あのジブリ映画のモデル!?渋温泉の老舗旅館「金具屋」は楽しみどころ満載だった!

2017.04.20

信州・渋温泉の老舗旅館「金具屋(かなぐや)」。思わず写真に収めたくなるような圧倒的な佇まいが目を引きますが、すごいのは外観だけではありません。実は、この宿、楽しみどころがいっぱいの観光旅館なんです!今回は、人気宿「金具屋」を目いっぱい楽しむ方法をご紹介します。

国の登録有形文化財に宿泊ができる貴重な宿

レトロな街並みで知られる渋温泉は、37本もの源泉を持つ人気の温泉街。電車で行く場合は、まず、北陸新幹線が通るJR長野駅から長野電鉄に乗り換えて終着の湯田中駅を目指します。そこから、上林温泉または志賀高原行きの路線バスに7分ほど乗り、渋温泉へ。
▲石畳が続くレトロな街並み。温泉街には泉質の異なる9つの外湯があり、渋温泉の宿泊者だけに特別開放されている(大湯のみ宿泊者以外の入浴可)

趣のある温泉街の中でもひと際目をひくのが、約260年の歴史を持つ老舗旅館「金具屋」。“ジブリ映画「千と千尋の神隠し」の湯宿のモデル”とも噂される木造4階建ての宿泊棟「斉月楼(さいげつろう)」は、国の登録有形文化財に認定されています。しかも、現役の客室として稼働中!「金具屋」は、登録有形文化財の部屋に泊まることができる貴重な宿なんです。
▲真ん中に見えるのが、昭和11(1936)年に完成した「斉月楼」。観光客の人気撮影スポットになっている。左は大浴場「鎌倉風呂」の建物

今回は、お目当ての「斉月楼」に宿泊!
通されたお部屋は入り口が土間作りになっていて、まるでどこかのお家にお邪魔したよう。次の間と10畳ほどの本間(広さは部屋によって異なる)があり、室内には、意匠の凝らされたあかり欄間やふすまの建具など、宮大工の素晴らしい技巧が随所に散りばめられています。
▲玄関部分が土間作りになっている「斉月楼」の部屋
▲「斉月楼」の部屋は全6室(すべてバス無しトイレ付き)。間取りや細工は、部屋ごとにすべて異なっている

すべて源泉100%かけ流し!泉質の異なる3つの大浴場

館内にある大浴場は、「浪漫風呂」「鎌倉風呂」「龍瑞(りゅうずい)露天風呂」の3つ(浪漫風呂と鎌倉風呂は夜中0時に男女が入れ替わる。入浴可能時間15:00~翌10:00)。しかも、“すべて泉質の異なる湯”と聞いては、比べずにはいられません。もちろん、どの湯も源泉100%かけ流し!湯船だけでなく、蛇口から出るお湯もすべて温泉という、なんとも贅沢なお風呂です。

まず向かったのは、昭和25(1950)年に造られたという洋風の「浪漫風呂」。浴室にはステンドグラスが配されていて、まるで、ローマ時代にタイムスリップしたような気分が味わえます。温泉は、やや黄色がかった濁り湯で、鉄分を多く含んでいるのか、ほのかに鉄のにおいが立ち込めていました。保湿力があるようで、肌がしっかり潤います。
▲金具屋で最も古い源泉「浪漫風呂」。その色合いから、かつては「泥の湯」と呼ばれていたとか(ナトリウム・カルシウム - 塩化物・硫酸塩温泉/中性低張性高温泉)

続いて向かったのが、「龍瑞露天風呂」。こちらは、浅間山の噴火によって噴出した黒と赤の浅間石で作られたお風呂で、湯の色は透明です。館内で唯一硫黄分を含む源泉で、お肌がツルツルになる「美人の湯」といわれているのだとか。湯の温度はやや熱めに感じましたが、吹き抜ける風が気持ちよく、ゆっくりつかることができました!
▲ナトリウム、カルシウムを多く含む「龍瑞露天風呂」(含硫黄 - ナトリウム・カルシウム - 塩化物・硫酸塩温泉/弱アルカリ性低張性高温泉)

残る1つは、ひょうたんの形をした「鎌倉風呂」。湯船には白い湯の花がゆらゆら舞っていて、とても肌ざわりのいいお湯です。湯加減もちょうどよく、ついつい長湯をしてしまいました。とにかくお湯がやわらかい!個人的にはこの湯が一番好みかも。
▲肌が弱い人も入れる弱酸性の「鎌倉風呂」(ナトリウム・カルシウム - 硫酸塩・塩化物温泉/弱酸性低張性高温泉)

館内には、この他にも5つの貸し切り風呂があり(泉質は「龍瑞露天風呂」と同じ)、どこも予約不要&無料で利用することができます。空いていたらラッキー!プライベートな空間で、のんびり湯浴みが楽しめますよ。

宿泊客の約半数が参加する、人気の「館内文化財巡り」

温泉で身体が温まったところで、食事処として使われている8階の大広間「飛天の間」へと急ぎました。実は、「金具屋」では、毎日17時30分から、宿泊者を対象にした「金具屋文化財巡り」なる館内ツアーを行っているのです(無料、チェックイン時に帳場にて要予約、所要時間:約35分)。
▲130畳敷きの大広間には、すでに30人ほどの宿泊客が集まっていた
▲ツアーの進行を務める、9代目(次期館主)の西山和樹(にしやまかずき)さん

まずは、「金具屋」の歴史のお話から。
「『金具屋』の屋号は、宿屋の前に“鍛冶屋”を営んでいたことから名付けられました。宝暦4(1754)年に起きた裏山の土砂崩れの復興中に、敷地の中から温泉が湧いたことがきっかけで、鍛冶屋から宿屋に鞍替えをすることになったんです」(西山さん)

当初は簡素な造りの“湯治宿”として営業していましたが、昭和2(1927)年に、長野電鉄の湯田中駅が完成したことから、「これからは“観光旅館”の時代になる!」と6代目の館主は考えたのだとか。地元の宮大工を連れては全国各地の観光地に赴き、さまざまな建築アイディアを吸収。“最高級の観光旅館”を作ることにこだわりました。
▲「斉月楼」の建築風景。当時の最高の材料と最高の技術を駆使して作られた

こうして作られたのが、「斉月楼」です。当時、界隈ではまだ例のなかった木造4階建ての建物は、人々を大変驚かせたといいます。「斉月楼」が竣工した昭和11(1936)年には、大広間と鎌倉風呂も完成しました。

「今、皆さんがいるこちらの大広間は130畳もの広さがありますが、柱が1本もないのが分かりますか?見た目は和風のお部屋なんですが、実は、富岡製糸場と同じ、“トラス構造”という洋式の建築を取り入れているんです」(西山さん)
当時は“芝居小屋”としても機能していたため、柱のない大空間にしたのだとか。
▲立派な格天井が目をひく大広間も国の登録有形文化財。昭和20(1945)年の大雪で倒壊したため、現在は昭和25(1950)年に復元されたものが残されている

普段は神社や寺を作っていた宮大工たちですが、“観光旅館”という縛りのない建物ということで、館内のあちこちに匠の遊び心が散りばめられました。
「『日本一の景色が見えるように』と、ここは窓が富士山の形になっています。よく見ていただくと、格子にはたなびく雲も入っているんですよ。照明のあかりは月を表しています」(西山さん)
▲大広間を出た先にある階段の窓。訪れた人を楽しませる工夫が随所に凝らされている
▲使わなくなった水車の軸の部分を再利用して作った、独特な風合いの手すりまわり

「斉月楼」は、すべての部屋が“独立家屋”として作られているため、部屋の外壁に小窓が付いていたり、部屋に続く廊下が石造りになっていたりと、館内を“屋外”に見立てた細工が施されています。
▲廊下にも水車の歯車が埋め込まれている
▲窓枠に使われている歯車も、使われなくなった水車から持ってきたもの
▲提灯をぶらさげ、街並みを表現した1階の廊下。屋内にも関わらず、頭上には、“軒”が連なっている

見どころ満載の館内は、ちょっとしたテーマパークのよう。ぐるりと歩きながら、宿の歴史や楽しみどころが聞けるため、「金具屋」の魅力を一層知ることができますよ!
▲ツアーの後は夕食タイム。きのこや地の野菜などがふんだんに盛り込まれた食事は、品数が多くボリューム満点。信州そばも楽しめる

間欠泉も楽しめる!いちおしの「源泉見学ツアー」

「金具屋」に宿泊したら、もう1つ、ぜひとも参加しておきたいのが、毎朝8時30分から行われている「金具屋源泉見学ツアー」(無料、前日までに要予約、所要時間:約50分)。なんと、当主(8代目)の西山平四郎(にしやまへいしろう)さん自らがツアーのガイドをしてくれます。

源泉は厳重に管理されていたり、共同で管理している場合が多いため、一般人が見学できる機会はなかなかないそうなのですが、「金具屋」は自家源泉なので、ご厚意で公開してくれているのだとか。
▲見学できる自家源泉は全部で4カ所。宿の横にある細い路地を進み、1つ目の源泉を目指す

最初に向かったのが、「浪漫風呂」の源泉。「金具屋別荘」という名前がつけられたこちらの源泉は、地下3mの場所から湯が自噴しているそうで、人の手を加えずとも、温泉がこんこんと湧き出ています。
▲高温の源泉が湧き出ているため、中は熱気がこもっている。左奥に見える茶色の壁は、温泉に含まれる鉄分が付着したもの

階段を下りて、1人ずつ奥にある源泉を見学。階段の下は、配管を巡らせた細長い空間になっていて、最深部の岩の割れ目からはもくもくと湯気が上がっていました。
▲江戸時代に鍛冶職から温泉宿になるきっかけとなった「浪漫風呂」の源泉

続いて向かったのが、「金具屋第三ボーリング」と名付けられた2つ目の源泉。こちらは、500番台の客室の蛇口から出るお湯に使われているのだそう。

「ここのお湯からは、塩化物温泉特有の塩に近い結晶がとれるんです。ほら。舐めるとちょっと“渋い”でしょう?この渋みこそが、『渋温泉』の名前になったともいわれています」と、西山さんが教えてくれました。
▲自噴ではないため、地下90mから動力を使って揚湯(ようとう)している「金具屋第三ボーリング」の湯
▲湯気からできた塩に近い結晶。昔は、貴重な塩分として食されていた。しょっぱさのほか、渋みやえぐみなども併せ持つ

続いて向かったのが、宿から約450m離れた場所にある「金具屋第一ボーリング」と「第二ボーリング」。こちらは、「龍瑞露天風呂」と5つの貸し切り風呂、「斉月楼」の客室の蛇口の湯などに使われている源泉です。唯一硫黄分を含む源泉で、もくもくと立ち込める湯気からは強い硫黄の香りが漂っていました。
▲湧出温度が98度もあるため、湯気は、手をかざしていられないほど熱い

沸騰しながら、地中から大量に湧き出ているというこちらの湯。西山さんが「第二ボーリング」のバルブをひねると、なんと高さが15mほどもある立派な間欠泉が吹き上がりました。予期せぬ展開とあまりの迫力にびっくり!
▲毎分約51.9リットルもの湧出量を誇るため、数分後にはまた高々と間欠泉が吹き上がる

「金具屋第一ボーリング」と「第二のボーリング」の源泉は、川の向こう側で湧いているため、専用の橋の横に据え付けられたパイプを通って宿へと送られていきます。
▲宿まで約450mの距離を移動する間に、98度の源泉が70度近くまで下がるという。湯船に行き着く頃にはちょうどいい温度に!
▲湧き出たばかりの熱々の温泉。ちょっと手を濡らしただけでも、お肌がツルツルに!
▲ツアー参加者にお土産として配られている、天然の“美肌の湯の素”。ナトリウムやカルシウムを多く含む化合物で、粉末にしたものをお湯に溶かして使用できる

「鎌倉風呂」の源泉は共同管理をしているものなので見学はできませんでしたが、立派な間欠泉まで見られて大満足!

宮大工の遊び心が光る設えと泉質の異なる3つの大浴場、朝夕に行われているツアーなど、楽しみどころが満載の「金具屋」は、現代人も十二分に楽しめるテーマパークのような観光旅館でした!渋温泉を訪れた際は、五感で楽しめる老舗宿「金具屋」に泊まってみてはいかがでしょうか?
▲幻想的な雰囲気が漂う夜の「斉月楼」(ライトアップ19:30~22:00)
(写真・平松マキ)
松井さおり

松井さおり

出版社勤務を経て、フリーランスのライター&編集者に。雑誌や書籍を中心に、主に、食・旅・くらしなどにまつわる記事を執筆している。現在は、東京から長野県長野市に拠点を移し、県内外を奔走する日々。(編集/株式会社くらしさ)

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