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死神皇帝のバイト妃 作者:カホ

第0部

6/9

☆ 量産される断罪

日間と日間恋愛ランキングで1位をいただいてしまいました!とても嬉しいです!
皆様、どうもありがとうございます!
「父上!どういうことですか!」

一週間の謹慎から解放されたエルイヴァラは、執務室の机を挟んでライガーに詰め寄った。ちょうど仕事の書類を片していたライガーは不愉快そうに眉をひそめる。

「仕事の邪魔だ。即刻出て行け」
「納得がいきません!なぜ私が王太子位を廃嫡などされなければならないのですか!
「……」

ヒステリックに喚き散らすエルイヴァラを、ライガーは侮蔑しきった視線で一瞥する。この愚か者は、自分がしでかした罪の重さもわかっていないらしい。

「お前が犯した罪を考えれば、むしろ極刑を免れただけありがたく思え」
「罪ってなんですか!私は正当なことをした!何も間違っていません!あの女は私の寵愛を得るリリーニャに嫉妬し、非道な行いをした!それを罰して何が悪いのですか!むしろほめたたえられるべきです!」

その返答を聞いて、ライガーは鼻で嗤った。何がおかしいのですか!とエルイヴァラが叫んでいる。王家と同じ血を受け継ぐアクアマリンとの婚約を下らぬ理由で破棄し、あまつさえ難癖をつけて国外追放にしたのだ。罰するなという方が難しい。

王立学園は国の干渉を受けない場ではあるが、エルイヴァラの学園での生活については全て学園にいる協力者に聞いていた。

その理由は、入学直前に不自然に男爵令嬢になったリリーニャである。トパーズが調べ上げてくれたが、彼女の出生と来歴には謎が多すぎる。他国のスパイの可能性もあるのだ。

そうやって情報を集めるに連れ、いろんなことが浮かび上がった。まず、男爵令嬢は洗脳に似た魔法で有力貴族の子息を囲い込んでいた。洗脳を解く方法はセラルーシでは存在しないので、これは苦渋の選択で放棄するしかなかった。

次に、男爵令嬢はことあるごとにエルイヴァラに国のことを尋ねていた。国の重鎮の子息ばかりはべらせていた時点で予想はしていたが、やはりどこぞの密偵である可能性が高い。

もっとも、エルイヴァラとその取り巻きたちは大した国家情報も持っていないバカばっかりだから、機密漏洩の心配など全くない。

それと、男爵令嬢は一週間に一度必ず実家に手紙を書いている。欠かした週は一度もない。家族思いのマメな娘と捉えられなくもないが、逆に手紙の数が多すぎて不自然なのだ。

検閲はできないから中身を断定することはできないが、もし手紙の内容がエルイヴァラたちから聞き出した情報なら、ディルス男爵家もグルなのだろう。

何度か手紙が行き着く先をたどってみたことがあるが、人の手を数多く渡りすぎて、結局どこへ行ったのかはわからずじまいだった。

「どうやら取り返しのつかないところまで侵されたな。何処の馬の骨とも知れぬ男爵令嬢にうつつを抜かし、王命を背いて婚約者を勝手に追放した。これが罪でなくてなんだというのだ」
「私は悪くありません!そもそもこの婚約は、あのずるがしこいローゼンクロイツ公爵が、我ら王族とつながりを持つためのものです!あの女は、王家を食い物にするために送り込まれたのです!追放して当然です!」
「……は?」

……ローゼンクロイツ公爵が王弟であることを知らない?しかも王家と対等の力と権限を持つ公爵家の当主なのに?ライガーは頭が痛くなってきた。どうやらコレにつけた教師たちの授業を何も聞いていなかったようだ。なるほど、道理で教育係がしょっちゅう辞職するわけだ。

先王の時代に崩壊しかけた国を立て直すため、ライガーは昼夜の区別なく仕事をこなし続けた。だから王妃に甘やかされて育った息子が、先王の劣化版になるつつあることを知っていたが、王としての責務に追われて何もできなかったのだ。今思えば、ライガーがもっと締め上げておけば未来も変わったんじゃないかと思うが、後の祭りだ。

だからと言って、息子にショックを受けて部屋に引きこもっている王妃を責めるつもりはない。王妃はライガーに嫁いでから、5年もの間ずっと子供ができなかった。王妃として、次期国王を産む者として、プレッシャーは相当だっただろう。そこへようやく授かった跡取りを、甘やかしたくなるのも仕方のないことだ。

それに、王家を食い物にしているのは弟の一族ではなく、あの男爵令嬢に散財放題のエルイヴァラの方だ。何を勘違いしてそんなクソのような発言をしているのか。不愉快だ。人生でこれほどまで実の息子に嫌悪を覚えたことはない。

確かに弟は25年前に臣籍降下して公爵位に就いていたが、先王の時代に崩壊しかけた国を建て直せたのは誰のおかげだと思っている。トパーズがあちこちで心を砕いていなければ、セラルーシは中小国家どころか、弱小国家にまで退化していただろう。

「エルイヴァラ、今すぐそのけがらわしい口を閉じろ。それ以上私の弟を侮辱してみろ。私は迷わず貴様を処刑台に送る」

ライガーの威圧に後ずさり、その発言に一瞬唖然となるエルイヴァラだったが、すぐにそれはありえないと胸を張って言った。何を根拠にそう言っているのか。こいつの中で、王室の血統はずいぶん軽い存在になっているようだ。

いや、これもあの男爵令嬢の洗脳が原因か?まあ、どっちにしろエルイヴァラが罪を犯したことにかわりはない。

「嘘だと思うのなら王家の血統図を調べてみろ。私の弟であるトパーズの名前がしっかり書かれているはずだ。教養の講義で見ているはずだが?まさか、講義を全く聞いていなかったのか?」
「……っく!」

自覚はあるらしく、エルイヴァラは唇をかみしめてライガーを睨む。

「……しかし、父上はきっと後悔しますよ。私が王にならなければ、セラルーシは滅ぶ。すべて父上のせいになりますよ」
「さっきまで何を聞いてたのか。貴様がいなくなったところで、エメラルドがいるからこの国は何も困らない。それに、王位継承権を持つ者は、先王のおかげでごまんといる」
「エメラルド……そんなどことも知れない者にこの国を譲ろうというのですか?父上も耄碌もうろくしましたね」
「……」

ライガーはもはや相手にするのも憂鬱になってきた。社交場や国政の場にあまり姿を見せないにしろ、エメラルドは体が弱いトパーズの代理で何度か城に来たこともあったし、6年前には国家の代表として学業大国であるルーベンツ王国に留学に行っている、国中で注目されている期待の新星なのだ。こいつだって何度か対面したことがあったはずだ。

そのエメラルドを忘れているとは……この洗脳には、もしかしたら記憶を好き勝手に操れる効果もあるのかもしれない。

「エメラルドは、我が弟トパーズの長男で、アクアマリンの実の兄だ。王弟の子に王位継承権が与えられるのは当然だろう?」
「ば、馬鹿な!父上でも適当なことを言うのは許されません!公爵家の嫡男はフォルビヤーノですぞ!」
「バカはそちらだ、このド阿呆。フォルビヤーノはトパーズの後妻が、再婚前に子爵との間にもうけた子供だ。嫡男どころか公爵家すら名乗ることは許されない身だが、アクアマリンが目をかけていたから特別に見逃されていただけだ」
「なっ……なっ……!」

息子の性格的に洗脳に一番かかりやすいだろうことはわかっていたが、まさかここまで毒されているとは想像もしていなかった。コレの脳内は相当のご都合主義だったようだ。

「いつまでも脳内花畑の貴様に明言しておく。愚王と名高い先王には正室と側室が数えきれないほどいた。その中で、トパーズは由緒正しい家から嫁いだ正妃の子で、先王の在世に最後に生まれた王子だ。私は庶民から王宮に連れてこられ、一夜だけの寵愛を受けた側室の子として生まれた。血統を重んじるなら、ローゼンクロイツ家の方が我が王家より格上だ」
「そ、そんなバカな話があるわけない!この私が下賤の血を受け継いでいていいはずがありません!」
「貴様は自分をどんな偉い奴だと思っていたのだ。適当なことをわめく前に、もう一度王家の血統図を見直すんだな」

これも洗脳のせいだと割り切れたらよかったのだが、残念ながらこれは素だ。こいつは洗脳される前から、苦労から逃げ、自分に都合の良いように考える傾向があったのだから。

愚王と名高い先代アインゲル王は、女好きだった。目を付けた女はどんな手を使ってでも後宮に連れ込んでいたから正室のほか、側室が20人以上いた。もちろん子供も多数いて、そのせいで王位争いは激化することとなったんだが。ライガーの弟であるトパーズは、そんな王に嫁いだ正室の子で、学問や政治にも突出しており、末っ子王子だったが最も王に近いと言われていた。ゆえに小さいころから王やほかの兄弟に狙われ続けていた。

かたやライガーは数多くいた側室の子であり、王子ではあったが、いくら学問や武術を頑張っても、その存在は空気と同列に扱われていた。そんな後宮の中で育ったがゆえに、ライガーはグレていた。どうせ誰にも認められないのなら、努力するのも面倒だった。しかしトパーズはそんなライガーを兄と慕っていた。ライガーを兄と呼ぶトパーズの目には、いつも憧れと尊敬だけがあった。その純粋な思いに、ライガーは救われていたのだ。

トパーズは生来からひどく病弱で、こんな体では王の責務を全うできない、と王が永眠して王位争いが激化する中、反対勢力を全て黙らせた上で自ら王位継承権をライガーに渡し、『兄上を信じて支えます』という言葉とともに公爵位に就いたのだ。

当時、先王の王子たちや重鎮たちは、腐った国の中で何かしら悪に手を染めていた。しかしトパーズはライガーに王位を渡す前にそれらを一個一個全部暴いていて、公表せずに弱みとして握っていたのだ。それを知らされた時ほど、弟の王としての器に感服したことはなかった。

幼少時から、エルイヴァラの性格が祖父…先王に似ていると気づいていた。だからエルイヴァラが男爵令嬢の魔法にたやすく籠絡された時から、ライガーはエメラルドを王太子にする準備を進めていた。ほかの兄弟にも王位継承権はあるが、どう頑張ってもエメラルドの方がこの国を任せるにふさわしい。弟に似て、エメラルドは王を勤め上げるだけの力量と器がある。

コンコン。

不意に、執務室の扉が控えめにノックされた。時期的に、アレの報告だろう。

「入れ」

声をかけると、扉がゆっくりと開き、立派に磨かれた銀色の鎧を着た少年が入ってきた。セレスト・ブルーの短髪にブラウンの瞳を持った、エルイヴァラと同い年の少年である。

「失礼します、陛下。ご命令の通り、ボッタ宰相親子および魔術師団長子息リーベルズ、そして男爵令嬢リリーニャを拘束いたしました。現在城の地下牢で父の部隊が見張っております」

深々と一礼し、あの夜エルイヴァラの側に立っていた近衛騎士団長次男ターコイズ・バレットは、エルイヴァラの存在など無いように黙殺し、ライガーに簡潔な報告を述べた。

愚か者どもの断罪の始動を告げるその報告に、ライガーはニッと口角をあげて笑った。
取り巻き一人一人のざまぁをもっと掘り下げた方がいいかな……?
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