初めて推しと握手したときは女神はこの世に存在するのだと思った。
この世のなにもかもを信じられなくなった時に、アイドルを信じるのだと私は思う。
私は当時二十歳前後、アイドルの現場としては圧倒的男性率で有名な栄のAKBグループを推していた。
箱推し、とは言えど私は推し以外と握手する気はなかった。そのくらい推しとの接触に満足していた。
女の子のオタに対して、男性オタが仲良くなりたい、みたいな欲求を隠さず接触を図ることである。
圧倒的男性率の現場に二十歳前後の女性のオタ、しかも1人でふらふらとやってきて、私はあっという間に4〜5人のおじさんに囲まれた。
おじさん達は概ね良い人だった。
ドルオタで、それぞれ推しは違うけど、グループのこれから、とか推しの写真とか、今度の公演の話。
私はよく推しの写真をもらった。
30枚以上はあると思う。チケットを取ってくれるおじさん、写真をくれるおじさん、推しの生誕Tシャツがネットで売り切れた時ショップを見てきてくれるおじさん、いろいろいた。でも私には関係なかった。私は推しと一回か二回握手できたらそれで満足だったからだ。
私はアイドルの握手会に通う度に、とても不思議なことがあった。
男性率の高い現場、圧倒的なおじさん率、その中で身綺麗な人がどのくらいいるだろう。
私は、少なくともアイドルに不快な思いをさせたくないと思っていた。
清潔感はもとより、推しの生誕Tシャツ、もしくは推しのカラーのワンピースなどを着用。
普段はあまり得意でない化粧をして、髪を内巻きにしたりもした。たった5〜10秒の接触ではあるが、良い印象を残したいと言うよりも推しに不快な思いをさせたくなかった。こんな汚い女と握手をしなければならないような仕事だと思って欲しくなかった。
私は常々不思議なことがあった。
握手会の会場には、全くお金を持ってそうな人がいない。そもそも身奇麗にしようという概念すらないのか、ホームレスのような格好のおじさんばかりなのだ。若者になるとまだ若さでなんとかなっているものの、特に手入れなどをしていないことは一目見れば明白であった。
この人たちは、本当にお金さえ払えば推しと接触できると思っているのだろうか。
その特典に楽曲一枚分以上の価値があるから、何枚もCDを買う人が現れるのである。そうした販売方法を叩く人もいるけれど、何枚分ものお金を払うほどの価値がその場所にはある。
本当に毎日汚いおっさんばかり相手にしていて、良い気持ちがするだろうか。
推しの卒業を嘆くより、推しが卒業しない環境をオタ自身が意識していくべきだと思う。
まずは、好きな人と会う、その気持ちを忘れないで握手会へ向かってほしい。
好きな人に会う時に、本当にそんな小汚い格好をしているのなら仕方ないが。