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株式会社ラブグラフを退職しました

4月21日を以て株式会社ラブグラフを退職した.最後のわがままで,今まで使ったことのない有給休暇を消化させてもらえることになったので,5月半ばまでは在籍することになっているが,ともかく今日が最終出社日だった.2015年3月頃から手伝っていたので,およそ2年に渡って関わり続けてきたことになる.長い間,様々な人たちから「やめろやめろ」と言われていながら,ようやく退職を決意することにしたわけであるが,以下に主たる理由を3つ挙げる.

第一に,今の組織に留まり続けても,今後自分にとって成長がないだろうと感じた.

初めの頃は,メンバーもごく少なかったこともあり,自分でサービスを作っているという実感があったが,ビジネスサイドの人間が増え,力を持つようになると,単に彼らの注文をこなすだけの作業が格段に増えた.「社内外注」とは言い得て妙なり,他人にやらされている感を強く感じるようになった上,仕事として求められることとしても,簡単なサービスを開発・運用できさえすればいいので,何の能力も要さず,技術的な挑戦などもあまりなく,業務の内容に面白さを見出せなくなってしまった.

関わっていた2年間を振り返って,今の会社にいたからこそ学べたことがほとんど挙げられないというのはさすがに不味い.もちろん,スキルが伸びていないわけではなくて,むしろ自分の中では2年前と比較すると格段に実力が付いたと思っているが,そのほとんどは他の会社で業務を遂行する中でも得られたであろうものか,あるいは社外で自力で獲得してきたものに過ぎない.強いて挙げるとすれば,長きに渡ってエンジニアが一人しかいなかったこともあり,インフラからフロントエンドまで手を動かしつつ広く触れたことと,周りに頼れる人がいないので,自力で問題解決をする能力が高まったということはあるかもしれない.

しかしながら,こうした状況下に留まる中で,優秀な人物に囲まれた環境で仕事をしたいと次第に強く思うようになった.また,「初期の小さなチームが,スピード感を持って成長し,様々な環境が高速に変化する中で,何か得られるものがあれば」という理由でジョインしたつもりであったが,最近ではサービス・組織ともに随所に伸び悩みを感じることが多く,やはりこの観点でも面白さを欠いていた.

第二に,組織のカルチャーにフィットしなかった.

似たような属性の人々が集まる場所に,異なるタイプの人間がいると,概して「ここは自分の居場所ではない」と思ってしまう.組織が大きくなるにつれ,掲げるビジョンに共感してメンバーとなる人間が増えていったが,ごく初期に間に合わせの労働力として関わり始めた立場の人間としては,人が増えれば増えるほど,より大きな違和感と同調圧力を感じるようになっていった.早い段階から加入したいうこともあり,自己本位に文化を形成することも可能だったかもしれないが,組織にとっていい影響を及ぼさないだろうと考えた上,本来的に自己主張があまり強くないこともあり,努めてマウントをとるようなことはしてこなかった.

とはいえ,若いスタートアップにとって,組織文化に馴染まない人間が弾き出されていくのは健全な成長過程だと思っているし,この部分に関しては,人によって合う・合わないが大きく異なる部分だと思うので,人によってはポジティヴに作用しうるポイントでもあるだろう.社内ではカメラマンがよく盛り上がっているので,写真やカメラが好きな人には向いているかもしれない.

第三に,これが一番大きな理由だが,待遇があまりによくなかった.

創業1ヶ月後くらいから関わり続けているし,フルタイムワーカーとしては3人目*1としてジョインしている.もちろん資金調達以前から居た身ではあったが,生株は一切持っていなかったし,1年半ほど経ってようやく付与されたストック・オプションは1%に満たず,期待していたよりも遥かに微々たる量だった.大学を休学し,大学院進学や新卒採用という安全なキャリアパスを捨て,東京への引っ越しの初期費用ももちろん自費で負担し,何の保険もない非正規雇用で,下手すれば道玄坂で野垂れ死にしかねないリスクを背負ってジョインしたにもかかわらず,それに見合うだけのプレミアムをほとんど得られなかったので,こんな lottery は買ってはいけなかったということだろう.

最初期の頃,働き始める前に提示されたよりもかなり少ない給料しか貰えなかったり*2,前述のストック・オプションの件もあったり,エクイティによる補償が極めて少ない(と自分では思っていた)にもかかわらず,サラリーは全然上がらなかったり,などなど,不信感を抱く材料だけは多分にあった.こんな調子で,プリンシパル=エージェント問題をうまく解決できず,モチベーションがほとんどないまま長い間働いていたが,やはり自分の労働力を安く買い叩かれすぎていると思ったし,下手に昇給が停滞してしまうと,今後のキャリアにも悪影響を及ぼしてしまうという懸念もあった.

聞くところによると,(コーポレート)ファイナンスとは意外となんとかなるものらしいので,exit 直前に色々と融通してもらうことに望みをかけるという選択肢もあったかもしれない.しかしながら,これまで関わってきた中で,あまり報われてこなかったというある種の自負があったし,そもそもそんな可能性にすがろうと思えるような会社側への信頼は,もうとっくに残っていなかった.あるいは,最初から信頼形成に失敗していたのかもしれない*3

特に転職活動などをしているわけではなかったが,なぜこのタイミングに辞めることにしたかというと,以前から色々とお世話になっている人に,共同創業の話を持ちかけられたからだ.予てから一緒に働きたいと思っていた人物から「一緒に働きたい」と言ってもらえることは幸せだと思うし,自分から見て「頭がいい」と思える人たちと一緒に居られることは,自分にとっては大いに価値のあることのように思う.

退職に際しては,特に引き止められもせず,「(逆の立場に立って考えてみれば)そうだろうな」という趣旨のことを言われた.事前的にも事後的にも,特に対策は打たれなかったようなので,何かしらの手段で退職を阻止するにも満たない人物だったらしい.自分ではある程度の価値を継続的に発揮していたつもりになって慢心していたが,口頭での評価とは異なり内実が伴っていなかったところを顧みると,やはりどうも一方的な勘違いだったようなので,これに関してはもっと早期に察するべきだったと反省している.

社内のエンジニアは2人しかいなかったので,単純計算で社内のエンジニアリソースの半分が失われることになるし,残りの仕事すべてを同僚に任せることになるのは,さすがに心苦しく後ろめたくもある.とはいえエンジニアが足りないのはマネジメントの範疇なので如何ともし難いし,改めて採用を頑張ってもらうしかない.ただ,自分よりも優秀な同世代のエンジニアなんて掃いて捨てるほどいるだろうし,きちんと探せばちゃんとビジョンに共感し,それをモチベーションに開発してくれる人材もいるだろう.もしかすると,ビジョナリーな人材の方が安く雇うことができ,かつ会社により大きく貢献してくれるかもしれない.

かくして20代前半の貴重な2年間を棒に振ってしまう形になったわけではあるが,何もすべてが最悪だったというわけではない.一定の収入が得られるようになったことで,京都で貧乏学生をやっていた頃と比べれば,明らかに健康状態が改善したし*4,大学の先輩方を中心とした温かいご近所コミュニティにも支えられている.わざわざ大学を休学し,東京に来てまで会いたかった人がいたのもまた事実である.というわけで,今後もしばらくは東京に居続ける積もりをしているので,もし近郊に住んでいて気にかけてくれる方がいらっしゃれば,欺瞞に浸って疲れた人間を元気付けてもらえるととても嬉しい.以下のリンクから @ryota-ka と飲みに行ける.

@ryota-ka と飲みに行く *5

よく聞かれるのでこの場で答えておくと,具体的な時期は決めていないが,大学はそのうち卒業するつもりでいる.というのも.卒業までには半期で6単位を残すのみであり,所属している学部は卒業論文を提出する必要もない*6.そもそも大学くらいは出ておかないと,わざわざ授業料を出してくれた両親にも顔向けできない.講義の成績評価については,良くも悪くも実力主義*7な講師が多いので,適当に履修登録をして試験さえ京都に受けに帰ってうまくやれば,案外簡単に卒業要件を満たせるのではないかと考えている.実績値として,半期のうち1回の講義への出席で10単位を獲得した経験もあるし,きっと何とかなるだろうという甘い見通しを立てているというところが実際である.

最後に,お約束なので Amazonウィッシュリストを貼っておく.

https://www.amazon.co.jp/registry/wishlist/NCRDLUWP5AR5www.amazon.co.jp

4月29日から5月5日にかけては国外逃亡を企てている*8ので,もし何か送ってくれる心優しい人がいれば,その期間は避けていただけるとありがたい.

*1:正社員としては4人目

*2:当時は貧乏学生で,生活に困窮していたので,これはなかなか堪えた.

*3:そもそも何のビジネススキルも有さない学生が立ち上げたばかりのスタートアップを信用しろと言う方が無茶な話である.

*4:あの頃は慢性的に体調が悪く,入眠障害や,軽いパニック障害のような症状にも悩まされていた.

*5:親愛なる id:uiureo へのオマージュ

*6:そもそも休学中にゼミの先生が定年で退官になってしまい,現在はどのゼミにも所属していないので,卒論が書けない.

*7:裏を返せばあまり出席点などの情けをかけないとも言える.

*8:プラハとウィーンに行く予定を立てている.