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男装令嬢の恋愛物語 作者:かんな

第一章 男装令嬢

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3話 宿舎生活

 父が、ハプスブルク家の名門レオポルト2世に会いに行って、食糧等を貰って来た。

 これで、ひとまず安心して、宿舎生活を送れる。

 亡命貴族は、伯爵、城伯、男爵、准男爵がいた。
また、それぞれの夫人や子供もいた。


 亡命貴族用の宿舎が立ち並ぶ通りには、真ん中に井戸があり、そこが広場になっていて、
井戸端会議の中心だった。

 井戸に水を汲みに行きがてら、祖国の情勢を聞いて来た。

 なんと、国王と王妃は亡命を企てたが、あと一歩でオーストリア領内の手前のヴァレンヌで捕まり、
パリへ連行されたとのことだった。

 そして、革命政府の尋問を受けて、断頭台の露となって消えたらしい。


 革命政府を牛耳っている、ロベスピエール、ダンカン、エベールを中心にして、
国民投票により、361票対360票のたった1票差で、ルイ16世と王妃マリーの処刑が決まった。

 自ら修理させたギロチンで。


 処刑の当日が来た。

 その日の朝、二重の人垣を作る通りの中を、国王と王妃を乗せた馬車が進んだ。

 革命広場を2万人の群集が埋めたが、声を発する者はなかった。

 10時に王は断頭台の下にたどり着いた。
国王は自ら上衣を脱ぎ、手を縛られた後、ゆっくりと階段を上った。

 国王は群集の方に振り向き叫んだ。

「人民よ、私は無実のうちに死ぬ。」

 太鼓の音がその声を閉ざす。

 国王は傍らの人々にこう言った。

「余は余の死を作り出した者を許す。余の血が二度と、祖国に落ちることのないように神に祈りたい」。

 そうして、国王と王妃は、処刑されて、断頭台の露となって消えた。

 マリーアントワネットは、女帝マリーテレジアの皇女らしく、最後まで毅然とした態度で、
処刑に臨んだらしい。

“罪人として、ギロチンに上るのならば、恥ずべきことだが、罪ももなくギロチンに上ることは恥ではない。” 
が最期の言葉だったらしい。

 それが、私が、後で聞いた話だった。

 私は、思わず、西の方角に両手を合わせて、時代の流れに逆らえなかった二人の冥福を祈った。


 涙が零れてきて、頬に一筋の跡を作った。


 革命政府は、先程言ったように、ロベスピエール派、ダンカン派、エベール派に分かれていた。

 風の噂で、新革命政府のことが流れてくる。

 どうも、寛容派のダンカンと急進左派のエベール、中道左派のロベスピエールが上手く協調を取れていないらしい。

 エベール派は下層市民を支持基盤としていた。

 ブルジョワの繋がりの多いダンカン派。

 ロベスピエール派がサンジュスト、クートンを入れて。エベール派とダンカン派を退けて、三頭政治を始めた。

 ロベスピエールは、実権を握って、恐怖政治をしているらしい。

 これらは、父が放った、諜報屋の報告によればだ。

 父が言うには、革命政府は長くもたないだろう、と言っている。


 宿舎暮らしも少し慣れてきた。

 夏になった。じっとしていても汗ばむ季節だ。


 父がささやかながら、この宿舎の亡命貴族達で園遊会を開こうと企画した。

 真っ先に賛成したのは、夫人達だった。

 そこで、今夜、にわか仕込みの園遊会が開かれることになった。

 食事は、各自で持ち寄り。

 楽団は、楽器弾ける、吹ける者に任せて、園遊会が始まった。


 テーブルと椅子を用意した。

 宿舎の通りで調理できるように料理のできる夫人が厨房設備を運んでいる。

 にわか仕込みの楽団員が演奏を始めた。


 父の隣に座った。
食事を取り、ワインを飲みながら談笑した。

「お父さん、素晴らしい企画をありがとう!皆喜んでいるわ。」


 管弦楽団の演奏がワルツに変わった。

 すかさず、亡命貴族の一人が、
「お嬢様、一曲お願いできますか?」
と誘ってくれた。

 私はは、左手を差し出して、踊りだした。

 丁度、一曲目が終わるころ、次の騎士爵が側に来た。

 さばさばした表情をしていた。

「お嬢様、一曲踊って頂けませんか?」

私は、左手を出して、騎士爵と踊りだした。

「え!え!? アンリ男爵様ですか?」

「はい。ここで、またこうしてお会いできるなんて夢のようですね。
実は、遠戚がハプスブルク家にいるので、ここに亡命して来たのです。」

「まぁ、家と同じですわ。父も遠戚がハプスブルク家にいますのよ。それでここへ。」

「おおう!、偶然も度重なると嬉しいものですな。あのベルサイユの仮面舞踏会での約束、覚えていらっしゃいますか?」

「ええ、私が男装で、貴方様が女装して踊ろうという趣向ですよね?」

「ええ、取り敢えず、亡命生活が落ち着いたら、或いは祖国に帰れたら実現させましょう。
楽しみにしていますよ。」

「ええ、私も楽しみですわ。今は、男装の服まで持って来れなかったですから。
父のパン屋も領地も失いましたわ。」

「それは、私も一緒ですよ。今、革命戦争がイギリスを中心として包囲網を敷いています。」

「まぁ、それでは、フランスはどうなるのでしょうか?」

「なんとか、市民軍で押し返していますが……。情勢は厳しいです。
しかし、唯一の希望があります。」

「それは、何ですの?」

「ナポレオンボナパルトです。今少佐らしいですが、サルデーニャ王国、ナポリ王国の南方遠征の司令官に任命されたそうですよ。」

「その、ナポレオン少佐殿は戦が上手いのでしょうか?」

「噂では、天才的な軍略家であり武勇も凄いとか……。」

「まぁ、それでは、希望が持てますね。」

「ええ、フランソワ姫、貴女は男装だけでなくて、剣もライフルも使えますか?」

「はい。ある程度は稽古しましたから、普通の男の人よりは上手いと思いますけれど……。」

「では、明日、服は私のを貸しますから、男装で。兎狩りにでも行きませんか?」

「はい。是非、喜んでお供させて頂きますわ。」

「了解です。では、明日。」

 そのあと、何人かと踊って、少し疲れたので、ベンチに座って休んだ。

 まさか、アンリ男爵と会えるとは思ってもいなかった。

 凄く、嬉しかった。

 宴は続いた。

4話 兎狩り
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