雪村さんの「寒山拾得図」の左側にいる人物、寒山の顔を初めて見た時、僕は思った。おばあちゃんに似ている。作家には色々なタイプがいると思うのだが、僕は自分の中にあるものしか書けない人間である。自分が経験したこと、知人から聞いたこと、あるいは取材で調べたこと。そうして一度自分の中に入れたものを、組み合わせ、膨らませながら文章に起こしていくのだ。全く知らないものは書けない。雪村さんも同類であったとするなら、彼には僕のおばあちゃんそっくりの知人がいたのだろう。

さて、雪村さんの絵を見ていて面白いのは、「踊布袋図」のような漫画的な作品もあれば、「金山寺図屏風」のように精緻に作り込まれた作品もあることだ。つまりその両極端が彼の中にはあったのである。どちらも好んで描いていたからこそ、作品は愛され、こうして現在まで残ったのではないか。「こういう描き方以外認めない！」といった頑固人間ではなく、「どっちも楽しいよね」という柔軟で、楽天的な人物像を、僕は想像する。
また、雪村さんの絵には独創的な表現が多々見受けられる。「列子御風図」のいかにも「ぴょーん」と風に乗っている様などを見て、僕などは「勇気がいっただろうなあ」と思うのだ。この場合の勇気は描く勇気だけでなく、描いたものを人に見せる勇気である。小説でも新鮮なアイデアを思いついたとして、編集者さんに見せる時は緊張するものだ。それを悠々とやってのける雪村さんは、遊び心に満ちた人だったろうと思う。えっ、なんですかこの表現は！ と驚く編集者を見て、ほくそ笑んでいるような人だ。柔軟で、楽天的で、サービス精神いっぱい。僕の思う雪村さんは、一緒にいてとても楽しい人だ。会ったこともない癖にこんな自分勝手な推測をする僕も、笑って許してくれるような。