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死神皇帝のバイト妃 作者:カホ

第0部

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☆ 予想の斜め上を行く

ざまぁプロローグの後半。でもざまぁは最初の方にしかないです。
「さて、いくらお前がバカでも、さすがに自分の立場はわきまえられたよね?で?マリンをどこへ捨てたんだい?」
「………デッド、フォレスト…」

青い顔で観念したのか、わなわなと震える唇でフォルビヤーノは蚊のように小さな声でぼそぼそとつぶやいた。

その返答に、エメラルドは思わず舌打ちした。こいつは、よりによって妹を最大最悪の魔境に捨てやがったのだ。

デッドフォレストといえば、ランクC以上の凶悪な魔物がはびこる、弱肉強食の世界だ。生きて帰ってくるためには、少なくとも冒険者ランクがB以上でないと不可能とすら言われる。確かに妹は世界でもトップレベルの光属性魔法を使いこなすが、それでも齢18の女の子には過酷すぎる。

エメラルドの魔力属性は風だ。今この場で風魔法を発動させなかっただけよくこらえたと思う。それを聞いていた父も、背後に青々とした炎がゆらゆらと燃えているようだ。エメラルドの風属性魔力と父の炎属性魔力にあてられ、フォルビヤーノは声にならない悲鳴を上げて尻餅をつく。

ローゼンクロイツ公爵家は、父もエメラルドも妹も常人の何十倍の魔力を有する。かたやフォルビヤーノの魔力は、エメラルドの4分の1にも満たない。魔力量の差はそのまま威圧に変換されるので、フォルビヤーノは今、すさまじい圧力を感じているだろう。こうなるのは当然のことだ。

「ラルド、帰ってきて早々にすまない。マリンを捜索するのを手伝ってくれないか?」
「もちろんです、父上。マリンのためなら、僕は協力を惜しみませんよ」
「ありがとう…今朝方、王太子の廃嫡とマリンの国外追放取り消しの旨が届いた。これから捜索には国も動き出すんだろうがーーー」
「ば、バカな…!姉は、大罪を犯したのだぞ!!許されていいわけがーーー」

ザシュッ!

未だにトチ狂ったことをわめいているフォルビヤーノの頬に、ピッと鋭い赤が走った。静かな怒りをはらんだエメラルドのウィンドカッターが、フォルビヤーノの頬を切り裂いたのだ。

「大罪を犯したのはどっちだ。身の程をわきまえろ。お前はこの家では、もはや庶子よりもさらに低身分の存在になったんだ。冷遇してもだれも文句など言わない。せいぜい不慮の事故(・・・・・)に巻き込まれないよう影で縮こまってろ。それとその汚らしい口で二度とマリンを姉と呼ぶんじゃねえ。不愉快だ」
「……ひぃっ!!」

どすの利いたエメラルドの声と魔力の威圧も相まって、青ざめを通り越して生気をなくした白い顔をして、フォルビヤーノはすさまじい勢いで後退し、本棚にすごい音とともに頭をぶつけて気絶した。そのまま二度と現世に戻ってくるな……失敬、言葉が乱れました。

「父上、この阿呆はどうします?」
「あとで適当に回収させる。一週間ほどは自室で謹慎してもらおう。妻も同様だ。こいつらの処遇はその間に決めよう」

父の顔には明らかな安堵が浮かんでいた。10年くらい老け込んだ顔になっている。マリンの居場所がわかったことへの安堵、その現在地に対する不安、義理の息子への失望、義理の息子を教育できなかったことへの後悔、今の父の中では相当巨大なストレスが渦巻いているだろう。このままではまた体を壊して寝込んでしまう。

「父上、マリン探しのことは僕に一任してくれませんか?父上は休息をするべきです」
「……休んでなどいられるものか。こうしている今も、マリンが大変な目に遭ってるかもしれないのだ」
「しかし父上、その体では無茶です。鏡をご覧になってください。ひどい顔をしていますよ」
「……」

エメラルドが指摘すると、トパーズはうっとうめいた。どうやら自覚はあるらしい。

「休む時には休んでください。僕はまだまだ未熟です。父上にはもう少し頑張っていただきませんといけないのですから、しっかり休んでください」
「……ハハッ。お前も言うようになったな、ラルド」
「そりゃあ、父上が大事ですからね。僕を信じてください。父上がいなくても、必ずマリンを連れて帰って来ますよ」
「……わかった。お前に託すよ、ラルド。私は……休養する。あの王太子(バカ)とそこのアホのことで疲れた」
「父上、もう普通にバカと呼んでいいんですよ?王太子はすでに廃嫡されていますから」
「おっと、そうだった。ただのバカとアホだったな」

父と息子は顔を見合わせ、クツクツと笑い合った。もし、ここに彼女がいれば、きっと一緒になって笑ってくれただろう。

けど、彼女は今いない。

「父上。マリンを…必ず見つけましょう」
「ああ…当たり前だ」


****

断罪パーティの翌日、セラルーシ国王ライガー・ロディアは、王太子エルイヴァラの廃嫡、及びアクアマリン・ローゼンクロイツ公爵令嬢の国外追放の撤廃と貴族籍復活を発表。

その日のうちに発令されたローゼンクロイツ令嬢捜索令には国内ほぼ全ての貴族が参加し、1万人ほどの人員がデッドフォレストに派遣された。

しかしアクアマリンは見つからなかった。捜索は三日三晩に渡って行われたが、アクアマリンの姿どころか、人間がいた痕跡すら見つからなかった。

森の外で人さらいに遭ったのではないか?森の中で魔物に跡形もなく食べられてのではないか?実は森に入っていなくて国内で生きているのではないか?などなど、国内で数えきれないほどの憶測が飛び交った。

捜索開始から5日、国はアクアマリンを失踪と公表。手がかりが見つかったらすぐに上奏するよう通達を出した。

誰も、アクアマリンがドラグーン帝国にいるのではないか?という仮説を唱える者はいなかった。

そう。この国の誰もが夢にも思わなかったのである。まさか公爵令嬢が、一夜にしてデッドフォレストを抜けられるなど……。


****

時は断罪パーティの翌日までさかのぼる。

セラルーシ王国が国をあげての大捜索をしてまで探されようとしている本人は、ドラグーン帝国ののどかな田園風景の中でのんびり歩いていた。

「すごっ……!セラルーシの農園とは違うんだ」
「ピョルル」

一面に広がる広大な麦畑に、アクアマリンは落ち着きのないことに熱心にあたりを見渡してしまった。セラルーシのようなこじんまりとした農業ではなく、広い土地を使ってバーンとやるドラグーンの農業に、興味津々です。

アクアマリンは、今庶民の服を着ている。セラルーシにいた頃、お父様に内緒で何度も城下にお忍びしに行っていたので、インフィニティの中に庶民用の服を隠し持っているのだ。

……お父様、大丈夫かしら?倒れたりしてないわよね?愛娘は切実にそう信じておりますよ!

「ここからどこへ向かおうかしら?」

公爵家で見たことがあったドラグーン帝国の地図を記憶から引っ張り出し、アクアマリンは行き先を考える。

アクアマリンには一応小遣いがある。城下に行く時以外に使う用事もないので、ほとんどインフィニティに貯金されている。節約すれば1年間はほそぼそと生きていけるだろう。

しかしいつまでもニートするわけにも行かない。早いところお金を稼げる仕事を見繕った方が良いだろう。

「この辺りで一番大きい都市って……確か、デルドアじゃなかったかしら?」
「ピョッ!」
「あってる?」
「ピョッピョッ!」

元気良く頷いてくれるフローラに、アクアマリンは破顔する。

ちなみにフローラは自分の体のサイズを調整できるようで、今は体を縮めてアクアマリンの肩にチョコンと乗っている。

「よし!じゃあデルドアの街を目指して、出発進行!」
「ピョ~!」

祖国の人々の思いなど露知らず、一人と一羽は、意気揚々とデルドアの街を目指すのだった。

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