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西瓜、Suica、酸いか甘いか(必勝)

随筆・漫文

 

私はシダ植物や蔓草の鬱蒼と生い茂る薄暗い湿地林を歩いていた。

少し歩くだけで顔や手足に蜘蛛の巣や中華餡みたいなとろみのある汁が纏わりついてきて非常に気持ちが悪い。足元も泥濘んでいてお気に入りのモカションが泥泥だ。早く家に帰って洗いたい。しかしこの汚れはなかなか落ないだろうな。こんな泥泥の湿地林を歩くなんて想定してなかったから、撥水スプレーもしていないし。このモカションを買うときに靴屋の店員さんが勧めてくれたレジ横の撥水スプレーを買ってシュシュっとやっておけば良かった。俺のモカション。俺のモカション。オレノ・モカション、って言うモデル出身のハーフのタレントがいたっけ?いなかったっけ?などと考えながら湿地林を突き進んだ。

歩いていると時々、

あびょーん。あびょーん。

という得体の知れない生物の鳴き声も聞こえてくるし、

ぺろぺろりんりんもんもんちょろりんりーん。

という、深夜のAMラジオでやっているような変なラジオ番組のジングルみたいなメロデイも聴こえてくる。

今私はメロデイと言ったが、決してイを小文字にし忘れた訳では無い。そのメロデイは、メロディーと言うには勿体無いほど、余りにも野暮ったく、メロデイの方が相応しいと思ったからだ。

然し私は何処へでも行けるというのに、なんでわざわざこんなぬらぬらした薄気味の悪い湿地林に来てしまったのだろう、あほちゃうか、帰ろかな、と思った。

その時、目の前の歪んだ大樹から垂れ下がる蔓の先にミラーボールの様にぶら下がる熟れたスイカ(必勝)を見つけた。丁度そのスイカ(必勝)は私の顔の高さ辺りにぶら下がっていた。

スイカはわかるが(必勝)とはなんの事ぞや?という方の為に一応説明しておくが、(必勝)とはスイカの品種の事である。大玉で、玉揃いがよく、中身は少し桃色がかった鮮やかな赤色で、食感は少し柔らかいがシャリシャリ感もしっかりある、糖度は12度前後で、風味もいい、そんなスイカだ。

なるほど、成る程、虎穴に入らずんば虎子を得ず、Nothing venture, nothing have. The more denger the more honour. とはこの事か。何を隠そう、私は無類のスイカ好きで、中でもこの(必勝)が大好きなのだ。

さあ、早速これを捥いで食うてやろかいなと思った。しかし、ひとつおかしな点がある、それはスイカが歪んだ大樹からミラーボールの様にぶら下がっていると言う点だ。私は北海道の富良野でスイカの収穫の短期バイトをした事があるので、スイカはあんな風に歪んだ大樹からミラーボールの様にぶら下がったりしない事を知っている。何かの罠か?それとも品種改良か?そもそもスイカはこんな日当たりの悪い湿地林に自生するのか?

怪しいと思ったが、私はもう随分歩きっぱなしで、空腹と喉の渇きが結構ヤバめな感じだったので、そのミラーボールの様にぶら下がっているスイカ(必勝)を喰らってやろうと、勢いよくもぎ取った。

するとどうでしょう。そのスイカ(必勝)がパカっと2つに割れて、中から小さな小さな可愛らしい女の子が出て来ました。

それが妻と私の馴れ初めです。