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王太子(笑)との婚約破棄
一回書いてみたかった婚約破棄モノ。
ヒーローの登場までエラい遠いので、どうか気長にお待ちください。。
セラルーシ王国には、有能な少年少女たちを育成するための王立学園がある。
「アクアマリン・ローゼンクロイツ公爵令嬢!お前との婚約を、今ここで破棄させてもらう!」
その王立学園の卒業パーティの会場で、セラルーシ王国の王太子であらせられるエルイヴァラ・ロディア殿下が、目の前に立つピンクプラチナの髪にアクアマリン・ブルーの瞳を持った美しい令嬢に高らかと宣言した。
彼の横には、栗色の髪に藤色の瞳の可愛らしい少女が、大きな瞳をウルウルさせながらエルイヴァラにすがりついていた。顔立ちは良く言えば小動物系だが、はっきり言ってTHE☆普通です。その辺の町娘でも拾って来たの?と思うレベルだ。
「えーっと……」
婚約破棄を突きつけられた令嬢…アクアマリンは、咀嚼していたお菓子を飲み込む。婚約破棄って別にかまわないけど……わざわざ国王陛下が席を外している今を狙うか。
二人を取り囲むようにして、宰相の息子、近衛騎士団長の息子、魔術師長の息子、そしてかわいがっていた義理の弟もこっちを睨んでいます。
お偉いさんのご子息が全員集まってるわね……あら?近衛騎士団長のご子息だけ、なんだか罪悪感いっぱいな表情を浮かべていますね。どうしたんでしょう?
て、違う違う。今は婚約破棄の最中でしたわね。
「婚約破棄……ですか?」
「そうだ!」
「……理由を聞いてもいいですか?」
さっきのお菓子ってどうやって作ったのかな…?とか考えながら、アクアマリンは適当な問いを投げる。
「理由だと?それはお前が一番よくわかっているはずだ!お前は公爵令嬢という身分を笠に着て、男爵令嬢であるリリーニャをいじめただろう!」
案の定、エルイヴァラの口からはアクアマリンが予想していた言葉が飛び出た。身に覚えないんだけどなぁ……説明してもコレは聞かないだろうし、放置しよう。
「リリーニャ……とても変わった名前ですね」
「アクアマリン!お前はこの後に及んでまだリリーニャを虐めるつもりか!」
「いえ……いじめるも何も、私とその方は初対面ですよ?」
アクアマリンは3年前に学園に入ってから、殿下とはほぼ対面していない。そのせいで彼の交友関係が一切わからない。
元々このバカ……失礼。バカでも一応王子でしたわ。この王太子のことは嫌いだったから、婚約破棄はむしろ大歓迎なんだが、彼の隣にいるその子だれ?リリーニャなんて変な名前、聞けば一発で覚えるのに、記憶にございませんわね。
「しらばっくれる気か!私の寵愛を受けるリリーニャに嫉妬し、嫌がらせを繰り返していたであろう!」
「はあ?」
さすがにアクアマリンでも、この発言にはカクッとなりそうになった。なるほど、こういうことを言ってくるか、この王……バカは。
そもそもアクアマリンとエルイヴァラの婚約は、幼少時に親同士が取り決めたもの。アクアマリンは王太子妃として教育は受けていたが、エルイヴァラに執着などサラサラないし、むしろこっちから距離を置いていたくらいだ。
それをどう捉えたらその考えにたどり着くのかしら?自意識過剰なの?
「アクアマリン様、どうか罪を認めてください。私、本当に怖くて……」
…いやいや、リリーニャさんよ。無い罪を一体どうやって認めろというのよ。そんな今にも泣きそうな顔をされても困るんだって。
「大丈夫だ、リリー。私が必ず守ると誓っただろう?」
「エル様……」
…はいはい、イチャイチャはよそでやってください、このバカップル。周りを見渡してみろ。取り巻き以外みんな引いてるぞ。
…というか騎士団長の子息まで引いてるってどういうこと?あなた、そっちサイドなんじゃないの?
「認めるも何も、私は何もしていません。そもそも私にその方をいじめる理由もありませんわ」
「……まだ悪あがきをするつもりか!」
うーん……事実を言ってるだけなんだけど。つーかあがいてないし。むしろ婚約破棄されて喜んでるんだけど。
「待ちなさい!」
甲高い叫びがホールに響いた。全員の視線の先には、壇上に座る王妃様の姿。椅子のふちをつかんで今にも倒れそうだ。
「お前は自分のしていることがどれだけ大事か、わかっていますの?!こんなこと、許されませんわ!早く謝りなさい!」
はっきりと、エルイヴァラを諌める言葉だった。この会場にいた全ての人がそう理解しただろう。ところがどっこい、ハチャメチャなご都合解釈をした阿呆が一人いました。
「……聞いたか?母上まで貴様の行為にご立腹だ!もはや貴様のような汚らわしい者を許すことなどできぬ!」
「エル!やめなさい!」
「アクアマリン・ローゼンクロイツ!貴族籍剥奪に加え、国外追放とする!」
王妃が制止する声も聞かず、エルイヴァラはアクアマリンに国外追放を突きつける。王妃様はあまりにショックだったのか、気絶してしまわれた。
……この人、以前にも増してバカになってないかしら?王妃様は明らかに王太子を諌めただろうが。どういうぶっ飛んだ頭をしてるのかしら?
ああ……もう救いようがないんだったわね。失敬、忘れていたわ。
「まあいいですわ。わかりました。婚約破棄は承りました。正直私も、あなたの妃にならずに済んでホッとしております」
あら、嬉しくてつい本音を言ってしまいましたわ。オホホホ。でもどうせ国外追放されるんだし、いいよね?
「なっ!王族に対して口答えするなど…!身の程を知れ!」
「なんとでもお言い。これで私はようやくあなたというバカ王太子から解放されるんですわ。どうもありがとうございます」
「おい!バカとはなんだバカとは!」
「では私はこれで失礼させてもらいますわ。せいぜい長生きでもしてください」
ドレスの裾をちょこんとつまんで淑女の礼をして、アクアマリンは踵を返してパーティー会場を去る。もちろん、嬉しさににやけそうになる顔を引き締め、弾みかける足取りを抑えながらである。
国外追放となると、残していく家族のことが気がかりだったが、よくよく考えてみればお父様も隣国に留学してるお兄様も、超有能だからきっと大丈夫だろうと思った。お父様の体の具合が悪化さえしなければ……。
婚約破棄と国外追放の報告の時、ちゃんと療養してください、と意見するべきかしら。
「マリン様!」
突然、ざわつく人ごみの中から、見知った少女が必死の形相で駆け寄って来た。 アメシスト・マティアス伯爵令嬢である。彼女はアクアマリンの友人で、近衛騎士団長の子息の婚約者でもある。
「まあ、シス様ではありませんか」
「信じられません!あの王太子、マリン様との婚約をあんな屈辱的に破棄しておいて、自分はもう浮気相手と桃色空間なんて!」
「もし婚約者と何かあったら、遠慮なくローゼンクロイツ家を頼ってください。お父様ならきっとシス様を助けてくれますわ」
「ローゼンクロイツ家は大丈夫なのでしょうか?あの家で、マリン様は光のような存在でしたもの。そのマリン様がいなくなってしまうなんて……」
「大丈夫ですわ。お父様やお兄様のことは心配だけど、あの二人は私以上に優秀だから、きっとなんとかしてくださるわ」
どこかズレた会話を交わす二人の令嬢。これで会話が通じているのは、ひとえに二人の付き合いが長いからだろう。
****
衝撃的な婚約破棄が為されて、卒業パーティは中断となった。
「お前はなんと愚かなことをしたのだ、この大馬鹿者!」
アクアマリンと婚約破棄をしたあと、エルイヴァラとリリーニャは国王に呼び出された。正確にはエルイヴァラだけだったが、リリーニャが許可なくついて来たのだ。
国王は先ほどのパーティで、手がけている最中の政策の案について相談され、一時的に席を外した。婚約破棄と国外追放はその間に行われてしまったのだ。
ちなみに、王妃はショックで熱を出して寝込んでしまった。
国王の剣幕に一瞬たじろいだエルイヴァラだったが、すぐに尊大な顔と態度に戻り、隣に立つリリーニャの肩を抱きかかえる。
「いいえ、父上。私は間違ったことはしておりません。あの女は公爵令嬢の身分を笠に着て、リリーニャに執拗にいじめを繰り返していました。母上もあの女の行動にご立腹でしたので、あれは当然の処置です」
「まさかここまで進行していたとは……」
国王が何かつぶやいたが、それがエルイヴァラとリリーニャの耳に届くことはなかった。
「王妃の言葉は、間違いなく貴様を批判していた。それをどう解釈したらアクアマリンを非難する文句になるんだ?責任転嫁も大概にしろ」
「へ、陛下!違うんです!エル様は私のために……」
「男爵家の小娘ごときが、王である私に意見するというのか?身の程をわきまえろ」
国王が鋭い目で睨めば、リリーニャはひっ!と悲鳴をあげて縮こまった。
「そういえば小娘、貴様は大した魅力もないのに有力貴族の令息だけを囲い込んでいたな。どんな手、あるいは誰の手を使った?」
「そっ、それは……!」
「父上!父上にも、言って良いことと悪いことがあります!」
「私は男爵令嬢に普遍的な質問をしただけだ。何も悪いことは言っていないはずだが?」
「リリーニャは清らかな心を持っています!それに、リリーニャは将来の王太子妃になる者です!いくら父上でもーーー」
「許さぬ。その男爵令嬢との結婚は認めない」
「父上?!」
「陛下!」
「話は終わりだ。部屋で一週間謹慎していろ。男爵令嬢も同様だ」
苛立ちを隠そうともせず、国王は泣き崩れている王妃を連れて部屋をあとにした。エルイヴァラは忌々しげに舌打ちする。
なぜ誰しもが自分たちの邪魔をする。自分は間違ったことをしていないのに、周りの人間は自分を褒めるどころか、あの女をかばう。まったく、嘆かわしいことこの上ない。あのような汚らわしい女にたぶらかされるなど。
エルイヴァラは、アクアマリンのことをよく思っていなかった。婚約当時から、あの女は自分をまともに相手にもしていなかった。王太子であるエルイヴァラを敬いもせず、不敬な態度をとり続けていたのだ。それなのにエルイヴァラがリリーニャを寵愛すると、今更のように嫌がらせをする。何様なのだと思った。
「エル様……」
小さく震えながら、リリーニャが涙いっぱいの目で見上げてくる。
「安心していいよ、リリーニャ。父上はあんなことを言っていたが、あれはすでにあの性悪女に懐柔されているんだ。王なのに情けない限りさ。あの女もいなくなったし、早いとこ父上には隠居していただいて、私に王位を譲っていただかないと」
「まあ!それはなんて素晴らしい考えでしょう!」
「父上が隠居さえすれば、邪魔者はいなくなる。私たちが国王と王妃になれば、世界統一だって夢じゃないさ!私ほど、王にふさわしい者はいないからな!」
「ええ!私、エル様とでしたら理想の王太子妃になれますわ!」
そんな未来が来ることは絶対にありえないことなど考えることもなく、二人はにっこりと微笑み合うのだった。
キャラの肉付けは、こんなスタートでどうだろうか……?
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