神道や、皇室に興味がある方に是非読んでいただきたい本があります。
今回ご紹介する本は、高谷朝子著『皇室の祭祀と生きて 内掌典57年の日々』です。
【目次】
皇居内には、賢所・皇霊殿・神殿の宮中三殿があります。
賢所は、皇祖天照大御神がまつられています。皇霊殿には、歴代天皇・皇族の御霊が祀られており、崩御・薨去の一年後に合祀されます。神殿は、国中の神々が祀られています。
こうした内廷において、皇室の祭祀をつかさどっている人々がいます。その方達を、掌典職といい、掌典長の統括の下に、掌典次長・掌典・内掌典などが置かれています。
この本の著者である高谷朝子(1924生)さんは、 1943年に内掌典を拝命、以後半世紀以上にわたり宮中祭祀に奉仕されてきた方です。
内掌典とは、宮中祭祀をおこなう未婚の女性で、彼女たちは皇居内の候所に住み込み、伝統に則り祈りと潔斎の日々を送ってらっしゃいます。
今回は、わたしが感じたこの本のおすすめポイントをご紹介したします。
穢れと禁忌の世界
皇祖天照大御神をまつっている賢所で奉仕する彼女たちには、清浄であることが求められます。彼女たちの生活や祭祀は、穢れと禁忌への細心の注意のもと、行われることになります。
清らかなことを「清(きよ)」、清浄でないことを「次(つぎ)」とよび、賢所での生活においてもっとも重要で基本的なことだそうです。
肉類の調理は、「御火が穢れる」と考えられ、肉のエキスが入っているものも使うことができないのです。これは、素盞嗚尊が生き馬の皮を剥いで投じ、天照大御神を困らせ、天の岩戸にかくれたことからきているそうです。
そして、何よりも「死」の穢れについても記述されています。たとえば、親の死を電話で知った場合、その時点で穢れていると考えられ、移動は新聞紙の上を歩くことになるなど、その徹底ぶりには驚きます。
また、女性の生理を「まけ」とよび、まけの一週間は、着物も化粧品もお箸も、まけ専用のものを使うのだそうです。
日本における穢れ、禁忌に興味がある方は、読まなければならないような興味深い信仰の世界が、描かれています。
伝統と近代化の間で
この本の著者、高谷朝子さんは、第二次世界大戦中に宮中に入り、戦後50年以上にわたって宮中に仕えました。彼女の目から映る日本の変化、そして宮中の変化についての記述は、現在の日本を生きるわたし達に新鮮な印象を、そして近代化によって如何に生活が変容したのかを教えてくれるのです。
薪や炭を使ってお風呂を沸かしていたのが、ガス給湯に変わったこと、樽で買い取っていたお酒も、いつしか瓶詰めに変わっていく、など、生活に関わる細やかな記述が、わたし達に宮中の生活への想像を豊かなものにしてくれます。
わたしが個人的に興味深かったのは、内掌典の仕事は、神様に仕えているということから、休日もなく働いていたのですが、戦後になり、労働基準法によって、変化したということでした。興味深いですね。
また、戦中、終戦直後の祭祀については、胸を締め付けられるような記述もあり、彼女の生きた時代の、苦難を考えさせられるのです。
一人の女性の物語として
こうした宮中に仕えている女性は、すでに神聖で、近寄りがたい雰囲気をもっていると思ってしまいますし、わたし達の俗人とは、まったく違うのではないかと、勘ぐってしまうのですが、この本では、内掌典の方々の生活が、生き生きと描かれており、とても親近感が湧くような内容になっています。
旅行中のカラオケ大会、12月24日にはクリスマスではないですがケーキがでたり、疲れたら火鉢を抱いて寝てしまったりと、宮中で働く人々の生活が、とても身近に感じられるのです。
そして、彼女達のような人々、とても人間らしい人々が、宮中に仕えているのだという、大きな安心感を得ることができるのです。
とくに、わたしが好きな記述は、以下の文です。
「叩き潰すこともできませず、蚊は世の中で一番憎いものでございます(168頁)。」
この他にも、蚊への憎しみについての記述は散見されるので、余程、宮中の生活の大敵なのだなと思いました。
みなさんも、是非、この本を一読いただきたいです。
【おすすめ本】
穢れについては、
- 作者: メアリダグラス,Mary Douglas,塚本利明
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/03/10
- メディア: 文庫
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