やすらぎの郷 #15 2017.04.21

南スーダンもこの間行ってきましたけどねちょっとの間にね…。
またそれじゃ日曜日頑張ってください。
はい。
ありがとうございます。
(拍手)
(菊村栄)おやじって誰です?
(名倉修平)私にとっては義理の父親。
すなわち加納英吉です。
ちょっと待ってください!
加納英吉がまだ生きていた
この郷を作ってそのまま消えた加納英吉がまだ生きていた!

(名倉)そのゲラを読んでおやじが私に読んでみろってメールですぐに送ってきたんです。
おやじはかなり感情を高ぶらせてました。
私も家内もひと晩で読みました。
読んでいささか呆然としました。
おやじの過去まで書かれていたんです。
先生には隠しても始まらないからむしろ正直に知って頂いて諸々相談にのって頂こうってこいつとゆうべ話し合ったんです。
(名倉)長くなりますが聞いてください。
わかりました。
実は戦時中の話です。
あの戦争の末期の話になりますがおやじ…加納英吉は海軍軍令部にいました。
最も若手の参謀の一人でした。
(名倉)おやじが担当した仕事の1つに前線慰問隊というものがありまして役者やら歌手やら浪曲師やらを前線の慰問に送り込んでたんです。
その頃おやじは満州に派遣されていて当時売り出しの映画俳優なんかを満州に慰問に呼んだみたいです。
その中の1人にデビューしたての九条摂子さんがいたんです。
(名倉)おやじは多分まだ23〜24だったと思います。
九条さんを見てどうもひと目で心を奪われてしまったようです。
しかしもちろん口には出せず完全に心にしまい込んでいました。
一方九条さんにはその頃自分を映画界で光らせてくれた千坂浩二という恋人がいたらしいんです。
恋人と言っても当時の事ですから本当に純粋なプラトニックな関係だったんでしょう。
しかも彼には妻子がいましたから今でいう不倫の関係だったわけでいわゆるその時分の忍ぶ恋というか内に秘めたなんとも歯がゆい関係です。
しかしその千坂さんが戦争にとられそれもあってか九条さんは積極的に慰問隊に参加するようになったそうです。
おやじももちろんその事は知っていたらしいです。
知っていたから彼女のそのひたむきさが若いおやじにかえって響いたんでしょう。
(名倉)戦局がだんだん怪しくなって海軍がいわゆる神風特攻隊を出撃させたのは昭和19年の秋でした。
その頃おやじは日本に帰還して特攻作戦にも加わっていました。
しかしおやじはその頃から極めて涙もろい人間だった。
まだ少年のような特攻隊員の出撃を送りながらボロボロ涙を流したそうです。
(名倉)そこでおやじの思いついた事があってそれは今でいうサプライズというか明日出撃する隊員たちに思いもしない雲の上のスターと飯を一緒に食わせる事でした。
(名倉)高峰治子茨木光子木暮スミコなど何人かの超のつく有名女優たちがその企てに応じたと言います。
いや女優たちもその日のその時までどういう慰問か知らなかったみたいです。
その一番手に九条さんがいました。
もしかしたらおやじはまた九条さんと会いたいがためにそんな計画を立てたのかもしれません。
何しろ当時軍の命令は何にも増して絶対でしたから。
実はその前の年アッツ島の全滅で千坂浩二監督は玉砕していたんです。
(名倉)九条さんがその事をいつ知ったかは知りませんが恐らくその時はもう知っていたでしょう。
傷心のどん底に彼女はいたはずです。
(名倉)そんな彼女が突然おやじに呼び出され軍のトラックに乗せられて香取の基地へ連れて行かれました。
連れて行かれた部屋の中に細長い食卓がしつらえてあって12名ほどの少年のような特攻隊員が直立不動で目を丸くして九条さんの顔を見て敬礼しました。
(名倉)隊長が九条さんにこう言ったそうです。
「こいつらは明朝本土から初の神風特攻隊として硫黄島に向かって出撃します」。
「最後の晩餐を一緒にとってこいつらの思い出にしてやってください」。
(名倉)九条さんはあまりの突然の事におやじの顔を思わず見たそうです。
おやじはうつむいたと言っていました。
少し暗くなったな。
ランプをつけないか?はい。
カサブランカからビールでもとりましょうか?いや話を全部済ませてからにしよう。
(名倉)あとは君から話してくれないか?君のほうが直接詳しく聞いてる。
九条さんにとってその日の事は忘れられないショックだったみたいです。
でも出撃した特攻隊員にとってはそれ以上の感激があったみたいで…。
その晩九条さんが一緒に食事をして声までかけてくれた事を国に手紙で書き送ったそうなんです。
(みどり)その全員が翌日玉砕して死にました。
すごい話ですね…。
まだその先があるんです。
父は終戦でパージになりなぜか九条さんの運転手になります。
ちょうどその頃九条さんは一通の手紙を受け取るんです。
(女性の声)「息子は最後の晩あなたと会食をし話まで出来たと狂喜してました」「そうして翌日花と散りました」「でもまだあなたはお元気ですね」「お元気でお美しく明るく生きておいでですね」「息子と食べたお食事の味をあなたはまだ覚えておいでですか?」「おいしかったですか?」「おなかがくちましたか?」
(みどり)見ていられないぐらい九条さん動揺して父とも口を利かなくなったそうです。
九条さん自分の事をそういう場に連れて行った父の事を恨んだんだと思います。
九条さんの元を父は去ったそうです。
九条さんから父に突然助けてほしいと電話があったのは戦後20年経った昭和40年前後です。
(みどり)いろいろあったあとテレビ局の開局に関係しその後芸能人のマネジメントに手を染め加納プロを初めて立ち上げた頃彼女はすがってみえたそうです。
ちょうど彼女が結婚してすぐにご主人を亡くされて落ち込んでいらした時で父は喜んで引き受けました。
(みどり)父は一度も正式な結婚をせず一生彼女を思ってましたから。
(みどり)実は私も本当は正式な娘ではなく母は最後まで2号さんでしたわ。
(みどり)父は猛然とテレビ局に売り込み一時全く忘れられていた彼女をあっという間にお茶の間でブレークさせます。
ある雑誌の記者が彼女のところに来て例の特攻隊の話を持ち出し母親からのメッセージまでとってきてしつこく追いかけ回した事があったそうなんです。
九条さん必死に逃げ回りましたが父はその時は激怒して出版社の社長室に電話をかけて怒鳴ったそうです。
(みどり)3日ほどしてその記者の人が交通事故で急死したんですがほとんどの新聞が小さくしか記事で扱いませんでした。
(みどり)父はとにかく九条さんが傷つくのを何よりも許せなかったんだと思います。
(名倉)肝心の話はここからなんです。
濃野佐志美が今度の新作に今お話しした全ての話をおやじの事も含めて…。
もちろん実名は出していませんが全部書いてしまいました。
(名倉)もちろん話はフィクションとして全てわからんように書かれています。
別に九条さんを悪く書いてるわけじゃなくむしろ同情して書いてますから主人公の心情に同情が集まるでしょう。
おやじも決して悪い人として書かれてるわけじゃない。
むしろ戦時中の若い参謀の愛国心は人を揺さぶります。
でも父は…それから九条さんも。
この本が出たら傷つくでしょう。
2人ともこの話は消したい過去の中の出来事なんですから。
加納さんはなんとおっしゃってるんですか?
(みどり)ひと昔前なら激怒して出版を潰すかその作家をここから追放するかそういう過激な手段に出たでしょう。
でも今もう父には力がなくて往年のそんな迫力も持てないです。
だからただ弱々しくどうしたらいいんだって…。
濃野佐志美って本当に誰なんです?僕の知ってる人ですか?ええ。
208号の井深凉子さんです。
(井深凉子の声)ご無沙汰!
(名倉)先生は井深さんと家族ぐるみの付き合いだったようだ。
なんとか先生から説得してこの小説の発表を断念するよう頼んでみては頂けないでしょうか。

聖女のような九条摂子さんが突然…
(姫)儀式なの。
呪いの儀式。
まむしドリンク!
(菊村律子)ミャーオ!うわーっ!どっか人目のないところで…。
じゃあ久しぶりに戦斗服着てくか!
(凉子)ここの名物鯉の刺し身。
もの書きにはもの書きとして守らなければいけない鉄則ってものがあるんだ。
(お嬢)あたしもうお金ないもん。
(マロ)哀れだなスターの終末って…。
この話続きを来週に送ろう
2017/04/21(金) 12:30〜12:50
ABCテレビ1
やすらぎの郷 #15[解][字]

倉本聰が同世代の大人たちに贈る、全く新しい帯ドラマ。物語の舞台は、かつてテレビ界に功績のあった者だけが入れる老人ホーム。名優がスターを演じる虚実入り混じった物語

詳細情報
◇番組内容
名倉修平(名高達男)と名倉みどり(草刈民代)は、“濃野佐志美”の最新作の本について菊村栄(石坂浩二)に相談することを決め、詳しい内容を話し始める。それは、みどりの父で『やすらぎの郷』の創始者でもある加納英吉と、九条摂子(姫/八千草薫)の過去にまつわる実話をフィクションとして仕立てたものだった。修平とみどりは、栄に出版を断念するよう説得して欲しいと頼み、濃野佐志美の正体を告げることに!!
◇出演者
石坂浩二
草刈民代、名高達男(※五十音順)
◇作
倉本聰
◇音楽
島健
◇演出
阿部雄一
◇主題歌
中島みゆき『慕情』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
◇スタッフ
【チーフプロデューサー】五十嵐文郎(テレビ朝日)
【プロデューサー】中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、河角直樹(国際放映)
◇おしらせ
☆番組HP
 http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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