ユナイテッド航空引きずり下ろし事件、5つの問題点とトラブルに先制攻撃する方法

ユナイテッド航空の乗客が、暴力をふるわれ強制的に引きずり降ろされる事件の動画が、世間を震撼させました。いくつかの問題が絡み合っているこの事件を、アメリカ在住の作家・渡辺由佳里さんが考えます。

最悪の事件のいきさつと顛末

4月13日、ソーシャルメディアを通じてユナイテッド航空便での衝撃的な映像があっという間に全世界に広まった。
警官が、気を失っているようなアジア系の男性を通路で引きずっている。メガネがはずれかけている男性の顔からは血が流れていて、いきさつを見ていた女性客の“Oh my God! No. No. What’re you doing? This is wrong.(オーマイゴッド、やめて、やめて。なんてことしているの! あなたたちがやっているのは、まちがったことよ)”という抗議の声も聞こえる。


これは、シカゴからケンタッキーのルイビルに向かうユナイテッド航空便での出来事だった。血を流していた男性は、ベトナムから移住したケンタッキー在住のディヴィッド・ダオ医師だった。

当初、ユナイテッド航空はいきさつを次のように説明した。
オーバーブッキングで4つの席が必要になり、800ドルのバウチャーと交換に席を明け渡すボランティアを募集したが、誰も申し出てこなかった。 そこで乗客の中から4人をランダムに選び、3人は即座に応じた。だが、ダオ医師だけが「翌日患者を診なければならない」と降りるのを拒否した。
ユナイテッドのCEOが従業員に送った説明には、ダオ医師が「disruptive(破壊的で乱暴な行動)」で 「belligerent(好戦的)」と書かれている。そこで、ユナイテッド航空はやむなくシカゴ空港警察を呼んで強制的に飛行機から降ろした、という内容だった。

フライトを予約していても現れない客がいるのを見越して、航空会社は座席数以上のチケットを売る「オーバーブッキング」を敢えてする。オーバーブッキングで席が足りなくなったときに、ボランティアを募集し、それで現れないときにはランダムに客を選んで搭乗拒否をするのも合法的な措置である。
だが、後にわかったのは、この4席がオーバーブッキングではなく、翌朝勤務するユナイテッド航空の乗務員を乗せるためだったということだ。

後に出てきたビデオでは、ダオ医師は電話で弁護士からアドバイスを受けながら、「患者を診なければならないので、降りない」と警官に伝え、「私はここから動かない」、「降ろされるくらいなら、牢屋に行く」とも言っている。面倒な乗客には違いないが、「破壊的で好戦的な行動」とは言えない。
また、目撃した乗客は、警官のダオ医師への暴力的な行動が「まるで、人間以下の扱い」だったと語っている。

ダオ医師が雇用した弁護士によると、彼は脳震盪、鼻の骨折、歯を2本失う怪我をし、ユナイテッド航空を訴訟する準備をしているとのことだ。

最悪の事件の5つの問題

この事件には、いくつかの複雑な問題が絡んでいる。そこで、混乱を避けるために、問題を5つの観点に分けて考えてみよう。

①ユナイテッド航空にはチケット代を払った客を強制的に下ろす権利があるのか?

答えはイエス。少なくともこの時点での規則では、たとえすでに席についていても乗客のフライトを拒否する権利はある。

しかし、通常の航空会社は、オーバーブッキングの対応は搭乗前にすませる。ちゃんと席の数が確保されていることを確認したうえで搭乗させるのだ。そして、最終的に空いている席をスタンバイ客に与える。私は仕事やバケーションでよく飛行機を利用するが、いったん搭乗してから乗客がオーバーブッキングで降りさせられるのを目撃したことはない。
今回の場合は乗務員なのだから、調整が必要なのは前からわかっているはず。それを怠って客を一度搭乗させ、その後で無理やり降ろした手順は問題だ。

②降りるのを拒否したダオ医師が受けた扱いは当然の報いなのか?

酔って他の乗客や乗務員に暴力を振るうとか、武器を持っているとかいう場合は、乗客と乗務員の安全確保のために、手荒い扱いも許されるだろう。だが、ダオ医師の場合はそうではない。
乗客が威嚇もせず、暴力もふるっていないのに、怪我をするほどの手荒い扱いをする権利は航空会社にも警官にもない(ゆえに訴訟になる)だろう。

③ダオ医師は、マイノリティだから差別されたのか?

これは証明不可能なので、イエスともノーともいえない。
だが、私は、ユナイテッド航空の客室乗務員によるアジア系乗客への差別的態度を目撃しているので、アジア人差別を簡単に否定できない。

私が乗ったのもシカゴからのフライトだった。白人ハーフの娘と一緒に日本からボストンに戻るフライトで、シカゴまではANAだったのだが、シカゴからの国内便はスターアライアンスで提携しているユナイテッドだった。
アジア系の男性客が頭上の荷物棚に自分の荷物を入れようとして他の人の荷物を横に動かしていたところ、客室乗務員(黒人女性)が飛んできて「何やってるの!」と怒鳴りつけた。そして、ネチネチと嫌味を言い続ける。これは、アメリカなら誰でもよくやっていることなのに。ドリンクを配るときにも、二人の客室乗務員は、アジア系の客になると、明らかに見下した態度でじゃけんに扱った。飲み物を手渡すときも、放り投げる感じだ。
アメリカでは白人からマイノリティへの差別ばかりが話題になるが、じつはマイノリティ間での差別も存在する。2人の客室乗務員の言動は、それを実感する、あまりにも露骨な態度だった。
「怖いよね。こっちに来なければいいのに」と娘が耳元でささやいた。幸い(?)乱気流の影響で飲み物サービスが中断されたのだが、娘と一緒に「二度とユナイテッドには乗らない」と誓った体験だった。

④ユナイテッドは格別悪い航空会社なのか?

アジアやヨーロッパの航空会社と比較すると、アメリカの航空会社の評判は悪い。
だが、その中でもユナイテッドはランキングで最悪である。Sytraxのレーティングでは、なんと世界のワースト13位だ。
フライトはしょっちゅう遅れるし、楽器は壊すし、荷物は紛失するし、衣服が露出しすぎだという理由で子どもを含む女性の搭乗拒否もする。そのうえミスを謝らないことでも知られている。
今回の事件でも、CEOの最初の声明文は、「謝ったら非を認めたことになり、訴訟される」という典型的なアメリカ的態度だった。

この事件で良かったことと言えば、ボイコット運動まで起きたために、ユナイテッド航空がルールを変えたことだった。
これからは、乗務員が利用するためには出発の1時間前までに手続きをしなければならないことになった。そして、乗客は、いったん搭乗したら、強制的に降りさせられることはなくなるという。

⑤アメリカの航空会社のカスタマーサービスが悪い理由

ダオ医師の事件のほんの数日前のこと、私は夫に「なぜユナイテッドのカスタマーサービスは最悪なのかしら?」とぼやいた。飛行機に載せた楽器が壊された人のツイートを読み、レギング(スパッツ)を履いていた少女が「衣服が不適切」という理由で搭乗拒否をされた最近の事件を思い出したからだ。

夫はさらりとこう答えた。「アメリカのフライトは、アジアやヨーロッパでのバスの旅と同等だからさ」。
アジアやヨーロッパの航空会社では、客員乗務員は自分の仕事にプライドを持っている。だが、アメリカの航空会社では社員の待遇が悪い。だから、社員が乗客に対してそれに見合った扱いしかしないのではないか、というのだ。
この状況を変えるためには、アメリカの航空会社そのものが変わる必要があるが、価格競争だけが進んでいる現況では、改善を期待することはできない。

5つの観点をまとめると、適切な抗議活動(ボイコット運動)で航空会社の態度を変えることは可能だし、したほうがいいと思う。
しかし、航空会社の社員への待遇といった構造的な問題を解決することは難しい。 そこで、マイノリティの乗客としては、個人的に嫌な状況を避ける努力もしなければならない。

非道な扱いを受けないための実践的な2つの方法

では、私たちがアメリカの航空会社を利用するとき、ダオ医師のような扱いを受けないようにするためにはどうしたらいいのだろうか?

簡単なのは「航空会社にとって大切な客になる」ことだ。身も蓋もないが、航空会社にとっては商売なのだから。次のような実践的な2つの方法があることは、知っておいて損はないだろう。

①航空会社が優遇する乗客になる

航空会社が優遇するのは、ファーストクラス、エコノミークラスの特別席(足元が広い非常口の席など)、その航空会社のマイレージプログラムの上級会員(ANAのダイヤモンド、ユナイテッドのプレミア・プラチナムなど)、正規料金を払った人、である。
たいていの場合、席を明け渡す抽選の対象になるのは、格安チケットを購入した人だ。ゆえに、格安チケットを購入した時点で、オーバーブッキングで席を失う覚悟はしておいたほうがいい。

②マイレージプログラムに登録する

「そのときに一番得なチケットを取るからひとつの航空会社に決めたくない」とか「私はいつも仕事でビジネスクラスだから、マイレージを貯める必要はない」という意見をよく見かける。だが、マイレージを貯めてタダのチケットをもらうことだけが、マイレージプログラムの利点ではない。
上級会員になれば、その航空会社を頻繁に利用する「お得意さん」として、予約のときも、フライトがキャンセルになったときも、フライト中も丁重に扱ってもらえる。
それは、たいていの場合、提携している航空会社でもそうだ(ユナイテッドとANAはスターアライアンス、アメリカンとJALはワンワールドアライアンス)。

私は、長年アメリカン航空のマイレージプログラムに登録している。父の危篤ですぐに帰国しなければならなかったときに、アメリカンの顧客サービスに電話をしたら、「それはお気の毒です」と、オンライン予約サイトでは見つからなかったJALの直行便を、マイレージを使って予約してくれた。
ふだん悪評高いアメリカの航空会社でも、常連客には優しいのだ。

気持ちよく旅をするための心得。

とはいえ、すべての旅行で上記の対策を取ることはできない。
私が若い頃に海外に出かけたときには「超格安チケット」しか使わなかったし、今でもアメリカン航空と提携していない航空会社の格安チケットで旅をすることはある。

これまでにも何度か書いたが、1980年代から世界中を旅しているので、アジア系女性であることで、差別的扱いは数え切れないほど受けてきた。 悲しくて涙が出たことも、怒りに震えたことも、怖くて縮み上がったこともある。
だから、今回のユナイテッド航空の事件を知ったときには、「アジア系への差別だ」と怒りをおぼえた。「差別だという証拠はない」と反論する人はいるだろうが、この反応は、差別を実際に体験した者でなければ想像できないと思う。

差別的な扱いに対して、その場で言い返したこともある。だが、そのために事態を悪化させてしまったこともある。特に、「安全」が最優先される空港や機上では、どんなに理不尽でも反抗はやめたほうがいい。下手な抗議をすると、ダオ医師のように手荒く扱われたり、逮捕されたりすることもあるからだ。
抗議するとしたら、写真やビデオなどの証拠を集め、目撃者の連絡先を聞き、後で公式に行うのがいいだろう。

また、差別されなくても、アメリカの航空会社のカスタマーサービスは、日本の航空会社とは比べ物にならないほど悪い。それは現実なので、あまり期待しないのも重要だと思う。


心地よく旅するためには、自衛策を考えたほうがいい。具体的には次のような対策がある。

チケットによって制限はあるが、あらかじめネットで座席指定をしておく。そして、チェックインは早めにする。

次に、日本人には敷居が高いかもしれないが、嫌な扱いをされる前に「笑顔の先制攻撃」をしておく。それはどういうことか。
飛行機に乗ったらすぐに客員乗務員に笑顔で「Hello! How are you?」と挨拶する。何かしてもらったら、笑顔で「サンキュー」と言う。空いている席に移りたかったら、その前に尋ねる。
人は愛想良くしてくれている人には八つ当たりしにくい。これだけでも、ずいぶん対応が変わるものだ。

また、格安チケットの場合には、キャンセルやオーバーブッキングの可能性をスケジュールに組み込んでおくことが重要だ。そうすれば、嫌な状況をラッキーに変えることもできる。

私にも、そういう体験がある。

相手に期待せず、トラブルがもたらす偶然に期待を

1980年代に、ヨーロッパから日本に戻る途中の乗り換え地点でフライトがキャンセルされたことが二度あった。最初はシンガポールで、二度目は韓国だった。 貧乏旅行の終盤なので、もうお金がほとんど残っていない。超格安チケットのためか、航空会社はホテル代も出してくれない。
でも、どちらも初めて訪問する国だったので、開き直って冒険を楽しむことにした。 シンガポールでは、客室乗務員から安くて安全なYWCAのことを教えてもらい、韓国では、私と同じように困っている客4人でホテルに一緒に泊まった。とんでもなく辛い食べ物との遭遇をふくめて、良い思い出になった。

3年ほど前の南極旅行からの戻り道でも、突然のキャンセルがあった。船が無事ウシュアイアに着いたというのに、ラン・アルゼンチン航空がストライキした影響で、ブエノスアイレス便がすべてキャンセルとなっていた。こんな場合には航空会社がホテル代を支払う規則なので、カウンターの前には即座に何百メートルにも及ぶ長い行列ができた。 ほかにも情報を求めてさまよう人々で空港はごった返している。
だが、旅慣れている夫は、列には並ばず、電話で翌日の便を確保し、次にホテルに電話して予約を取った。 「列に並んでも、もらえるのは100ドル程度。ウシュアイアの宿泊施設の数は限られている。そのときになってからホテルを予約しようとしても、部屋がなくなっている。泊まる場所の確保が優先」と言うのだ。

私たちは混み合っている空港を後にし、ホテルにチェックインして荷物を置いてからチリとの国境までハイキングに出かけた。「侵入禁止」という立て札を横目で見つつ、1歩だけチリに足を踏み入れてドキドキすることもできた。

空港で1日を費やし、「突然キャンセルして、しかも100ドルしかくれないなんて、ひどい航空会社だ!」と怒るよりも、ずっと楽しい1日の過ごし方だったのは言うまでもない。

この連載について

初回を読む
アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む

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コメント

bluehornet97 確かに「笑顔の先制攻撃」はどこ行っても有効だと思う。 6分前 replyretweetfavorite

consaba 渡辺由佳里   15分前 replyretweetfavorite

pictureoffake 流石の見識、対応。これなら私にも出来るかも 必見 https://t.co/cqyFfmihxF 17分前 replyretweetfavorite

nobuhusababa 『この4席がオーバーブッキングではなく、翌朝勤務する 約1時間前 replyretweetfavorite