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【言わねばならないこと】(90)表現の萎縮が怖い「共謀罪」 漫画家・ちばてつやさん政府は「共謀罪」を「テロ等準備罪」と言い換えて本質を隠しながら、大きく法律の網を掛けようとしているのではないか。不気味な感じがする。共謀罪は内心の自由に踏み込むので、表現の萎縮が一番怖い。 以前、東京都が漫画の性描写を条例で規制した時、大学生から「こんなの描いてますが、大丈夫でしょうか」と聞かれた。もし共謀罪ができると、自由にものを書いたり、言ったりできなくなるのではないか。 子どもの頃、旧満州(中国東北部)で育った。ある時、家族で列車に乗っていると、憲兵さんが革靴とサーベルのガチャガチャした音をさせて乗り込んできた。私が目で追うと、母親が小声で「見るんじゃない」と、私の顔を窓の方に向けさせた。周りの人たちも本をパタッと閉じたり、おしゃべりをやめたり。大人たちが何かにおびえながら生きているなあと感じた。 日本には昔から鳥獣戯画、錦絵、枕絵などがあり、葛飾北斎も春画を描いたりする、おおらかで素晴らしい文化がある。のびのびとした表現の自由があったから、漫画やアニメ、ゲームが出てきて、今では世界中の子どもが楽しんでいる。 あしたのジョーでは、血しぶきや歯が飛ぶ場面も描いた。人間のドラマには、残酷な、目を背けたくなるシーンも必要な時がある。表現は自由であってほしい。権力者にもおかしいものはおかしいと、きちんと意見を言えるような、ゆとりのある国であってほしい。 「共謀罪ができても、そんなものは取り締まらないよ」と言うかもしれない。でも、みんなが萎縮していくことで、日本の国だからこそ育ってきた貴重な文化が壊れてしまうんじゃないかなあと心配している。 <ちば・てつや> 1939年、東京生まれ。代表作は「あしたのジョー」「おれは鉄兵」「あした天気になあれ」「のたり松太郎」など。日本漫画家協会理事長。文星芸術大(宇都宮市)マンガ専攻教授。 PR情報
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