中国ネット通販最大手のアリババ集団、通信機器やスマホの華為技術(ファーウェイ)、スペインの名門サッカーチームに出資した不動産大手の万達集団、急成長を遂げたシャオミ(小米)…。中国経済は重厚長大産業において過剰設備などを抱え、産業構造の転換が急がれる状況にある。その中にあって、上記のような世界でも名をはせる企業が同国の経済を引っ張っている。これらの企業を率いるのは、いずれも文化大革命などの激動期を乗り越えてきた個性的な経営者たちだ。
ジャーナリストの高口康太氏は4月25日に発売される新著『現代中国経営者列伝』(星海社)で、上記の企業を含む中国の有名企業8社の経営者の歩みをまとめている。強烈な経営者8人の来歴を通して、改革開放以降の中国の経済史を俯瞰する試みだ。今や世界に影響を及ぼすようになった中国企業の強さはどこにあるのか。高口氏に話を聞いた。
(聞き手 小平和良)
今、なぜ中国の経営者の話を書こうと思ったのでしょうか。
高口康太氏(以下、高口):中国で稲盛和夫氏の経営哲学本が大人気という報道を目にした方は多いのではないでしょうか。実際、中国の書店には稲森氏の著作が数多く並んでいますし、松下幸之助氏など別の日本人経営者の著作もよく見かけます。
「中国人は日本的経営にひかれている」と言うと、なんだか愛国心をくすぐられるようでうれしくなる人がいるかと思いますが、私はむしろ残念に感じます。というのも、中国のビジネスパーソンが貪欲に日本を研究している一方で、日本のビジネスパーソンは中国についてまだまだ無知だからです。
もし「後進国の中国ビジネス界について知る必要などない」と考えているならば、それは大きな間違いでしょう。今や中国にはいくつもの世界的企業が誕生していますし、その数は増える一方です。一代で大企業を興した辣腕経営者はみな独自の哲学を持っていますし、彼らの言葉、生き様は大きなヒントを与えてくれます。
私はもともと読み物としてビジネス本が好きで、日本・中国問わずによく読んできました。現役の経営者を見ると、中国の経営者に魅力を感じることが多いのです。それは経営者としての優劣というよりも、時代の違いが大きいのではないでしょうか。人口縮小時代に突入してしまった日本と比べ、中国は成長市場を謳歌しています。
改革開放以来の中国経済を、私は「明治維新と高度経済成長が一気にやってきた」お祭り騒ぎだと考えています。国家財産の払い下げや政府主導の企業育成プロジェクトによって新たな企業が次々と登場してくる明治維新モード。大躍進や文化大革命の失敗による焼け野原から再生する中、ハングリー精神に富んだ民間の企業家たちが頭角を現す高度経済成長モード。日本では2回に分かれていた高成長が同時に到来したカーニバルです。この時代の追い風をつかんだ中国の経営者たちの生き様は、きわめてスケールの大きい魅力的な物語なのです。
この魅力的な物語を日本に伝えたい、中国経済の活気を知ってもらいたい。翻訳書や学術書はどうしても読みづらいものです。なにかしら入門書的なものが必要ではないか。これが『現代中国経営者列伝』を書いた動機です。