120年ぶり民法改正「敷金は原則返還」不動産投資や管理業務に相当影響あり
2015.2.13|不動産投資ニュース
民法が1896年以来120年ぶりの改正に向けてカウントダウンとなりました。これまで年間1万件以上の相談があると言われる敷金に関する定義が明記され、原則的に賃貸借契約が終了すれば、敷金は全額返還が基本になりそうです。マンション・アパート等賃貸住宅への投資家や管理会社は相当影響を受けそうです。
民法の改正要綱原案が最終決定されました。
敷金、約款など盛り込み、消費者トラブル回避…法制審民法部会が改正要綱原案最終決定
法相の諮問機関「法制審議会・民法(債権関係)部会」が10日、民法の改正要綱原案を最終決定した。国民への分かりやすさと時代の変化への対応を目指しており、消費者のトラブル回避につながる項目も盛り込まれた。法制審は24日の総会で改正要綱案を承認し、法相に答申。政府は3月下旬をめどに民法改正案などを国会に提出する見通し。
敷金の返還や過剰な原状回復義務無しが明文化に、審議会が民法改正案
大幅な改正案
トラブルの多い敷金に関して明文化が図られる見通しだ。
報道によると、法制審議会の民法部会が債権に関する民法改正要綱案を決定した。改正項目は約200項目となり、ここまでの大幅な債権に関する改正は、民法が制定された1896年(明治29年)以来、初めてのこととしている。年間1万件以上の相談
「敷金」は、賃貸物件などを借りる際に貸主に対して預けるもので、関西地方では「保証金」と呼ぶことが多い。これらに関するトラブルは、これまで何度も問題になっている。
その多くは、部屋の修復費用に多額のお金がかかり、敷金が戻ってこないとのトラブルで、国民生活センターの発表によると、毎年1万件以上の相談が寄せられている。
インターネットなどの普及により、消費者も知識を得るようになったためか、2010年に1万6293件だった相談件数は、翌11年は1万5513件、12年は1万4212件、13年は1万3918件と減少傾向にあるものの、まだまだ多いと言えるだろう。
ここで、賃貸住宅の敷金に関するトラブル数・トラブル事例を確認してみましょう。
賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブルに関して、独立行政法人国民生活センターが公開しています。
賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル
(独立行政法人 国民生活センター)
●先日、10年以上住んだ築30年の賃貸アパートを退去した。立ち合い時に家主から、「支払い済みの敷金3カ月分を超える部分の修繕費を請求する」と言われた。納得がいかない。
●入居した賃貸アパートは、大雨の際に雨が排気口から吹き込むようで、その下に置いた荷物が濡れてしまう。にもかかわらず、大家がなかなか対応しない。
●1年7カ月住んだ賃貸マンションを退去した。大家から修繕費の請求書が届いたが、契約書の記載と異なるので、払いたくない。
●賃貸アパートを管理業者立ち合いで退去し、「補修費5万円」と言われたが、後日倍額の請求書が家主から届いた。当初の金額で支払いたい。
●5年間住んだ賃貸アパートを退去することになった。立会時に不動産業者から、「43万円の修理費を用意できなければ退去できない」と言われた。どうしたらよいか。
●賃貸マンションの契約をした。契約後に、前借主の残置物のエアコンと照明器具の撤去をしたが、撤去後の補修費用まで負担する義務があるだろうか。
●8年半居住した賃貸アパートを退去した。タバコを吸っていたということでクロスの張替え費用を請求されているが、契約書には書かれていないので払いたくない。
敷金に関しては、これ以外にも数多くのトラブルが発生しているでしょう。
敷金についての規定
敷金についてはこれまでに、賃貸人と賃借人、さらには不動産業者の間で数多くのトラブルが発生していました。
以前は、賃借人がいくら不動産業者と交渉しても全く埒(らち)があかなかったのに、弁護士に依頼して内容証明郵便で敷金返還を求めると、意外とあっさり返還に応じるというケースがよくありました。つまり、不動産業者としても、敷金を返還するのが原則、と理解しながらも、弁護士等を立てて強く出てくる人に対しては返還し、そうでない人には返還しないというような姿勢が、時に見受けられたわけです。
最近では、賃借人の側にも「敷金は本来戻ってくるもの」という意識が浸透しています。敷金の返還がなされない場合には、国民生活センター等のアドバイスを受けてきちんと権利行使をするようになり、不動産業者の多くも、敷金を適正に返還するようになってきているようです。しかし、まだ昔ながらの対応をとる業者も少なからずあるようです。
今回、敷金についても明確化されました。
要綱仮案(案)の原文です。
要綱仮案54頁には、敷金について次のように敷金が明確に定義付けされています。
いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭
契約が終了し物件の引渡しを受けた時に全額返還が原則?
敷金の返還について、かなり大きな影響を受けそうです。
賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
かなりの影響を受ける投資家や管理会社がいらっしゃると思います。
民法の大改正、ポイントを教えて
敷金は原則返還マンションなどを賃貸する場合、家賃の1~3か月分程度の敷金が必要となることが多いですが、退去時に敷金が全く返ってこなかったり、ハウスクリーニング、クロス張り替え、畳表替えなどの原状回復費用として敷金以上の金額を請求されたりするトラブルが多く発生しています。独立行政法人国民生活センターには、敷金や原状回復に関するトラブルに関する相談が、2012年には1万4212件、13年も1万3916件寄せられているということです。
敷金に関しては、民法には規定がなく、国土交通省が制定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」があるものの、遵守(じゅんしゅ)しなくとも罰則が科せられるわけではありませんでした。そこで、要綱仮案では、敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と明確に定義付けた上で、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、敷金の返還義務を規定しています。
民法改正後はますます借り手の主張が通りやすくなるでしょう。
一方、賃貸住宅へ投資している不動産投資家(所有者)にとっては、事業収支の悪化が予測されます。
原状回復義務について
国土交通省は、トラブルが多々発生している原状回復についてガイドラインを作成し公開しています。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
●ガイドラインの位置付け
民間賃貸住宅における賃貸借契約は、いわゆる契約自由の原則により、貸す側と借りる側の双方の合意に基づいて行われるものですが、退去時において、貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのかについてトラブルが発生することがあります。
こうした退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめたものであり、平成16年2月及び平成23年8月には、裁判事例及びQ&Aの追加などの改訂を行っています。
それでも敷金が返還されないなどのトラブルは多いです。
知らないと損する「敷金の返還」についての基礎知識
それまで賃貸アパートやマンションで生活をしていた人(賃借人)にとっては、その部屋を借りる際に家主(賃貸人)に差し入れていた敷金も、家賃の数か月分にのぼるなど、金額としては少なくないことが多いため、それがきちんと戻ってくるかどうかは大きな関心事となります。
そして、やはり「敷金が戻ってこない」などのトラブルが多く発生するシーズンとなります。
こうした現状も踏まえた今回の民法改正により、原状回復義務についてはどのように規定されるのでしょうか。要綱仮案55~56頁には、次の通り記載されています。
賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務について
(3) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(3)において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
このように、賃貸住宅の借主側は、借主による損傷以外の経年劣化による修繕費用を敷金で負担する必要がなくなることになります。
最近では敷金ゼロで貸し出している貸主が増えていますので、今回の民法改正によって特段影響がないとお考えの方もいらっしゃるでしょう。ただし、場合によっては敷金トラブルと同様の問題に発展しています。
敷金・礼金ゼロは借りても大丈夫?その違いと危険性
探してみると見つかる「礼金0」物件。さらには、「敷金0」なんていうのもあります。でも、「タダほど高いものはない」って言うし・・・。礼金や敷金が「0」の物件は、カラクリがあるのでしょうか?
突き詰めて検討すると、敷金ゼロだからと言って、必ずしも敷金返還トラブルはないとは言えません。
今回の民法改正を機に、自らの襟を正す意味でも今一度ご自身が投資中の賃貸住宅に関する敷金返還について精査することをお勧めします。