テストレポート
VR対応のバックパックPCは普段使いできるのか? ZOTACの「VR GO」を背負って生活してみた
しかし世の中には,「iMac」のような液晶ディスプレイ一体型デスクトップPCを持ち運んでポータブルPCとして利用しているユーザーもいる。「iMac Starbucks」で検索エンジンから画像検索をかければ,スターバックスにiMacを持ち込んで使用している“意識の高い”人々の写真をたくさん見つけることができるはずだ。
国内でも,ハッカソンやゲームジャムといった,プログラムを短時間で作るイベントの会場で,デスクトップPCを持ち込む出場者を見かけることは珍しくない。
筆者はゲーム業界で働くプログラマーなのだが,仕事柄,GPUパワーが必要な勉強会やイベントに参加することが多いこともあって,コストパフォーマンスの高いデスクトップPCを購入しては,それを持ち込んで使うということを長く続けてきた。それこそ週1回の社内勉強会のためにiMacを持ち運び続けたことがあり,また,小型のデスクトップPC「ALIENWARE X51」をディスプレイと一緒に担いでいたこともある。
ちなみに,iMacくらいになると,サードパーティから専用のキャリーバックが販売されていたりして,満員電車さえ避けることができれば,持ち運びにはさほど苦労しない。見かけほど重量もなく,おそらく子育て中のお父さんお母さんのほうが,体力的にはよほど大変な思いをしているはずだ。
会社ではなく個人枠での登壇なので,自宅でプログラムを書いてデモを披露する腹づもりだったが,日程的にプログラムを書くので手一杯で,手持ちの(単体GPUも持たない)ノートPCで動作するよう高速化をかける余裕がない。すでにALIENWARE X51は引退しており,自宅の大型タワーデスクトップPCを持ち込むにしても会場までどうやって運べばよいものか。途方にくれていたときに,突然,4Gamer編集部よりZOTAC International製のバックパック型PC「VR GO」(型番:ZBOX-VR7N70)評価の話が舞い込んできたのである。
VR GOは,現行世代のVR(Virtual Reality,仮想現実)対応ヘッドマウントディスプレイで,ケーブルを気にせずにVRゲームを楽しめるよう,デスクトップPC向け4コア8スレッド対応CPU「Core i7-6700T」と,ノートPC向けGPU「GeForce GTX 1070」搭載のPCにショルダーストラップを搭載し,背負えるようになっている特殊設計のマシンだ。見方を変えれば,背負ってそのまま外へ出かけることができる,アウトドア型のPCとも言える。
渡りに船とはこのことだ。これがあれば,外出先でデモの準備を進め,カンファレンス当日はそのままマシンを背負って会場の大阪国際会議場まで運ぶことができる……!
驚きの軽さと性能
届いたVR GOを製品ボックスから取り出した筆者はまず,あまりの軽さに驚いてしまった。一瞬,本体の中身がカラなのではないかと疑ってしまったほどだ。
個人的には,「性能のあるPCを持ち歩く」という行為には,ある程度の「ガッツリ感」(=重量感)が欲しいところなのだが,VR GOにはそれがまったくない。空っぽのプラスチックの箱を持ち上げているかのような感覚なのである。
もちろんこの軽さにはカラクリがあり,VR GOはこの本体に,標準で付属するバッテリーパック2個を取り付けて利用する仕様で,実際,装着するとほどよいガッツリ感になる。ただ,それでも一般的なデスクトップPCとは比較にならないほど軽い。
バッテリーパックは1基装着しただけの状態でも運用でき,付属のACアダプターから本体へ直接給電しているときは,バッテリーパックを装着していない状態でも機能する。
今の日本に停電などはほとんどないが,PCが集結するハッカソンやゲームジャムなどのイベントでは会場のブレーカーが飛ぶことがたまにある。そういう,万が一のときに,バッテリーパックを装着しておけば,UPS(Uninterruptible Power Systems,無停電電源装置)としても機能してくれるだろう。
VR GOにバッテリースロットが2つあり,いずれのスロットでもバッテリーパックを任意のタイミングで着脱できるようになっているのは,バッテリーのホットスワップ(hot swapping,稼働中の交換)を可能にするためだ。バッテリーパックを1個装着した状態でVRゲームで遊んでいて,バッテリーが切れかかったとしても,充電済みのバッテリーパックを空きスロットに入れて,消耗したバッテリーのほうは抜き取って充電台に回せば,システムを終了させることなく稼働時間を延ばすことができる。
ちなみにバッテリーパックの充電にかかる時間は1個あたり約1.5時間だ。
ちなみに,バッテリーパック側にはLEDが付いており,VR GOにはめ込んだり,チャージ台に置いたりしなくとも,ボタンを押せばざっくりとしたバッテリー残量をいつでも把握できる。これは,バッテリーパックを買い足していって,待機中のバッテリーパックが増えていったときに大変役に立つと思う。
持ち出さないときはショルダーストラップを取り外せるので,机上に置いたときはかなり純粋なデスクトップPCとして利用でき,持ち出すときだけバックパック化できるのはスマートだ。
背負ったときの上面(左)と底面(右)。上面側にはインタフェースがあるのだが,ここには標準だとカバーがかかっている。底面側は滑り止めゴム付きだった | |
背負ったときの左側面(左)と右側面(右)。左にあるのは電源ボタンと排気孔のみで,デスクトップPCらしいインタフェースは右側にまとまっている。 |
カフェや出張先でも大活躍
蓋を開ければ使えるノートPCと異なり,ディスプレイやキーボード,マウスをVR GOと接続するところでデスクトップPC特有の手間はどうしてもかかる。だが,カフェとの相性はiMac以上だ。なにしろデスクトップPCの運用には絶対に必要なコンセントが不要なのである。
もちろん,カフェだけではなく,出張などの宿泊先でも手軽にデスクトップPCのパワーが持つ恩恵にあずかることができる。というより,出張にぜひ持って行きたいマシンだ。筆者はデスクトップPCをホテルへ持ち込んだことが何度もあるが,物理的な意味でも,また精神的な意味でも,VR GOほどスマートでスムーズなチェックイン経験はなかった。下の写真を見てもらえば分かるように,外見上は小型のバックパックを背負っている旅行者そのものであり,背中にPCを背負っている人間にはとても見えない。
これまでのポータブルデスクトップ機と異なり,海外出張も難なくこなせるだろう。テロ対策もあって機内持ち込み荷物の基準が変わるというニュースを耳にしたが,VR GOなら何の心配もいらない。リチウムイオン充電池を内蔵するバッテリーパックの容量は6600mAh 95Whと,航空機のバッテリー持ち込み制限もクリアしているため,本体からバッテリーを取り外して,バッテリーを機内へ持ち込んだうえで,本体をチェックイン荷物に入れてしまえばいい。
ちなみに,得てしてホテルでは机がガラスだったり,ツルツルの厚手のシートが貼られていて,マウスによってはセンサーがうまく機能しなかったりすることがあるのだが,付属のカバーをマウスパッド代わりにすることで,問題なくマウスを使うことができた。もしここまで計算して設計しているのだとすれば素晴らしい。
プレゼンテーションをこなし,二次会でプログラムを披露。懇親会における話題性も
そうこうしているうちに,GCC17の本番を迎えた。当日の3:00まで試行錯誤しながら書いていたプログラムは,最適化のために組み直す時間などもなく,案の定マシンパワーにかまけたものに仕上がったが,心配はいらない。目の前で動作しているVR GOを背負い,このマシンパワーごと会場へ向かえば良いだけだ。
思えば高性能機で講演をこなしたい,という個人的な我が儘のために,ZOTACにはずいぶんと無理を聞いてもらった。なので,絶対に失敗は許されない。「背負ってるものが違う」とはこのことだ。物理的な意味でも。
ところで,VR GOに限らず,デスクトップPCを持ち込んで講演をするときは,「会場の演台を動かせるか」が大きなポイントになる。通常,演台というものは聴講者のほうへ向いているものだが,ディスプレイを持たないデスクトップPCで講演を行う場合では,聴講者と一緒にスクリーンを見ながら操作を進める必要があるためだ。
この点さえクリアできれば,デスクトップPCならノートPCをプロジェクタと接続したときに起こりがちな「プライマリディスプレイとセカンダリディスプレイの設定問題」でやきもきする必要がないので,気が楽である。さらに,バッテリーを搭載しているVR GOであれば電源ケーブルの接続も不要。今回の会場では会場に用意されていたHDMIケーブルが長く,接続も簡単だった。今回はその機会がなかったものの,HDMIケーブルの範囲内で動き回れるため,スピーチがうまい人なら歩き回ってプレゼンをすることもできるだろう。
これまで何度かカンファレンスで講演をしたことはあるが,自分があまりよい講演を提供できないこともあり,休み時間に「さっきの講演とっても良かったです」と話しかけられることは恥ずかしながら極めてまれだった。しかし今回は「今日講演された方ですよね? それが背負えるPCなんですね」という具合で,(PCについて)話しかけてもらえることが何度もあったのだ。
また,かつてiMacを担いで講演やその後の懇親会に参加したときは,周りの参加者が若干引き気味だったのを肌で感じていたが,バックパックPCは話題性抜群で,VR GOは引く手あまただった。
せっかくなので,声をかけてくる人に実際に背負ってもらったりしたのだが,多くの人が「すごく軽い」「ぜんぜん担げる」と驚いていた。男性だけでなく,女性も軽々と背負っていたほどである。
持ち運びの工夫
それにしてもVR GOは軽かった。iMacをポータブルで使っていた頃は,iMac専用キャリーバックに入れて,肩掛けにして運んでいたのだが,重心はずっと下にあり,重さも片肩のみにかかっており,体をねじ曲げながら運んでいた。見た目ほど重くはなかったものの,上り坂ではそれなりにつらかったと記憶している。
というより,重要なのはPCが薄いとか軽いとかではなく,身体と圧着するようにできるかどうかだと感じた。VR GOには,ウェストベルトをはじめとする前留めベルトが2つあり,ベルトを留めてしっかり締めることで,ずっと楽に背負えるのだ。体感的に1kgくらい軽くなり,背中も張らなくなる。おそらく同じ重量のノートPCをリュックに入れて背負ったほうがずっと重く感じるだろう。
どちらも何度か試してみたが,前に掛けたほうがうまく重心が取れ,電車などにも乗りこみやすかった。後ろにかけるのも本体保護の観点から悪くはないが,誰かに手伝ってもらわないと,そもそも背負うのがなかなか難しい。
デスクトップPCを担いで運ぶときに悩みの種となるのが満員電車だが,電車内で見かける荷物を確認しても,VR GOより大きな鞄を背負っている人はいくらでもいる。また,ショルダーストラップには手提げ部分もついているので,すし詰めになったときは手前に下げればよい。
ポータブルPCとしてのVR GOが抱える問題点
ここまでVR GOを手放しで褒めてきたが,テスト期間中に感じた問題点も3点挙げておきたい。
レインコートの内側に入れるとか,他にも方法があるかもしれないが,VR GO専用のレインカバーがあれば嬉しい。あるいは,アタッチメントの形状にあわせて穴が空いているビニール袋があればうまくカバーできるから,ひょっとすると自作できるかもしれない。
毎日VR GOより容積の大きいバックパックを背負って出かけていたのに,なぜここまでぶつけるのか自分でも不思議だったのだが,おそらく,布製のバックパックは,どこかにぶつかっても音がしなければ反発もしないので気づかなかったのだろう。VR GOの場合,プラスチックの塊を背負っているため,ぶつけるたびにゴツンと音がしてギョッとしてしまう。電車を降りようとしてゴツン。タクシーに乗ろうとしてゴツン。人に呼び止められて振り返るときにゴツン,という具合だ。
ずっと使っているとコツが掴めるようになってぶつけなくなるようになるものの,傷ものにしてしまうのではないかとヒヤヒヤした。解決策としては,VR GO専用クッションカバーを自作するか,自動車のドアモールのようなものをバンパー的に角に貼り付ける必要がありそうだ。
そしてもう一点,価格について触れなくてはいけない。ノートPCではなく,あえてデスクトップPCを所有し,それを持ち運ぶメリットはコストパフォーマンスにあるのだが,残念ながらVR GOの実勢価格は32万8000〜35万円程度(※2017年4月22日現在)と,ノートPC並みかそれ以上に値が張る。もちろん,VR GOはCPUやストレージの面である程度の拡張性があるので,そこはメリットなのだが,コストパフォーマンスに優れるとは決して言えない。
バックパックPCには,デスクトップPCを合理的に身体に装着するという,問答無用の迫力がある
冒頭でも触れたように,デスクトップPCの持ち運びにはこれまで様々な運用テクニックが求められてきた。しかしVR GOは,
- 専用設計のショルダーストラップ搭載
- 大容量バッテリー搭載
- 軽量な本体設計
で,従来のデスクトップ運搬の欠点をクリアし,運搬テクニックそのものをほぼ無用なものとしている。もしこの世に「ポータブルデスクトップマシン史」というものがあるのなら,「VR GO以前,以後」で語られることは間違いない,革命的なマシンと言える。
その意味で,同好の士には間違いなくお勧めできる。デスクトップ運搬の入門機としても最適だ。筆者の知人の中には,iMac を運ぶつもりで購入して,その重さに断念した人もいるのだが,VR GOを運べない人はいないだろう。
たとえVRゲームやVRコンテンツの開発から離れることがあったとしても,無駄な投資ではない。高性能機としてそのまま使い続けられるし,ポータブルPCとしてそのまま運び続ければいい。
VR GOは,「VRがなければ使い道のないVR専用マシン」などではまったくなく,「VRにも使える,バッテリー搭載の高性能デスクトップPC」と考えるのが正しいのではないか。これだけのスペックがあれば,長く相棒を務めてくれるのは間違いない。
石の上にも3年
冒頭で書いたように,筆者はiMacを毎週自宅から会社へせっせと運ぶところから,デスクトップのポータブル運用をスタートさせた。iMacのパワーが追いつかなくなると今度はALIENWARE X51を持ち運んだ。
酒を飲んだ日の帰りの坂道や,雨や雪の日など,その重さや持ち運びづらさに心が折れそうになったことは何度もあった。しかし,これが合理的なのだと自分に言い聞かせて,デスクトップPCを持ち運び続けた。こうして,勤め先や自分の交友範囲で「PCを担ぐ人」という定評が少しずつできあがっていったのだ。
それが狭い業界,人づてに伝わって,今回,最新バックパックPCのテストをできるようになり,無事講演もこなせたのだから,まったく世の中何が起こるか分からないものである。
何かを成し遂げるには,「辛抱強く続けること,諦めないこと」が何より大切だとよく言われる。しかし,まさか「PCを背負う」ことでさえ,報われる日が来ようとは……。
「継続は力なり」という言葉が深く心に刻み込まれた,貴重な体験となった。皆様も人生の中で「こんなことを続けていて,本当に意味があるのか」と迷うことがあったら,この記事のことを思い出していただきたい。石の上にも3年,PC担ぐも3年である。
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ZOTACのVR GO製品情報ページ
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