1950年、米国の政府高官の不用意な発言と、北朝鮮政府の計算違いが重なったことが、朝鮮戦争の勃発につながった。
今日、米朝両政府が再び誤算を重ね、紛争に突入する危険がある。世界は、朝鮮半島で再び戦争が始まるかどうかを注意深く見守っている。
多くの歴史学者は、朝鮮戦争勃発のきっかけが、50年1月に当時のアチソン米国務長官がワシントンの記者クラブで行った講演にあったと指摘する。アチソン氏はアジアにおける米国の「防衛線(アチソン・ライン)」に言及し、朝鮮半島はその防衛線の外にあると示唆したのである。
北朝鮮の当時の指導者だった金日成氏は、この発言から米国は明らかに韓国を防衛しない方針なのだと読み取った。それから5カ月後の6月25日、北朝鮮の大軍が北緯38度線を越え、韓国に侵攻した。
しかし、金氏は読み違えていた。米国は参戦したのだ。この朝鮮戦争で、少なくとも何十万人もの命が失われ、後に米軍と中国軍が直接衝突する事態にまで発展した。しかも、この戦争は公式には終結していない。今日に至るまで正式な平和協定が結ばれないまま、朝鮮半島の和平は停戦協定のもとで保たれているにすぎない。
■米朝ともに先制攻撃辞さず
アチソン氏の発言には無頓着さが表れていたが、トランプ米大統領の発言からわかるのは決意だ。トランプ氏は何としても北朝鮮の核開発計画を阻止すると公言しており、先制攻撃をも辞さないとの考えを強く示している。
一方、北朝鮮が再び予想外の動きに出る危険性があることも明白だ。金氏の孫である現在の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、祖父の軍国主義と孤立主義、偏執的な面を受け継いでいる。もし正恩氏が、米国が本気で北朝鮮への攻撃を考えていると判断したら、自分の方から先制攻撃することを考えるだろう。というのも、米国の戦争遂行計画には、早い段階での正恩氏の殺害が含まれているとの報道があるからだ。そうした話は、先に動こうという正恩氏の考えを一層、強めるだけだ。
北朝鮮の最近の軍事訓練を見れば分かる通り、同国の軍事戦略は、核兵器を先制使用することで自国の敗北や壊滅を回避するというシナリオを想定している。米国の軍事専門家、ジェフリー・ルイス氏は最近、米誌「フォーリン・ポリシー」の電子版で次のように書いた。「正恩氏の戦略は核兵器の早期使用を念頭に置いている。つまり、米国が自分を殺害する前に、あるいは米軍特殊部隊が北朝鮮のミサイル関連施設を発見する前に核を使うということだ。……戦争するなら、先制攻撃が必要というわけだ」
北朝鮮はまだ、米西海岸を射程に入れた核弾頭搭載ミサイルの開発を終えていないが、韓国や日本に核弾頭を落とせるミサイルは保有している可能性が高い。加えて、北朝鮮国境から35マイルほど(約56キロ)しか離れていない韓国の首都ソウルは、通常兵器による集中砲火を浴びれば壊滅する危険が高い。日韓両国は、北朝鮮が化学兵器を使用する可能性も強く懸念している。