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死神皇帝のバイト妃 作者:カホ

第0部

2/9

死の森の可愛い出会い

ちょっと中身変わってます。主人公のキャラと御者のことを入れてみました。
王宮でそんなやりとりがされていたとはつゆ知らず、アクアマリンは馬車の中でこれからのことを考えていた。

どうやらアクアマリンは、このまま直行でデッドフォレストに連れて行かれるらしい。馬車が自宅の前を素通りしたときにハテ?と思って御者に聞いたところーーー。

『あなたのことはデッドフォレストにお連れするよう、嫡男のフォルビヤーノ様に言われております』

とのお言葉、いただきました。なるほど、弟の仕業ですか。遠回しに捨ててこいということですわね。おかげでお父様に「療養大事!」と告げそびれてしまったわ。

……お父様、お体がとても弱いからね…。これでまたストレスとか溜め込んで倒れたりしてしまわないだろうか?……どうしよう、容易に想像できて不安になって来ちゃった。

だからと言って、今からお父様に会いにいけるわけではないからどうしようもないけど。

デッドフォレストというのは、名前の通り立ち入った者に死をもたらすと言われる森で、セラルーシ王国と隣国ドラグーン帝国との国境に広がっている。高ランクの魔物が多数出現するとかないとか。

行き先がデッドフォレストだと告げられても、アクアマリンは別にどうとも思わなかった。食べ物には困らないし、自衛の手段もあるし、とりあえずさっさとドラグーン帝国に向かってしまおう。

それにしても嘆かわしいわ。我が義弟がこれほど愚かだったとは。婚約破棄なんていう大事、当事者の口から父に告げるべきなのに、公爵の了承も得ずに勝手に口封じをするとか……。昔はぽやぽやした可愛い弟だったんだが、あの王太子(バカ)に影響されてしまったか。

まったく……あのバカはもはや存在するだけで迷惑なんですわね。今に知ったことでもないけど。

「着きました」

周囲から建物が消えてしばらくして、馬車は止まり、御者が小窓越しに声をかけてきた。

「送ってくださって、どうもありがとうございます」

しれっと馬車を降りるアクアマリンに、御者は少々慌てている。アクアマリンがこんなに冷静でいるのが驚きなんだろう。

「お、お待ちください、お嬢様!」
「お嬢様?それは誰のことでしょう?私はもう貴族籍を剥奪された一般庶民の身ですのよ?」
「し、しかし……!」
「それに、あなたたちの主人はいつに間に現役のローゼンクロイツ公爵から公爵次男(・・)にすぎないフォルビヤーノ様に変わっているのでしょう?」

王族の口から出た言葉は絶対。それがこの国のルール。だからバカの発言でも、それはもう撤回できない。アクアマリンはもう貴族ではないので、ここは潔く庶民に下ろう。

残されたお父様やお兄様のことがとても気がかりだが、ここまでまっすぐ連れてこられたのだから別れを告げることはできない。またの再会を願うしかないわね……。

「……っ!」
「その様子だと、公爵家の家系図を知らないのですね。あなた、公爵にはいつ来たのですか?」
「……4年前です」
「あら、そう。私たちが学園に入学する前年ですわね。それではお兄様を知らないのは仕方ありませんね。よろしかったら、図書室にある我が家の家系図を読むと良いですよ。御者様でも立ち入れますから大丈夫です」
「……そんな!それじゃあ、私は……」
「家系図だけではありません、もっとたくさんのことを学べるのです。ぜひご利用ください。それでは御機嫌よう。ご主人様と、楽しくお過ごしくださいませ」

アクアマリンの、本人は好意のつもりの発言に青ざめる御者を無視して、アクアマリンは臆することなくデッドフォレストに入っていく。

公爵家の家族図に疎いのは構わないのだけど、他の使用人たちは教えなかったのかしら?それとも義弟に組みしていたから嫌われてた?……まあいいや。

時間はもう真夜中に近かったから、デッドフォレストは真っ暗闇に近かった。さすが死の森の異名を持つだけあって、不気味な雰囲気があたりに充満している。

「光よ集え!」

アクアマリンの凛とした声が森に響く。すると周辺で光が弾け、周囲を照らすとともにアクアマリンを包み込む光の壁を展開した。

この世界には魔法が存在する。属性ごとに合言葉を唱えれば、あとは使用者のイメージで魔法が発動する。

属性は四大元素(炎、水、土、風)に光と闇を加えた6種類。その中でも光と闇は格段に希少性が高く、だからこそ光属性持ちのアクアマリンは、一瞬で王太子妃に落札されてしまったのだ。

でも、もうあのバカともおさらばですわ。

魔法を継続発動させながら、アクアマリンはデッドフォレストの奥へと進む。確か、セラルーシ王国からまっすぐ東に向かえばドラグーン帝国に着くはず。

魔法を継続する時は、魔法使用者の持つ魔力を消費する。複雑な、あるいは難しい魔法であれば消費する魔力も多いし、魔力を大量消費すれば気だるさに見舞われる。

アクアマリンが今使っている魔法も複雑な部類に入るからかなり魔力を消費しているんだが、それを楽々と持続させられているのは、ひとえにアクアマリンの魔力保有量が桁違いに多いからだ。

アクアマリンの場合、魔力が多すぎて放っておくと自身の体を内部から壊してしまうので、魔力を本来の10分の1に抑え込む腕輪を常時はめている。それでも常人の何倍もの魔力保有量なのだから、いかに膨大な魔力を抱えているのかわかるだろう。

「東は……多分こっちじゃないかしら?」

光の壁が照らす森道を慎重に進む。索敵系の魔法は風属性にしか使えないので、アクアマリンにはどこに魔物が潜んでいるのかはわからない。

というかパーティ帰りだからドレスなのよね。動きにくい……。死地の真ん中で着替えるわけ行かないので、デッドフォレストを抜けたら着替えましょう。

『ゴケーーー!!』

しばらく進んでいると、近くの草の茂みから上半身は鶏なのに下半身がトカゲの魔物……コカトリスが数匹姿を見せた。

『ゴケッゴコーー!』
「っ!」

一斉に飛びかかって来たコカトリスたちに、アクアマリンは光の壁を一回り大きくする。

コカトリスたちの攻撃は光の壁によって防がれ、そのまま弾き飛ばされる。

「ふぅ……」

いきなりのことにドクドクする心臓に手を当て、小さく息を吐く。心臓に悪い出現だった。

しかしこのままここに残っていても、アクアマリンにはコカトリスを倒す術はない。光属性の魔法は治癒と防御と補助に特化したもので、アンデッド系の魔物以外には攻撃として通用しないのである。

コカトリスが起き上がる前にスタコラここを離れようとした時ーーー。

シュバババッ!!

どこからともなく鋭い風切り音が響き、かまいたちにも似た風の刃が4本飛んできた。

アクアマリンはとっさにその場にしゃがみこんだが、それらはアクアマリンの頭上を通り過ぎ、寸分たがわずコカトリスたちの首を刎ねた。

「………」

ズズン、と崩れるコカトリスたちをよそに、アクアマリンはあたりを見渡し、かまいたちを飛ばした存在を探す。

それは、すぐに見つかった。

「ピョルル?」

アクアマリンが振り返った先には、彼女と同じアクアマリンの瞳を持った純銀の鳥が小首をかしげてこっちを見ていた。

「……えっと、あなたが私を助けてくれたの?」
「ピョル」
「…?もしかして、私の言葉とか理解してる?」
「ピョルピョル!」

タイミング良く返事を返す銀鳥に疑問を覚え、試しにそう聞いてみると、得意げな表情で力一杯頷く。

……どうしよう、すっごく可愛い。でもなぜだろう?どこかで見たことがあるような…?

「わかるんだね……。ありがとう、助けてくれて」
「ルルル~♪」

アクアマリンが微笑んでお礼を言うと、銀鳥は嬉しそうに鳴き声をあげ、アクアマリンに擦り寄る。なぜかはわからないが、ものすごく懐かれている。

「…?」

ふと、銀鳥の背中を撫でようとした手のひらに、奇妙な感触を感じた。なんかこう…ぬるっとした感じのーーー。

「…!!あなた、怪我してるの?!」

急いで引き寄せた手のひらに見えた赤を発見し、慌てて銀鳥の背中を見る。そこには見るにも痛々しい傷がつけられていた。ついさっきついたものではないだろう。

「待ってて!すぐ治すから!」

この子は今でもとても痛い思いをしているはず。アクアマリンはいても立ってもいられなくなり、すぐに魔法を唱えて銀鳥の傷を治す。やっぱり結構深かったようで、治り切るまでにかなり魔力を使った。

「よし、治ったよ!これでもうーーー」
「ピョー!!」

銀鳥の驚いたような鳴き声が聞こえた直後、アクアマリンの体が大きく揺れ、そのままバランスを崩した。幸い、銀鳥が支えてくれたから倒れはしなかったが。

「……あれ?魔力の使いすぎかな?」

この症状は、魔力使用過多によるものだ。そんなに魔力使ったかしら……?と疑問に思い、しかしすぐに思い当たった。銀鳥の怪我を治した時、アクアマリンは焦って光の壁を解除し忘れたのだ。複雑魔法の光の壁と長期に渡る治療がプラスされて、魔力を使いすぎたのである。

いくらアクアマリンの魔力が多くても、限界というのはやはりあるのです。

「……もう少し進みたいんだけどなぁ…」
「ルゥ?」
「あのね……私、ここを抜けてドラグーンに行きたーーー」
「ピョルルーー!」

何気ないつぶやきだったが、銀鳥はその言葉を途中で遮り、パタパタと翼を広げ、足を曲げて背中を低くした。

………。

「……もしかして、乗れって言ってくれてる?」
「ピョー!」

どうやら正解だったらしい。

「…いいの?」
「ピョ!」
「さっきからありがとう。じゃあ、ドラグーンまでお願いね」

せっかくの申し出なので、アクアマリンはそれに甘えることにした。ここにとどまったところでアクアマリンは魔力の使い過ぎで疲れのバロメーターMAXだし、何より光の壁を作れない状態でデッドフォレストにいるのは危険だ。

「よいしょ……。失礼するね。…大丈夫?このドレス、ゴテゴテしてるけど重くないかしら?」
「ピョルル!」

心配して銀鳥に聞いてみたが、元気いっぱいな返事をいただいた。大丈夫であることを主張するためか、銀鳥はアクアマリンを乗せた状態でピョンピョン跳ねてみせた。

「大丈夫そうね。じゃあ、出発しましょう。辛くなったらすぐに言ってね」
「ピョ~!」

アクアマリンがポンポンと銀鳥の首を叩くと、銀鳥は大きく翼を広げ、デッドフォレスト上空に向けて飛び立った。
ざまぁ第一段階まであと1話…!

第何段階まであるかは未だ不明です。
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