憲法は国会を「国権の最高機関」と定める。その国会の合意をないがしろにする行いだ。

 天皇陛下の退位を実現するために、政府が検討している特例法の骨子案が明らかになった。衆参両院の正副議長のもと、各党各会派が議論を重ねて練りあげた「とりまとめ」とは、根底において大きな違いがある。

 政府はすみやかに案を撤回して、作り直すべきだ。

 まず法律の名称である。「とりまとめ」は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」としたが、骨子案は「天皇陛下の退位に関する…」となっている。一見大きな違いはないが、「陛下」の2文字を加えることで、退位を今の陛下お一人の問題にしようという意図が明白だ。

 あわせて、典範を改正して付則に盛りこむことになっていた特例法の趣旨が削られた。「この法律(=典範)の特例として天皇の退位について定める」という文言で、今回の退位が次代以降の先例になる根拠と、野党などは位置づけていた。

 改めて経緯を確認したい。

 この問題をめぐっては、終身在位の原則にこだわり、退位をあくまでも例外措置としたい与党と、退位のためのルールを設け、将来の天皇にも適用されるようにすべきだという多くの野党との間で、見解がわかれた。

 与野党対決法案になれば、憲法が「国民の総意に基(もとづ)く」と定める象徴天皇の地位を不安定にしかねない。危機感をもった正副議長の音頭で、政府案が固まる前に国会が協議を始めるという異例の手続きがとられた。

 ぎりぎりの調整を経て、1カ月前に文書化されたのが「とりまとめ」である。朝日新聞の社説も、妥協の産物であることを指摘しつつ、「国民の『総意』が見えてきた」と評価した。

 政府の骨子案はこうした努力と工夫を踏みにじるものだ。野党の声に耳を傾けようとせず、国会を軽視する政権の姿勢が、ここでもあらわになった。

 安倍首相はかねて「退位問題を政争の具にしてはならない」とし、正副議長から「とりまとめ」を手渡された際は「厳粛に受けとめる」と応じた。あれはいったい何だったのだろう。

 自民党の対応にもあきれる。「とりまとめ」について高村正彦副総裁は「党として全く異存はない」、茂木敏充政調会長は「いい形で全体の意見を反映していただいた」と述べていた。立法府の一員として骨子案に異を唱えてしかるべきなのに、このまま押し通すつもりか。

 「国権の最高機関」の名が泣いている。