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モフモフが増えました
今回はもふもふが無双する話です。この作品、主人公は守りのチートですが、攻撃からっきしです。
攻めのチートは周りの方々にになってもらいます、はい。
涼やかな夜風が、アクアマリンのピンクプラチナのストレートヘアをサラサラとなびかせる。
「わぁ……!」
銀鳥の背中に乗ってデッドフォレストの上空を飛行しながら、アクアマリンは眼下に広がる光景に目を輝かせた。
今宵は見事な満月である。その大きな満月に照らされ、真下には広大なデッドフォレストが雄大に広がり、進行方向には厳かな山脈が連なり、セラルーシとは比べられないほど綺麗なドラグーンの夜景が、暗い大地に天の川のように散りばめられている。
さすがは大陸随一の大帝国。セラルーシのような中小国家とは発展のレベルがまったく違う。
「すごい……!世界って、地上からと空中からでは全然違って見えるんだ!」
「ピョル~!」
今まで、アクアマリンはずっと地上から世界を見上げていた。せいぜい王城のてっぺんから王都を見下ろしたことがあるだけだった。
しかしそれは王都を一望するだけの体験でしかない。飛行手段を持たないこの世界の人たちにとっては、それが限度だったのだ。
だから、初めて自分の目で見た世界は……大自然は、アクアマリンに鳥肌が立つほどの感動をもたらした。地上で見ていたものが、上空から見ると全く違うものに見える。
「これだわ…!私が求めていた感動!お父様とお兄様にはとっても申し訳ないけど、あの国を出てよかーーー」
「ピョルルル!!」
目をキラキラさせながら大自然と夜景を眺めていたアクアマリンは、銀鳥の鋭い鳴き声でハッと我に返る。
「ギーギー!!」
銀鳥の背から身を乗り出してみると、下方のデッドフォレストから、もぞもぞとうごめく黒い塊が迫って来ていた。
「……何、あれ」
かなりの距離があったことから、最初はその塊がなんの群れなのかはわからなかった。
しかし群れが近づいてくるに連れ、アクアマリンはこれがなんの群れなのかを悟った。夜にしか活動しない、ナイトメアバッドだ。目は存在せず、超音波を出して周囲を視る吸血型の、ランクC魔物である。
「あんなたくさん……!」
アクアマリンは慌てた。光の壁を張ることができればこんなの余裕でしのげるが、残念ながらアクアマリンの魔力は、光の壁を長時間展開できるまで回復できていない。
どうすれば……!!
「ピョッ!ピョッ!」
「……?鳥さん?」
「ピョッピョーーー!!」
「え…何?……ってうわっ!!」
突然、銀鳥は大きく翼を広げ、アクアマリンを乗せたままナイトメアバッドの群れに向かって急降下して行く。
ほぼ垂直降下だから、アクアマリンは振り落とされないよう精一杯銀鳥の背中にしがみつき、体をできるだけ低くした。吸血コウモリの群れに突っ込むなんて危険すぎる!と言いたいが、今はそれどころじゃない。
銀鳥がナイトメアバッドの群れと接触する直前、アクアマリンは瞬時にタイミングを見定めて光の壁を展開する。長時間はまだ無理だが、短時間であればなんとか張れる。
光の壁によって守られた銀鳥は、群れを通過する瞬間に何度も羽ばたきをする。すると翼から風の刃が乱射され、一瞬でナイトメアバッドの群れの4分の3を葬った。
「……すご…!」
そのあまりに高すぎる魔法の威力と精度に、アクアマリンは自分の張った光の壁が消えていることにも気づかずあんぐりと口を開けた。
銀鳥はナイトメアバッドの群れを通過すると空中で体の向きを変え、息絶えてポロポロ落ちてくるナイトメアバッドの骸を巧みによけて、再び群れの上空に回り込む。
「ピョー!」
下方でほそぼそと生き残っているナイトメアバッドたちに向かって、銀鳥は赤ん坊の頭ほどの大きさはある水球を3つ作り出した。
「……え?」
その光景を、アクアマリンは目を全力でゴシゴシこすりたい気分になりながら呆気にとられて見ていた。
嘘であって欲しい……と願うアクアマリンの願いは届くはずもなく、銀鳥は作り出した水球を残りのコウモリたちに向かって打ち出す。そしてそれらは、群れの上空で弾け、大量の水がナイトメアバッドたちに降り注いだ。
ナイトメアバッドは、翼が水に濡れるとその重さで落下する性質を持つ。案の定、派手に翼に水をかぶったナイトメアバッドたちは、今度こそ一匹残らず地上に向かって落ちて行った。
「………」
この世界で、魔力の属性というのは、魔物にしろ人間にしろ一つしか持っていないのが原理である。中には特殊変異で属性を二個持った人や魔物もいるが、それは光や闇属性を持っていること以上に希少な事例だ。
そんな青天の霹靂のような存在が、目の前にいるなんて……。
「……君ってすごいんだね!二つの属性を同時に扱うなんて」
「ピョッピョ~!」
褒めて褒めて!というように得意げに鳴く銀鳥。その様子が愛くるしくて、アクアマリンは破顔しながらワシャワシャと銀鳥の頭を撫でた。
だって、可愛いんだもん。
「さて、デッドフォレストの上空も抜けたし、どこか人目につかない場所に降りてくれる?」
「ピョッ」
コクリと小さく頷き、銀鳥は空中を滑空しながら徐々に高度を下げて行った。
そういえば、この子のことはどう呼んだらいいだろう?あとで名前を考えた方がいいかもしれない。
****
「この辺の芝生ならふわふわしてるし、土もサラサラだし、野営にはもってこいなのかな?」
「ピョッ!」
無事ドラグーン帝国の領地内に降り立つことができ、アクアマリンは一気に緊張が解け、あふっと小さなあくびを漏らす。
「ピョ?」
「大丈夫だよ。眠いけど、その前にご飯を食べないと」
心配そうな顔をする銀鳥に微笑み、自分の固有魔法の中から食料を取り出す。
この世界には通常の魔法と違い、一部の人間には固有魔法という、その人にしか使えない特殊な魔法が出現する。遺伝などに関係ないので、両親ともに固有魔法なしだったのに、アクアマリンと兄は持っていたり、国王陛下は持っていたのに、一人息子のバカは持っていなかったり。
アクアマリンの固有魔法は、インフィニティ。いわゆる土属性の収納魔法と似たようなものだ。
仕組みは難しくてよくわからないが、こことは別の次元に、時の止まった無限空間を作り出し、そこに物品を貯蔵することができる魔法なんだとか。しかも無限空間の中に入れたものは時間経過による劣化や温度変化がないのだ。
熱々のものをインフィニティに入れておいたら、3年経ったとしても新鮮で熱々の状態で食べられるのです。初めてこの力に気づいた時は飛び上がって喜んだのをよく覚えています。
そんなわけで、アクアマリンは早速脳裏にインフィニティのリストを思い浮かべる。この脳内リストで取り出したいものを選択すると無限空間から引き出せる仕組みだ。
逆に収納する時は"収納"と脳内で唱えるだけでOK。大変便利です。
「鳥さんは何がいいかな……さっきのコカトリスでいいかしら?生で食べることになるけど」
「ピョッピョ~!」
目を輝かせ、よだれをダラダラ垂らしながら銀鳥はアクアマリンをガン見する。
このコカトリスはもちろんさっきデッドフォレストで銀鳥に退治された奴ら。銀鳥の背中に乗って飛び立ってすぐ、コカトリスの骸を収納してない!と気づき、急いでUターンして回収したのです。
切り分ける術があるわけではないので、アクアマリンはコカトリス一匹をそのまま出した。速攻でかぶりつく銀鳥を微笑ましげに見つめ、自分はインフィニティから試作品サンドイッチを取り出す。
こう見えて、アクアマリンは料理ができる。自宅ではよく使用人やお父様の目を盗んではキッチンに忍び込んでいろいろ作って、バレて使用人たちに叱られていたものだ。このサンドイッチも、令嬢時代に作ったものである。
大した量でもないので、ぺろっと平らげる。
「満腹になったところで……鳥さん、結局ついて来ちゃったのよね」
「ガツガツ……プゥ……ブクブク…ピョ?」
コカトリスを半分ほど食べて小さなゲップをつき、作り出した水球に顔を突っ込んで血を流している銀鳥は、アクアマリンの視線と言葉に気づいて小首をかしげる。
「名前、つけた方がいい?」
「ピョッ!ピョ~♪」
アクアマリンの提案に、銀鳥は物欲しそうな目を向けてくる。
「わかったわ。じゃあ……フローラ。フローズンから派生させて、フローラ!」
雪のように綺麗な銀色のこの子にはぴったりだと思う(アクアマリン的センス)。
「ピョッピョ~!」
銀鳥、もといフローラは嬉しそうに翼をパタパタさせた。喜んでくれたと見て良いのだろうか。
「そういえば私も名乗っていなかったわね。私はアクアマリン。よろしくね」
「ピョ!」
えへんぷいと胸を張るフローラが『よろしく!』と言っているように見えて、アクアマリンは吹き出してしまった。
お父様とお兄様にはご迷惑をかけてしまうが、バカよ、本当に婚約破棄してくれてありがとう。おかげでこんな可愛い鳥さんと出会えたのだもの。
「お腹いっぱいになったし、もう寝よ」
「ピョッ」
「……見張りやってくれるの?」
「ピョ!」
「…ありがとう、フローラ。じゃあ頼んじゃうわ」
フローラのもふもふした体にもたれかかり、アクアマリンはトロトロとやってくる眠気に身を任せた。
「お休み……フローラ…」
「ピョ~」
……ああ、着替えもしなきゃいけないんだ…。でも眠い…着替え……また明日で……zzz
次でざまぁに突入できそうです。うまく書けてるかな……?
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