何年前だったか、ファミレスに72時間張り付いて、立ち寄る人を取材するという番組がNHKで放送されていた。
僕はこの番組にハマってしまった。後に、ドキュメント72時間という番組の「ファミレス人生劇場」だとわかるのだが。
なんで今まで見なかったんだ! こんなに面白い番組が放送されていたなんて! と後悔したことを覚えている。
ドキュメント72時間とは? 何が面白いの?
NHK総合テレビのドキュメンタリー番組
人々が行き交う街角に3日間カメラをすえてみる。
同じ時代に、たまたま居あわせた私たち。
みんな、どんな事情を抱え、どこへ行く?
(番組HPより)
毎回一つ場所で72時間(=3日間)に渡って取材を行い、そこで見られる人間模様を視聴者に届けてくれる定点観察番組だ。
もちろん、自分から話したがる人もいれば、なかなか言葉を発さない人もいる。その場所に想い入れがある人もいれば、全くそうでない人もいる。ゆえに、密着する人の数が足りず、その場所を離れて取材している回も時にはあったり。でも、それらを引っくるめて面白い。
僕が考える面白さ
人が行動する時、何かしらの動機がある。この番組で言えば、この場所に至った理由だ。それを聞き出すための質問は「なぜ?」になる。なるというか、正確には本質を突くために集約された結果が「なぜ?」という質問だと考えている。
表面的な会話をするのではなく、あえて本質を突いていく。それに応える人の姿もまた素晴らしいのだ。すると、自分の生活では関わることのないであろう人の人生、人となりが見えてくる。これが面白い。どのようなことを考え、どのような道を歩んできたのか。各々の抱えている事情が自分とリンクするともっと面白い。感情移入することもあれば、時には嫌悪する場合もあるかもしれない。それでも、日常へ戻っていく姿を見ると、無条件に応援したくなるのは僕だけではないだろう。
また、馴染みの土地であると更に面白い。僕は大学時代、日本各地をよく一人旅した。すると、日常的に接する人よりも、なぜか旅で出会う人の方が素直に話せることが多かった。その最大の理由は、お互いにお互いを知らないからだと思う。でも、だからこそ、普段は話せないようなことを話せたりする。
そういった点で、番組を見ていると旅で出会った人々を見ているような感覚にもなるのだ。
好きすぎて恥ずかしい思いをした
去年のとある日。思い入れのある図書館が閉鎖することを知った。ホームページで一番下にくるような、市としては序列の低い図書館。土日になっても、席が埋まることはほとんどなく、自習をしたい学生からしたら穴場だったはずだ。
その閉館日に、幕を下ろす瞬間を見届けよう! と思い立った。
2016年放送「さらば! 俺たちの船橋オート」のように、図書館に思い入れのある人が集まるのではないかと思ったのだ。
僕とこの図書館の思い出
眼鏡が大便器の中に落ちた。ぷかぷか水に浮かぶ眼鏡を見て、いったんその場を離れた。一呼吸するも、こうしている間にも菌が付着するのではという不安……再び便器に目をやると、現実を受け入れたくないという強い意志を自分の中に感じた。
このまま手を突っ込んで大丈夫だろうか? と言っても、それ以外の救済策はなく。「惨めだなあ」と思いつつ、便器に手を突っ込んだ。
幸いだったのは事後ではなく、事前だったこと。また、設置してあるハンドソープが泡で洗いやすかったこと。便器から救った眼鏡を満遍なく洗い、再びかけ直した。すると、いつもよりもキリッとした表情の男が鏡の中にいた。
……この話はなんだったの? と思いますよね?
すみません、大した思い出がありませんでした。思い出はないんですけど、思い入れはあるんです。
閉館の現実
その日は雨だったことを覚えている。
図書館の中に先客が一人しかおらず、そしてその一人も早々に去った。閉館時間の21時になった時には、僕と学芸員さんだけに。学芸員さんも、いつもの馴染みの人ではなく、臨時で採用されたような印象だった。
……もっと惜しまれるものだと勝手にイメージを膨らませていた。何かのドラマが起きるのではないかと。そんなことを期待して行ったけれど、ああ、なるほど。……実は薄々わかってはいたのだ。でも、認めざるを得なかった。
(だから閉館するのね)
結局、最後まで誰も来なかったし何も起きなかった。この時、僕はドキュメント72時間の見過ぎだと自覚した。
家に帰って、彼女に「なんもなかった~」と言うと
「やろうね」
とあっさり言われました。女性は現実的ですよね……。
余談
鈴木杏、仲里依紗、吹石一恵、市川実日子、田畑智子……(敬称略)など、色々な人がナレーションをしている。
彼女といつも番組を見るのだが、声を聞いただけで誰がナレーションをしているかがわかるのだ。女性の耳は本当にすごいと思う。ちなみに、僕は全くわからない。
と言うのも、この番組に関してはナレーションがそれほど気にならないのだ。違和感なく、安心して見ていられる。そういった点でも好き。
個人的に好きな回
お気に入りは、
「大病院の小さなコンビニ」
「眠らぬ都会の動物病院」
「ファミレス人生劇場」
「長崎 お盆はド派手に花火屋で」
「真冬の東京 その名は “はな子”」
「宮崎 路上ピアノが奏でる音は」
一つ一つ、時間をかけて書いていきたいと思う。
最後に
同じ時代に、たまたま居あわせた私たち。
番組HPより
このたまたまという言葉。実は、理由がないと僕は考えている。今までの人生を振り返ってみて、「何かの縁」とか「たまたま」とか、そういった言葉でしか説明できない出来事がたくさんあった。明確な理由がなく、論理的な確証もない。つまり、結果的には必然であったと思うのだ。それが最も自然だと僕は結論づけている。
同じ時代、同じ時間、同じ場所に、たまたま居合わせた現実に理由があるだろうか。日々とはそういった瞬間の積み重ねではないだろうか。
そんな思いを番組に感じながら、毎回楽しみに見ています。
これからも応援しております!
ドキュメント72時間を好きな人にこそ、読んでほしい。