指導者について知るためには、彼らが掲げたマニフェスト(政権公約)を無視し、彼らを縛る制約をただ取り除けばいい。権力は人の意外な姿を明らかにする。絶対的な権力は絶対的に明らかにする。確かにこれは、誰かについて知る方法としては極端だが、英国人が試すには極端すぎることはない。
18日に発表された総選挙翌朝の6月9日には、メイ首相は第2次世界大戦以降、最も力のある首相になっているかもしれない。ブレア元首相は、不機嫌な財務相に手足を縛られた。サッチャー元首相は、まだ重要な存在だった労働組合に配慮しなければならなかった。メイ氏には、それに比肩するような邪魔者がいない。そして、同氏の率いる保守党に労働党の支持票全体にほぼ匹敵する差をつけている世論調査を信じるなら、議会が形式的な認可機関に成り下がるような圧倒的過半数を獲得する。
メイ氏は今後7週間、自身の国内改革にメディアの興味を引こうとし、失敗するだろう。今回の総選挙は名前を変えた欧州キャンペーンであり、ヒース元首相が1974年に自身の首相の座と労組の力のどちらかを選ぶよう有権者に求めた総選挙以来初のシングルイシュー(単一争点)選挙となる。実際、そうあるべきだ。英国民の将来にとって、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の条件は、どんな教育政策や財政緩和よりも重要だからだ。
メイ氏が勝利を収めても、それで買えるEUに対する影響力は無きに等しい。EUとしては、国内政治の思わぬ変化が、英国に厳しい離脱条件を課すEUの利益に影を落とすのを許すわけにはいかない。だが、総選挙での勝利により、メイ氏の政治的視野は2020年から2022年へと広がる。同氏は今、たとえ欧州から英国へ来る人の移動の自由の継続やEU予算への分担金拠出という代償を払っても、より長い時間をかけて加盟から非加盟へ移行する措置を検討できるようになった。怒れる有権者はメイ氏を選挙で罰するのを何年も待たねばならず、その頃には、同氏は田舎でのハイキングや(お気に入りの有名シェフのヨタム・)オットレンギのレシピを楽しむ快適な引退生活に入っているかもしれない。
また、圧倒的多数を押さえれば、メイ氏は自分がEUから獲得した離脱条件を議会で通過させることもできる。面倒な同僚から解放されるわけだ。
問題は、それがどの同僚か、ということだ。親EU派の一部は、絶対的な権力は穏健な管理主義者としてのメイ氏の本性を明らかにするとみている。同氏はかつてのEU残留派として、自分より右寄りの熱狂的な議員が今や議会で阻止できなくなった穏やかな離脱を形作ると考えている。18日の英ポンドの値動きは、この期待を反映していた。ドイツ銀行は英国に関する悲観的な成長予想を修正した。1つには、総選挙で「ハードブレグジット(強硬離脱)を要求する議員の影響力が弱まる」というのが、その理由だった。