フランス大統領選 きょう投票 テロ受け厳戒態勢下で

フランス大統領選 きょう投票 テロ受け厳戒態勢下で
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フランス大統領選挙は、まもなく1回目の投票が始まる予定です。直前に首都パリで、警察官が殺傷される銃撃事件が起きたことなどを受けて、5万人余りの警察官らが投票所などでテロの警戒に当たるなど、厳重な警戒態勢が敷かれることになっています。
フランス大統領選挙は23日、日本時間の23日午後3時におよそ6万7000か所の投票所で投票が始まり、過半数の票を得る候補がいなければ、来月7日、上位2人による決選投票が行われます。

選挙戦では、中道で無所属のマクロン前経済相、極右政党・国民戦線のルペン党首、中道右派の共和党のフィヨン元首相、それに急進左派の左派党のメランション元共同党首など11人の候補者が、EUとの関わりや治安対策などを争点に激しい論戦を繰り広げてきました。

こうした中、パリのシャンゼリゼ通りで投票日直前の20日、警察官が殺傷される銃撃事件が起きたことなどから、厳重な警戒態勢が敷かれていて、投票日には警察官や兵士など5万人余りがテロの警戒に当たることになっています。

特にパリや去年テロ事件が起きたフランス南部のニースなどでは、投票所の警備員が通常よりも増員され、不測の事態に備えることにしているということです。

投票は日本時間の23日午後3時に始まり、即日開票されて、24日朝には大勢が判明する見通しです。

英のEU離脱が判断に影響か

反EUの立場をとるルペン氏とメランション氏に支持が集まる背景について、パリ政治学院サンジェルマンアンレー校のセリーヌ・ブラコニール教授は、「一部の候補者は、経済の低迷はEUのせいであり、EUが問題の一部になっていると主張している。これを聴いた有権者もイギリスが離脱したのだから、われわれが試してもよいと考えている」と述べ、イギリスのEUからの離脱が有権者の判断に影響しているという見方を示しました。

そのうえで、「多くの有権者が政治から遠ざかっている。左派も右派も日常の問題を解決してくれず、無力感が高まっている」と述べ、既存政治に対する不信感が高まっていると指摘しました。

テロに厳重警戒が必要 専門家

大統領選挙の1回目の投票を前に、パリの中心部では20日夜、男が警察官に向けて発砲し、1人が死亡、2人がけがをする事件が発生しました。
これについてテロ対策が専門の国際戦略研究所のフランソワ・エスブール所長は、NHKのインタビューに対し、「テロリストは、フランス政府が国民を守る立場にある警察官を守ることさえできないことを見せつけるため犯行に及んだ」という見方を示しました。

そのうえで、「決選投票を来月7日に控える中、新たなテロが起きる可能性があることを覚悟しておく必要がある。フランスはテロの標的となっている」と述べて、大統領選をめぐって、さらなるテロへの厳重な警戒が必要だと指摘しました。

また、今回のテロ事件が選挙に与える影響については、「間違いなく重要な影響を及ぼす」と指摘しましたが、各候補ともテロ対策の強化を訴える中で、事件が特定の候補に具体的にどのような影響を及ぼすか見通すことは極めて難しいという考えを示しました。

仏大統領選の仕組み

フランスの大統領選挙は、国民による直接投票で、投票が2回行われるのが特徴です。第1回投票で大統領に選出されるためには、有効投票総数の過半数の得票が必要です。どの候補者も過半数を得られなかった場合、上位2人の候補者の間で決選投票が行われ、より多くの票を得た候補者が当選します。

1965年から導入されたこの選挙制度のもとでは、1回目の投票で決着したことはなく、すべて決選投票が行われました。この制度では、第1回投票で3位以下の候補に投票した有権者が決選投票で誰に投票するかによって結果が大きく左右され、1回目の投票で2位だった候補が決選投票で逆転して当選したケースもあります。

また、フランスでは、2002年から、大統領選挙の決選投票の翌月(6月)に下院議員選挙が実施されています。フランスの大統領は、強い権限を持つことで知られていますが、議会選挙で大統領と同じ政治勢力が多数派を確保できなかった場合、政権内で「ねじれ」が生じることになります。かつてミッテラン大統領やシラク大統領の時代にこうした「保革共存政権」が発足し、大統領が難しい政権運営を強いられたことがありました。

過去3回の選挙は

フランスの大統領選挙は2000年以降、合わせて3回行われました。
2002年の大統領選挙では、1回目の投票で、再選を目指す中道右派のシラク氏に続いて、事前の世論調査を覆し、極右政党・国民戦線の初代の党首、ジャンマリー・ルペン氏が2位につけ、衝撃を広げました。本命の1人と言われていた当時の首相の社会党のジョスパン氏は、EU=ヨーロッパ連合の統合推進を訴えるなど右派のシラク陣営と政策面で違いを打ち出せず、左派の支持をまとめられなかったとされています。

この際にルペン氏は「フランス第一主義」を唱え、EUからの離脱などを訴えて支持を伸ばしましたが、極端な移民排斥や人種差別的な発言に警戒感が広がり、決選投票では右派と左派がともにシラク大統領を支持し、ルペン氏の勝利を阻みました。ただ、フランスで戦後初めて極右政党の候補者が決選投票まで勝ち進んだ衝撃は大きく、その後も「ルペンショック」として人々の記憶に残りました。

続く2007年に行われた大統領選挙では、2期12年にわたって国を率いたシラク大統領に代わる新人候補どうしの争いとなりました。1回目の投票の結果、中道右派の与党から立候補したサルコジ氏と、フランス初の女性大統領を目指す中道左派の社会党のロワイヤル氏による決選投票となり、前回の選挙で躍進した国民戦線のジャンマリー・ルペン党首は4位にとどまりました。

サルコジ氏は内相時代に犯罪を減らした実績を強調し、当時、国民の間で懸念が広がっていた移民の受け入れについても規制の強化を打ち出すなど、強い指導者像を印象づけました。一方で、ロワイヤル氏は分裂した左派を統合し、初の女性大統領の誕生の期待を集めましたが、経験や指導力の不足が露呈し、サルコジ氏との差を縮められないまま、決選投票で敗退しました。

そして、前回2012年は、ヨーロッパの信用不安の影響で、イタリアやスペインなど各国の政権が退陣に追い込まれる中での選挙戦となりました。1回目の投票の結果、野党、社会党のオランド氏が1位となり、再選を目指すサルコジ氏が2位につけ、父親から国民線線の党首を引き継いだマリーヌ・ルペン氏が3位となりました。

サルコジ氏は強烈な個性と指導力で存在感を示したものの、経済を活性化することができず、社会の格差が広がったことや、派手な私生活も反発を招き、支持が落ち込みました。対するオランド氏は、社会的な公正や経済成長を重視する姿勢が有権者の支持を集め、サルコジ氏を破って、17年ぶりに左派の大統領が誕生します。

しかし、その後の5年間でも景気は回復せず、また、大規模なテロ事件も相次ぎ、国民の間で経済や治安対策への不満が高まります。オランド大統領は、支持率が10%台とかつてない低い水準にとどまる中、去年12月には今回の大統領選挙には立候補せず、2期目は目指さない考えをはやばやと表明していました。

4候補が混戦 異例の選挙戦に

今回のフランス大統領選挙は、多くの点で異例の選挙戦になっています。現職のオランド大統領は、支持率が過去最低レベルに落ち込む中で去年12月に立候補を断念しましたが、現職の大統領が2期目の立候補を断念するのは現在の政治体制になって初めてです。

さらに、主流派である社会党と共和党以外の候補者がトップを争っているのも異例のことです。このうちオランド大統領の与党・中道左派の社会党は、今回の選挙ではアモン前教育相を候補者に選出したものの、オランド政権の不人気を引きずる形で支持率の低迷が続いています。

これに対し、過去の大統領選挙で社会党と争ってきた中道右派の政党である共和党は、今回、フィヨン元首相を候補者として選びましたが、家族の公金横領のスキャンダルによって支持率が低迷しました。

主流派の2つの政党の候補者が低迷する一方で、極右政党・国民戦線のルペン党首が支持を伸ばしたほか、無所属の立場でマクロン前経済相が支持率トップを争う状況が続いてきました。この結果、この2つの政党の候補者がいずれも決選投票に進めない可能性も出るという異例の展開となっているのです。

加えて急進左派の左派党のメランション元共同党首が最終盤になって急速に支持を伸ばしたことで、最新の世論調査の支持率でも、上位4人が6ポイント以内でせめぎ合う混戦となっています。