英国のメイ首相は解散総選挙を実施する方針を表明し、欧州連合(EU)からの離脱について強気の発言を重ねた。改めて国民の信任を得ることにより、英国のEU離脱を妨げようとする野党議員を打ち負かせると語った。
だが、メイ氏の強気な物言いの裏には別の動機があるという見方も出ている。ここで5年の任期を得れば、より円滑で秩序あるEU離脱に向けて取り組めるようになる。加えて、政治的に厄介な移行措置も管理しやすくなる。
いずれにせよ、メイ氏の決断は、自分の任期中に思い通りのEU離脱を成し遂げることが目的だ。あるEU主要国の外交官は、「国内的に政治力を高めたいのであれば理解できる」と言う。
メイ氏は18日の劇的な方針転換の理由について、この数週間で労働党と自由民主党、スコットランド民族党がEUとの交渉による取引をすべて阻もうとしていることがはっきりしたからだと語った。「野党側は、与党との議席差がわずかなので我々の決意は揺らぎ、針路を変えさせることができると思っている」と、メイ氏は首相官邸の外で語った。「それは間違いだ」
■実際には弱い議会
だが、このところの状況は、メイ氏が野党の妨害について誇張していることをうかがわせる。メイ氏は先月、リスボン条約50条を発動してEU離脱手続き開始の通告を行う権限を首相に与える法案の採決で、反対勢力を圧倒した。英議会は反乱の巣窟どころか、強い首相を前にして何もできないと批判されることのほうが多い。
新たな信任が得られれば、メイ氏は確実に単一市場と関税同盟から脱退する完全なEU離脱を果たしやすくなる。だが同時に、EUとの新たな貿易協定に至るまでの移行期間について、メイ氏が「より穏健な」取り決めを交渉する権限を得ることにもなりうる。
元自由民主党の欧州議会議員で現在はシンクタンクの欧州政策センターに在籍するアンドリュー・ダフ氏は、解散総選挙という決断について、EU離脱交渉に向けて保守党内の「極右」勢力からの独立を勝ち取るためのメイ氏の計算ずくの賭けだと言う。「メイ氏の狙いは過激派、つまりメイ氏がEUと連合協定を結ぶのを阻もうと結集している武闘派を出し抜くことだ」と言う。
メイ氏の当初の計画では2020年5月に総選挙を迎える運びだった。英国の正式なEU離脱は19年3月の見通しだが、20年5月時点でもまだ「実施段階」の中でEUとの関係は続いている公算が大きい。