーズ様のサイドにいる者だけど?陛下のご命令で、お前たちのしっぽをつかむために仲間のフリをしていただけにすぎない」

学園入学後まもなく、男爵令嬢の行為に疑問を感じた陛下の密命で、ターコイズはリリーニャに接近した。彼女には最大限警戒しておけ、という風に言われていたから、ターコイズはリリーニャをはなっから疑ってかかり、そのおかげで洗脳にはかからずに済んだ。

「あの断罪パーティのあと、お前…罪悪感あふれた顔をしていたな」
「……言わないでください、陛下。あれは俺の人生で最大の汚点なんですから」

思いっきり嫌そうに顔をしかめ、ターコイズは吐き捨てる。

陛下の命令でエルイヴァラ軍団に潜入していたが、まさか幼馴染の妹であるアクアマリン嬢を不本意ながら断罪する側に立たなければいけなくなるなど、壁に頭を打ち付けて死んでしまいたいほど屈辱だった。

「おい、ターコイズ!今すぐ捕まえた奴らを解放しろ!!」
「無理だよ。俺は陛下とトパーズ様とラルドの命令でしか動かない。それに、あいつらは全員が全員ろくでもない奴らだから、捕縛は当然だ」
「デタラメを言うな!!あいつらはみんなまともでいい奴だ!!」

大真面目に顔を真っ赤にさせて怒鳴るエルイヴァラが滑稽すぎて、ターコイズは盛大に吹き出した。自分が今いる状況も把握できていないのに、威勢だけは一人前だ。ああ、おかしい。嗤いが止まらない。

「くっくっく……へぇ、アレらがいい奴ね…ふっく……本当おめでたい頭してるよ」
「何がおかしい…!!」
「そんなにわめくなら見るといい。あいつらの罪状を」

懐から2枚の紙を取り出し、エルイヴァラの前に投げる。ボッタ親子とリーベルズの罪状の写しである。本物は別のところにきちんとバックアップを取っているから問題ない。

「あり得ない!あいつらはこんなことする奴らではない!」
「あり得ないとか言われてもね。実際に証拠はゴロゴロ出てきてるし、証拠を突きつけたらペラペラとしゃべったよ。臆病者はおとなしくしてればよかったのに」
「嘘だ!嘘に決まってる!お前らが言わせたんだろ!!」

紙に書かれた内容を見てキャンキャン吠えてるエルイヴァラを見て、ターコイズはまたもや笑いのツボにはまり、肩を震わせて大爆笑した。

エルイヴァラの取り巻きの中に、まともな人間は一人もいない。宰相の息子であるロナルドは、父ニクルス・ボッタと共謀して麻薬の密売人として暗躍し、人身売買にも手を染めていた。

魔法師団長の長男とされるリーベルズ・フォルビアは、本名イスカール・フォルビアといい、魔法師団長の次男である。同じ顔と属性を持つのに、自分ではなく双子の兄が家を継ぐことに腹を立て、兄を殺害して成り代わっていたのだ。

ニクルスとロナルド、及びイスカールは爵位を剥奪の上、魔力封じの首輪を強制装着し、スラム街で一生を過ごすことが命じられる。スラム街は貴族を毛嫌う傾向が強く、典型的な阿呆貴族であるこの3人は速攻で袋叩きにされるだろう。

ボッタ家は宰相歴任家を解任、侯爵位から伯爵位に爵位降下し、幸いにも善人であるニクルスの弟が当主を継承する。フォルビア家については伯爵位も歴任家もそのままで、跡継ぎには魔法師団長の長女が就くことになるだろう。

リリーニャ・ディルスについても、出生偽装が明らかにされている。彼女の母とされるエイミという娼婦はこの国には存在しておらず、彼女は男爵を不当に騙していた。そして男爵もそれを承知で身分偽装に手を貸したのだ。男爵令嬢の身分は剥奪しないが、彼女の死後ディルス男爵家の取りつぶしが決定されている。

奴らはバレてないと本気で信じ込んでいたが、国…特にライガー陛下とトパーズ様がそういった不正を見逃すはずがない。

奴らがしてきたことが、全て奴らに返っただけのことだ。

「そういえばエメラルドが帰って来ていると聞いたが?」
「はい、陛下。マリン様の国外追放を聞いて、いても立ってもいられず、長期休暇中であるのをいいことに戻って来たそうです」
「くっく……相変わらずだな。お前もエメラルドの専属護衛になるのだから苦労するぞ?」
「そこんとこは幼馴染ですから、大丈夫だと思いますよ」

さっきまでずっと、あり得ない!とかなんとか叫んでいたエルイヴァラが、ターコイズと国王の漏らした真実を耳にして固まった。

ターコイズは、代々当主が近衛騎士団長を歴任するバレット侯爵家の次男で、エメラルドとは3歳違いの幼馴染。そして学園に入った年、その凄まじい剣の才能と腕を買われて、エメラルドの帰国後に彼の護衛騎士に抜擢されていたのだ。

「ターコイズ!どういうことだ!お前は私の側近候補だったはずだろ!!」
「確かに候補ではあったさ。けど、人の価値を見極める能力もないようなバカの元で飼い殺しなんてまっぴらごめんなんでね」
「貴様…!!この私に対して無礼だぞ!!」
「何が?お前はもう王太子じゃないんだぞ?しかも伯爵位で、俺の家よりも格下。敬意など払う必要ないだろ」
「……なっ!!」

ターコイズの一言に、エルイヴァラはギョッとなってライガー国王を振り返る。

「エルイヴァラは本日付でロディアの姓を剥奪。身分も伯爵に降下。男爵令嬢リリーニャと結婚することは認めるが、子供を作ることは許さない。屋敷を一つやるが、自宅から許可なく出ることも、以降無断で国政や社交界に関与することも禁じる」

そんなエルイヴァラに、国王は容赦なく切り込む。失望を通り越して切り捨てる対象となった放蕩息子には、もはや親子の情も感じられないらしい。王妃様の嘆く顔が見えるようだ。

「話は終わりだ。ターコイズ、連れて行け」
「はい。ほらほら元王太子様、よかったですね~?大好きな男爵令嬢と結婚できますよ」

国王が話を打ち切り、ターコイズは茫然自失状態のエルイヴァラの首根っこをひっつかんでズルズルと執務室から引きずり出す。話しかけても一切反応しないエルイヴァラに魔力封じの首輪と手錠をかけて騎士団員に託す。

「よお!お前もエラく面倒な役回りを請け負ってるな」

背後から陽気な声がかかり、ターコイズは振り返る。爽やかな笑顔を浮かべた兄ゴールデンが立っていた。

「んな爽やかな笑顔浮かべながら言うな、兄さん。本当は、俺も罰されるべきなのに、許されたんだ。だからこれが俺なりの贖罪なんだ。マリン様を断罪する側に立ってしまった俺の……」
「ああー、悪かった悪かった。目に見えて落ち込むな」

ターコイズの背中をバシッと叩く。これがゴールデンなりの慰めだ。

「それより、あの女の牢での独り言を傍聴した。お前の言ってた通りだ」

そう言って、ゴールデンはポケットから手のひらサイズの宝玉を取り出し、ターコイズに渡す。そこに、リリーニャのしゃべっていた内容が一字一句間違えず記録されている。

これは真実の宝玉と呼ばれる、ターコイズの固有魔法でしか作り出すことができない水晶玉だ。水晶玉本体はそこそこの魔力持ちであれば誰でも自由にオンオフを切り替えることができ、指定された空間での出来事や音声を記録する。

これは、リリーニャが入れられていた牢の天井にあらかじめ仕込んだものだ。

「…やっぱり、王太子妃目当てで愛はないか。遊ばれてるエルイヴァラは本当に滑稽だな」

真実の宝玉に映る、化けの皮が剥がれたリリーニャを眺め、弟は哀れみに満ちた声でつぶやきつつも、顔は必死に笑いをかみ殺していた。

「他にも『私はヒロインなのに!』とか『あの女は悪役令嬢なのに!』とか『乙女ゲームの世界に愛されないのはおかしい!』とか『ストーリーめちゃくちゃだわ!』とか、意味のわからないこともわめいていたぞ」
「意味がわからないな」

リリーニャが叫んでいたことは、大半が意味不明なことだったが、わかったこともあった。国王が睨んでいたとおり、リリーニャの後ろには別の人物がついていた。この女は独り言を傍聴されていることも知らず、その人物の名前を漏らしていた。

これは、あとで急ぎ陛下に上奏する必要があるだろう。

「どうする?この真実の宝玉をあの阿呆の元王太子に見せるか?さらなる地獄に叩き落とせるぜ」
「……いや。まだ隠しておいてやろう。一つの密閉空間に押し込んで徐々に壊れていくように仕組んで、最後に木っ端微塵に叩きのめした方が、あの二人の末路にお似合いさ」
「お前も大概腹ん中真っ黒だよな……」

昔から、弟は爽やかな見た目に反して中身は結構腹黒い。屈辱を味わったり、喧嘩を売られたりすると、相手に精神ダメージを倍返しする方法を考える、敵にするととにかくトラウマものの奴なのだ。

また何やら物騒なことを企んでいそうな悪い笑顔を浮かべる弟を、ゴールデンは苦笑しながら見つめる。

ブラックリストに登録された元王太子と男爵令嬢に、心の中で合掌しておいた。成仏してくれよ。
真実の宝玉に映った映像はざまぁ最終段階まで本文には書きません。代わりに次はヒロインのあれこれを投稿します。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ