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遺伝子を狙ったとおりに改変する「ゲノム編集技術」をヒトの受精卵に使う研…
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遺伝子を狙ったとおりに改変する「ゲノム編集技術」をヒトの受精卵に使う研究をめぐり、菅官房長官が記者会見で「国として責任ある関与をすべきと考えている」と述べた。
事の発端は、関連学会と政府の対立だ。研究の妥当性などの審査について、国があくまでも「協力する立場」とのスタンスをとり、関与に及び腰なことに学会側が反発。信頼関係が崩れたとして、先週末、審査にあたる委員会の解散を決めた。
ルールのない状態を続けるわけにはいかない。官房長官発言を踏まえ、国はこれまでの姿勢を根本から改める必要がある。
政府の生命倫理専門調査会は昨年4月、子宮に戻さない基礎研究に限って、受精卵のゲノム編集が認められる場合があるとする報告書をまとめ、その指針づくりが課題になった。
だが内閣府や文部科学省、厚生労働省は「短期間に固めるのは難しい」との理由からこれを見送り、代わりに関係学会に審査を依頼する方法をとった。
テーマの重要性をわきまえず、当事者意識を欠いた態度と言わざるを得ない。
受精卵のゲノム編集は、遺伝性疾患をはじめとする病気の治療を画期的に変えうる可能性があり、国際的な競争が起きている。一方で、安全性や子孫に与える未知の影響が懸念され、だからこそ、専門調査会も臨床応用を認めなかった。
研究環境をすみやかに整備しなければ、意欲やアイデアを持った日本の研究者は力を発揮できない。逆に、安全性や倫理性が十分に確かめられないまま、抜け駆けのように研究を進める動きが出る恐れもある。
「学会に所属しない研究者にもルールを守ってもらうことが欠かせない」という学会側の意見はもっともだ。ここは他人任せにせず、国レベルで指針を整備することが望ましい。
同じく医療の将来を変える可能性を持つiPS細胞では、臨床応用に向けたルールが法律で定められている。臨床研究をおこなう際には、安全性や倫理面の問題について、病院や研究機関が設置した委員会でまず審査し、厚労省が最終的に計画を了承する仕組みだ。
日本では、遺伝子治療やクローン技術など新しい技術が登場するたびに、個別の指針や法律をつくって対応している現実がある。だが、こうした手法では限界がある。
生命倫理にかかわる研究を包括的にコントロールできるような法律と体制をどうつくるか。議論を進める必要がある。
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