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2011年3月11日。その後私は変わりました。
取材班は、現地を訪れた。
支店の所在地は、錦江湾をはさんで大隅半島の対岸、指宿市。東シナ海を一望する「砂むし温泉地」に近い。車を走らせると、目の前に、ハリウッド映画のロ ケに使われそうな豪華別荘が現れた。白い壁に囲まれた海沿いの広大な一角だ。黒い西洋風の門の脇にはローマ字で「HARA」の表札がかかっている。
エントランスの落ち葉を掃除している男性に声をかけた。「オリエンタル商事の支店は、ここでいいのでしょうか?」
男性は「そうです」。記者の「表札は原さんで、別荘みたいですが?」との問いかけに、「原社長の別荘でもあります」と答えた。
この男性は、オリエンタル商事の従業員で、別荘の管理をしているという。「オリエンタル商事」と書かれた軽トラックも停まっている。2つのプールがあり、馬が飼われている。
水面は南国の日差しに輝き、白馬は、のどかに草を食んでいた。
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<発端となった「ニューモ勉強会」>
南大隅町で「高レベル放射性廃棄物最終処分場」誘致の動きが起きたのは2007年。当時町長だった税所篤朗氏が取材に応じた。税所前町長は、自宅で当時のことを思い出すようにしっかりした口調で語った。
税所前町長によれば、原氏を知ったのは、ある人物の紹介だった。ある人物から「高レベル放射性廃棄物最終処分場」に関連して、「会ってみないか」と頼ま れたという。税所前町長は「この問題では先輩の町長が何人も失敗している。同じ轍を踏みたくない」と答えると、「話だけでも聞いてくれ」と言われ、断れな かったという。
その直後、原氏が六ヶ所村の元村長を連れて、町役場にやってきた。元村長の話を聞いて、最終処分場がいかに安全か、原子力施設誘致によって六ヶ所村がど れだけ活力をもらったかということがわかったという。その後、町議会全員協議会で「原子力発電環境整備機構」(ニューモ)に来てもらって、「高レベル放射 性廃棄物最終処分場」の勉強会を開いたと、前町長は話した。
この勉強会を開いたことが報道され、誘致の動きが表面化した。そのときには伊藤祐一郎知事が反対を表明していったんは動きがストップしたと思われてきたが、誘致の動きは町民に隠れるようにして、森田現町長に至るまで連綿と蠢いている。
<誘致一任の念書、東電訪問>
税所前町長は、オリエンタル商事という会社も、原氏がその社長であることもまったく知らなかったと話す。税所前町長が誘致をめぐって語った話をまとめると、次のような内容になる。
<原さんは東京電力の役員さんだと本人が言っていた。紹介した人が偉い人なので、そうだとばかり思っていた。議会で勉強会を開いた前後、後でしょ うね、原さんに放射性廃棄物処分場についてすべて任せるという内容の念書を書いた記憶がある。覚書というのかな。署名したと思う。誰あてかていえば、原さ んあてです。原さんに一任したんだから。
町を挙げて誘致する、原さんに任せるという内容です。取りまとめは助役がして、議長、商工会長(現在の森田町長)、漁協組合長が書いたと思う。>
<原さんはしょっちゅう役場に来て、議長室で議長、助役の3人で話していた。誘致を盛り上げる誘致振興会を立ち上げようと、当時商工会長だった森田町長が旗を振って受け入れ態勢ができた。>
<その後、原さんの依頼で、東電の勝俣さんに会いに行った。原さんもいっしょだった。勝俣さんが会長になったばかりの頃だった。公務出張中で東京 にいるところに、原さんから電話があり、東京にいるなら勝俣会長に会いに行こうと連れて行かれた。私は「町のなかがまとまったので説明に来ました。町を挙 げて誘致します」と話したと思う。原さんも会長室では、相手がお偉方なので控え目だった。原さんの存在は、不思議な力があった。>
<その前後に、議会などと一緒に佐多岬近くの処分場予定地を海から視察した。1回は海上保安庁の船で、もう1回は原さんのクルーザーだった。メン バーは同じ、主だった者です。町長を辞める直前の平成21(2009)年、東京に出張中、私と森田商工会長、漁協組合長、議長の4人が、プリンスホテルで 原さんにご馳走になった。>
<「東電のドン」に引き合わせたキーマン>
前町長は原社長から飲食接待を受けていたことを認めた。原氏への委任状など放射性廃棄物処分場誘致の見返りだったと見られても仕方がない。
委任状と前町長への飲食接待は、核のゴミ最終処分場誘致をめぐって展開する贈収賄疑惑の一部、ほんの始まりに過ぎなかった。
税所前町長の話に出てくる勝俣会長とは、東京電力の勝俣恒久前会長のことだ。2008年2月、柏崎刈羽原子力発電所のトラブルで社長を引責辞任して会長に就任していた。前町長が会ったというのは、時期的に符合する。
勝俣氏は、「東電のドン」と呼ばれ、原発との関係も深い。社長就任は、前任者が原発データ改ざん事件で引責辞任したためだし、会長就任は柏崎刈羽のトラ ブルの自らの社長引責辞任、そして福島第一原発事故では入院した社長に代わって陣頭指揮を執り、その後会長を引責辞任している。
「東電のドン」に町長を引き合わせたり、町長らの視察にクルーザーを提供した原社長とはいったいどんな人物なのか。核のゴミ最終処分場誘致をめぐって、当時商工会長だった森田・現町長、議長、漁協組合長ら、原社長をキーマンに東電につながった人脈は今も続いている。
その後、町長が船に乗っている姿も見られた。海に囲まれた町だけに、モーターボートを手に入れて、多忙な公務の合間にさぞかし船釣りやマリンレジャーを楽しんでいたことだろうと想像する。
ところが、昨年のある朝、モーターボートが港から忽然と消えていた。
後になってわかることだが、このモーターボートの元の所有者がオリエンタル商事の原幸一社長だった。
<原社長との関係をひた隠し>
一方、高レベル放射性廃棄物最終処分場問題は、2007年に町と町議会が「原子力発電環境整備機構」(ニューモ)の勉強会を開いた後、10年、一部町民が 同処分場誘致に賛成する陳情が提出して再燃。これに対し反対団体が結成され、誘致反対の陳情も出され、町を二分する状態になっていた。町議会が福島原発事 故後の11年3月、「(誘致の)具体的な動きもない」として、いずれの陳情も不採択とする結論を出した。
しかし、原発事故が収束していないように、「核のゴミ」処分場誘致問題も収束していなかった。
森田町長がこのモーターボートを手に入れた経緯と入手先について真っ赤なウソを述べていることが、調査報道サイト「HUNTER」で報じられ、「核のゴミ」処分場をめぐる贈収賄疑惑が明るみに出てきた。
モーターボートは10年6月、オリエンタル商事の原社長から森田町長に売買によって譲渡されたと、小型船舶登録原簿には記載されている(同年8月、変更 登録)。ところが、町長は、4月の町長選挙での対立候補陣営の画策だとして、原社長から入手したことを否定したというのだ。
それがウソなのは、NET-IBが入手した小型船舶登録原簿の登録事項証明書から明らかだ。
小型船舶登録原簿というのは、小型船舶登録法に基づいて、船舶番号や船の大きさ(長さや幅)、所有者などが登録されたものである。レジャーボートなど 20トン未満の船が対象で、自動車の登録と同様に、船舶も小型船舶登録原簿に登録されている。なお、登録事務は、日本小型船舶検査機構が国に代わって実施 している。
すぐにばれるウソをついてまで、森田町長は、なぜ原社長との関係を隠そうとしたのか。「HUNTER」によると、知人に貸していたお金の代わりに 取り上げたなどとウソを並べ立てた後、原社長から15万円で購入したと説明したという。無償譲渡や、市価よりも低い価格での購入は供与に当たる。
<町長「もう終わりましたから」>
取材のため、森田町長を町役場2階の町長室に訪ねた。
記者「高レベル放射性廃棄物処分場をめぐって、オリエンタル商事の原社長との関係をお聞きしたい。モーターボートをオリエンタル商事の原社長から入手したと一部報じられているが事実ですか?」
町長「もう終わりましたから」
記者「返したんですか?」
町長「違います」
その後、町長室を出た森田町長は、記者の質問に押し黙ったまま、駐車場に停めてあった車に乗り込んで去っていった。
「町長、お答えください」との呼びかけを振り切るまで、町長室を出てから約2分30秒。森田町長が唯一質問に答えたのは、「ノーコメントですか?」の問いに、「そうですね」と一言だけ。町長は、汚職疑惑を否定できなかった。
<勉強会直後、六ヶ所村視察の誘い>
ある関係者は、取材に対し、こう語った。
「町と町議会が勉強会を開いたことが報じられて、ニュースを見ていたら、税所(篤朗)町長がなぜ誘致したのかと問い詰められて、『町議会も同意しています』と答えていた。おかしいな、勉強会をしただけなのに、なぜそこまで言うのかと思った」。
今までに高レベル放射性廃棄物最終処分場候補地として報道されたのは、福井県和泉村、高知県東洋町、鹿児島県宇検村など、いずれも過疎の自治体だった。しかし、名前が挙がると反対運動が起こり、いまだに候補地すら決まっていない。それほど危険な施設である。
名前が挙がっただけで反対運動が起きてきただけに、誘致にのめりこんでいても「勉強しているだけです」とシラを切るのが普通だ。実際に、勉強会を開いただけだったのに、あえて「議会同意」と発言したのは、何か事情があったからに違いないと、この関係者はみている。
しかも、この関係者は、勉強会の後、ある人物から「六ヶ所村に行ってもらえないか」との申し出があったと明かす。「私は、行くなら自分のお金で行くと断った」という。
では、税所前町長が今も、森田俊彦町長の裏から糸を引いているのだろうか?
この関係者は、それは違うという。「勉強会の直後くらいに、税所町長が『森田商工会長が「町長の立場ではやりにくいから私がやります」と言った』と話していた。旗を振っていたのは、当時から、森田町長(当時は商工会長)だよ」。
<「誘致するために町長になった」>
南大隅町で誘致の動きが蠢いている「高レベル放射性廃棄物最終処分場」とは、使用済み核燃料を数万年以上にわたり人間の生活環境から隔離するため地下300メートル以上の安定した地層に処分する施設だ。
使用済み核燃料といっても、福島第一原発事故の核燃料プールの危機が示すように、核分裂は止まっても猛烈な熱を出し続けるので、長い年月にわたって冷却 をし続けなければならない。無毒化する技術は開発されていないうえ、核燃料ウランの1億倍も危険な放射性物質に変わっているため、人間の生活環境から遠ざ けるしか方法がない。日本では、さらに厄介なことには、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出した後の液状の廃棄物になる。国の基本方針では、これを固 めて(ガラス固化)、冷却のために30~50年貯蔵した後、地層処分するとしている。
「核のゴミ」最終処分場誘致をめぐって、森田町長はどこまで関わっているのか。原社長との関係、東電とのつながりを探るうちに、ほかにも証言する複数の関係者が現れた。
森田町長の疑惑は、モーターボート譲渡だけではなかった。
関係者によれば、森田町長は当選直後の2009年5月、東電に行って、勝俣会長に会っていた。議長ら町の有力者が同席していたという。
「森田町長は勝俣会長に『核廃棄物処分場を誘致するために町長になった』と言った。同席した人が『そこまではっきり言い切ってびっくりした。まだ勉強の段階なのに』と話していた」。
<森田町長も飲食接待受けていた>
別の関係者は、ある原発視察旅行を語った。09年の町長選挙で森田俊彦氏が第2代南大隅町長に就任した後のことだ。
オリエンタル商事の原幸一社長に連れられて、森田町長の友人3人が、福島の原発と青森の六ヶ所村を視察したと話す。上京した後、福島へ行き、福島第1原 発、第2原発を見学して、いったん東京に戻って1泊。翌日は、六ヶ所村を視察して青森県から鹿児島へ空路で帰途に着いた。「旅費は全部原さんが出した」と いうのだ。
ところが話は、民間人同士の視察旅行にとどまらなかった。
関係者によれば――。東京では赤坂プリンスホテルに泊まったが、福島からホテルに到着したら、森田町長がそこにいた。「私らは町長がいるとは思わなかっ たけど、日程を合わせて上京してきたんでしょうね」と振り返る。一行は、森田町長と一緒に、夕食を共にし、さらには六本木のクラブで飲んだ。クラブでも森 田町長が一緒だった。一行の1人が、原社長が飲食代をゴールドカードで支払ったのを見ていた。
森田氏が現職町長になってから、原社長から飲食接待を受けたという証言だ。
森田現町長は、税所町長時代から当時商工会長として「核のゴミ」最終処分場誘致に深く関与し、町長になってからは、飲食接待やモーターボート譲渡など収賄疑惑が生じるほど、ずぶずぶの関係が築かれていたことになる。
【高レベル放射性廃棄物最終処分場誘致をめぐる動き】
2007年3月 「原子力発電環境整備機構」(ニューモ)の勉強会
2008年10月か11月 税所篤朗町長(当時)ら東電訪問
2009年4月 南大隅町長選挙。森田俊彦氏が2代目町長に当選。
2010年8月 モーターボートの所有権変更登録
2010年12月 高レベル放射性廃棄物最終処分場誘致に賛成する陳情が議会に提出される
2011年3月11日 東日本大震災と福島第一原発事故
2011年3月 陳情不採択
2012年8月 南大隅町が除染土などの処分場の有力候補地と民放が報道
(※関係者の証言などをもとに作成)
森田町長ら町の有力者と、オリエンタル商事の原幸一社長との交遊はつい最近まで続いていたと、関係者は取材に対して語った。海外旅行にまでいっしょに行く 関係だったことが明らかになっている。証言によれば、「森田町長、県議、商工会長、漁協組合長、建設会社社長らで海南島に出かけた。去年も、ほぼ同じメン バーで大連に行った」という。
一方、町長らを東電の勝俣会長に引き合わせることができる原社長について、関係者でさえ、どんな人物かわからないという。町長らの同処分場候補地 の海上視察にクルーザーを提供したり、町の有力者を原発視察旅行にタダで連れて行ったり、原子力関連のコネクションを持つことが、関係者の証言から浮かび 上がる。指宿市に支店として豪華別荘があり、町の有力者を招いたり、東京のクラブで飲食接待したり、かなりのお金を動かしていることも間違いない。
原社長に取材を申し込んだが、現時点で一切、コメントがない。オリエンタル商事の本社に電話しても、従業員は会社の業務内容さえ回答しなかった。オリエ ンタル商事は、本社が東京都千代田区。東京商工リサーチの企業情報によると、事業内容は船舶のリース業となっているが、その実態が皆目つかめない。
これまで関係者の証言をみてきた。森田町長に収賄の疑いが生じているのは誰の目にも明らかだ。森田町長は取材に対し、疑惑を否定することができなかった。
証言によれば、「核のゴミ」最終処分場誘致の問題が起きた早い段階から、南大隅町の森田俊彦町長が誘致に関わってきたことになる。東電を訪問して誘致を 約束する一方、オリエンタル商事の原幸一社長から飲食接待を受けていた。モーターボートを譲渡されていることもわかった。
過疎地に原発を押し付け、そこに巨額の原子力マネーが動き、おこぼれをもらおうと、反社会集団まで群がってきたことは、原発事故後、多くの国民が知ること になった。高レベル放射性廃棄物最終処分となると、候補地になるだけで、文献調査の段階で年間10億円の「電源立地地域対策交付金」が自治体に転がり込ん でくる(概要調査段階になると年間20億円)。
今回明らかになった事実は、全体の一端に過ぎない。
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